Tada's blog -12ページ目

虫時雨(むししぐれ)

【左脳で聞く音】

 「虫時雨」とは、鳴きしきる虫の音を時雨の音に例えていったものです。
 時雨は、降ったり止んだりする小雨のことです。
 音を時雨に例えたものには、他に「蝉時雨」や「川音の時雨」があります。
 日本人は、虫の鳴き声を左脳でも聞く数少ない民族だそうです。
 右脳しか使わなければ、単なる物音や雑音としてしか聞こえない虫の鳴き声を、
日本人は、虫の「声」として言葉として聞いているのですね。
 右脳で感じた音を左脳で翻訳し、また、右脳で感じるという作業を繰り返しているのだと
思います。
 それは、相手の言った言葉から、その気持ちを汲み取る作業と似ています。
 あなたは、虫たちの声から、どんなメッセージを汲み取りますか?

月鈴子(げつれいし)

【月から降ってきた鈴】

 鈴虫の異称で、他に金鐘児、月鈴児ともいわれます。
 鈴虫と松虫が、今と逆でしたが、平安時代から親しまれてきました。
 「虫は鈴むし。ひぐらし。蝶。松虫。・・・」(枕草子)

 江戸時代には、すでに飼育されたり、売られたりしていたようです。
 だからこそ、子供に見立てた名前で呼ぶ程、愛着が湧いたのかもしれません。
 どんな虫でもそうですが、最後の羽化を終えた直後の真っ白な姿は、
この世のものとは思えない程の美しさです。
 それまで何度も脱皮を繰り返し、やっと成虫になった瞬間。
 それを思うと、「リーン、リーン」と美しく鳴く声が、月から降ってきた鈴の音のように
聞こえてきます。

蛁蟟(つくつくぼうし)

【心の翻訳家】

 つくつくぼうしと思い込んで聴くと、そうとしか聞こえません。
 でも、昔の人は、さまざまな聞き方をしたようです。
 旅の途中、病気で亡くなった筑紫の人の魂が、蝉になって、
「筑紫恋し、筑紫恋し」と鳴く、という伝説があります。
 「美し、佳し」と聞いた人、「つくづく惜し」と聞いた人、
「つくづく憂し(つらい)」と聞いた人。
 蛁蟟だけではありません。ミンミンゼミは「見う見う(会いたい会いたい)」
と鳴き、クマゼミは、「然し然し(そうだそうだ)」と鳴いたそうです。
 今では、音を写し取るだけの鳴き声も、昔は言葉として聞いたのですね。
 自然と会話をする中で、自分を見つめ直していたのかもしれません。
 蛁蟟の鳴き声、あなたにはどう聞こえますか?