いまは夕刻か……この冬も山場だな。おれは久しぶりに酒の酩酊から覚め、ゆったりと熱い湯船につかる。酒を抜いて少しは思案しないとな。
 おれ……盗賊のくせに王国軍の参謀とされた直人は行き詰っていた。いまは動けないし動くべきではない。積雪という大自然の脅威の前には、人や並みの化け物の小競り合いなど、取るに足らないのだ。
 それなのにここ、魔法のような文明圏の都市で、ぬくぬく温まっているとは怠惰で腑抜け極まるというものだが。
 
 疫病の脅威にさらされた辺境の村民の救助そのものは、魔女の真理の浮遊とか瞬間移動魔法で薬を届けられたが、なにぶん病人だらけでは生活できない。
 だから世話を兵士に任せるしかなかった。数百名規模の村々数十箇所、総計一万に近い人口、いちいちたった十名しかいない士官将官組みが現場に出られない。
 せめてモラルのある兵士を下士官待遇で任官して兵士をまとめ派遣しないと。しかし脱走に物資の着服はまだ黙視できても、許せない略奪や凌辱くらいごろつきと大差ない王国兵はやりかねない。
 真理の千里眼監視が必須だった……彼女一人に負担ばかりかかる。毎日働き詰めで泥のように数時間眠り、俄然責任感を捨てない真面目な魔女。酒も煙草も博打もしない潔癖な乙女……
 
「直人! 起きなさいよ!」
 真理の声に起きた。寝落ちしていたか。なんかおれは湯から出され、ゆったりしたガウンを着せられてリビングの快適なソファーの上に寝かされていた。
 ここで急報を真理は訴えた。
「派遣された兵士たちが疫病に感染してしまった村が出たの! 誰も動けない状態よ、このままでは村は全滅する!」
 神官涼平が真っ先に応じた。
「俺が出向く! 治癒魔法使って、できる限り対処する」
「それも危険よ! これが進化した細菌による疫病とすると……薬だけでは無効だし、魔法で対処はどうしても数的に力不足。涼平だけだとね」
 ここで公星が申し出た。
「私におまかせを……私なら疫病に耐性がありますから。現地へ赴いても無事なのはおそらく私だけです」
「感謝してお任せするよ、殊勝な生きる保存食だな」
「涼平、ダメよ本音言っては! それよりハムちゃんの旅の安全のために、魔法の硬貨をせっかくだから預けるわね。魔法の力場。ほんとうは姿が透明になる指輪の方が効果的だけど、ハムちゃんの肉球の手にはつけられない」
「ミートボールとは失礼な! 食肉扱いは止めていただきたいですね。では真理さん、私をその村へ飛ばしてください」
「いまの私にそれだけの魔力ないわ! 疲れているし、ハムちゃん100kgなんて無理!」
「ではこの雪の中を歩いていけと? ……いいでしょう。これが運命なら私は逃げません。平和のための真なる戦いです」
 
 こうして公星は単騎任務を帯び出て行った……一部始終は、魔法の窓に映し出された。ここで!
 ウゥオオォォ……ン……     遠吠えか、狼? せっかくの食材を……
「ヤバい、逃げろハム!」
 おれたち(とくにメリル)は口々に叫んでいたが、時すでに遅し。ハムは一瞬にして牙に掛かった。狼と思いきや、人狼か、強い!
 万能ハムを一撃とは……なんという実力。まさか魔法の力場すら通用しないとは。神のごとき心身の強靭さ。知性も体力も意志力も満ちている証拠。なにもの!
 しかしロップたんは喜んでいる。
「あの子可愛い! 仲間にするのに案問わぬなの~」
「王国情報網検索できた。アナザーデッキのアントワーヌらしいわ。アントワープなら知っているけど」
「落ちを先に言われると怒っちゃうなの~!」
 ……いまはモラルとTPOに欠けるおれですら、ジョークかましていられる時とは思えないが……
 
 
公星 すまいるまいるさん

ロップたん にゃんたれママさん

メリル 初孤羅さん

アントワーヌ 片桐啓治さん
 
 
後書き ひさびさの更新。なんかお気楽に作っているこのストーリーは、つくづく怠惰だな。コラボ作なので、みなさんのキャラをもっと活躍させなくては。とりあえずハムスター、ウサギ、ネコ、オオカミはそろいました。