一昨日のブログで書いた通り、先週はSUMCOを購入しました。今週は東京エレクトロン、エヌビディア、アプライド・マテリアルズなどの決算発表を控えているので、最近の市場は積極的に半導体株に向かってはいません。それもあってSUMCOも10%弱の株価下落がありました。少しリスク許容度を上げて購入したのですが、僕なりの狙いを皆さんに共有したいと思います。少し長めの文章ですが、半導体銘柄に関心がなかったとしても、僕の思考プロセスを追うことで銘柄選考のヒントになれば嬉しいです。
半導体分野への投資熱が若干過熱気味ということで調整局面を迎えているとの指摘もあります。ただ、このようなニュースはそのまま鵜呑みにはできません。一般化されたニュースで市場が動いた場合、個別要因で割安銘柄が出てくることがあるからです(リスクは高めですが)
日本でも東京エレクトロンを代表とする半導体装置メーカが絶好調で、最近は少し軟調ではありますが、これまで株価は急ピッチで上昇してきました。その背景には業界団体であるSEMIなどの見立ての甘さもあり、市場の期待を上回るパフォーマンスが見られたこともあるかと思います。
SEMIは2021年の半導体設備投資は年初の段階で前年比4%増と予測していました。ところが7月の最新予測では34%増へと修正しています。金額にして200億ドル以上の増加です。設備投資は戦略性や機密性が高い情報ですから、業界団体の予想は好調時には過小予測となり景気後退前では過大予測になる傾向があります。ただ、株式市場はこの30%程度の差異を既に織り込んでいたようで市場メカニズムは結果的に効率的に機能していたようです。期待を織り込んでしまったセクターですから、サプライズがない限りは調整があっても不思議はありません(ここがリスクです)
ところで、半導体の設備投資の金額は上位3社であるサムスン、TSMC、そしてインテルだけで全体の6割以上を占めています。ただ、面白いのは残りの約4割ですね。米中摩擦の激化で中国は最先端の半導体設備の導入ができません。ですから彼らはパワーデバイスなど最先端の微細プロセスが要求されない分野で投資を拡大しています。日本の露光装置メーカはASML(蘭)に最先端分野では引き離されてしまいましたがレガシー分野では経営の失敗にも関わらず恩恵を受ける結果になりました。大変残念な話ですが、決断できずに機会損失を繰り返し、過去の遺産を食いつぶしていたら、残存者利益が舞い降りてきた・・・という類の話です。
さて、ご存じの通り今は半導体不足があらゆる産業に影響を与えています。何年も前からそのことはニュースになっていましたから、日本では野心的なフェローテックやRSテクノロジーズが中国にプライム・ウエハや再生ウエハの設備投資を進めていたわけです。彼らも200mm~300mmウエハの生産をするわけですが、これらはロジック向けのハイエンド・ウエハではありません。設計ルールでいうとレガシーに分類されるような10nm~40nm以上のものに使われます。現下の半導体市況を反映して将来の競合会社が増えている状況ですが、今は早いもの勝ちの様相を呈しています。
以前、僕はフェローテックのアグレッシブな成長戦略は評価に値すると書きましたが、同時に長期投資の候補に、今のところは入れていないと書きました。その理由は参入障壁の低さにあります。フェローテックは戦略的には果敢ですが、技術力に的を絞ると絶賛する程の評価はしていません。ですから、果敢な経営スタイルによって、業績がプラスに転じる段階では高い経営リスクに見合った利益率の向上が実現し株価も急上昇をする傾向があります。一方、過剰投資の歴史が繰り返されている中国が主戦場であるため、景気後退局面での利益率悪化のペースも非常に急峻な下り坂を示す傾向があるのです。半導体ウエハの製造は中国のあちこちで始まっています。将来の競争激化、利益率の低下をどのように乗り越えるのかが問われることになります。フェローテックは太陽電池バブルの時も自信満々でしたが、信じがたいほどの大失敗を演じました。そこからどれだけ学びがあったかが試されることになります。ですから、半導体株にあまり詳しくない方々には僕はフェローテックなどはお薦めはしない、と書いてきました(フェローテックは少し前に外部コンサル会社と契約し、この部分のリスクを軽減する施策を講じたので、短期的な株価上昇を予想してブログに上げました)
レガシー分野の設備投資の活発化には半導体ウエハ不足が密接に関係しています。チップを形成するウエハ自体がまだ十分に手に入らない状況がそれなりに続くので、チップメーカは設計ルールを微細化することでウエハ一枚からとれるチップ個数の増加を目論んでいるのです。これが半導体設備投資の急激な上昇を後押ししています。注意点は数年後にはウエハの増産投資とチップの微細化投資のダブルの効果が出て、半導体市場のバブルが少なくとも部分的に崩れる事態が予想されます(コモディティー寄りで過当競争が予想される企業群は厳しいという意味です)。でも「音楽が流れている間は踊り続ける」というのが投資の世界ですね。どの分野が崩れ、どの分野で成長が続くのかを見極める必要があります。それは一言で表すと「参入障壁の高さで決まる」と思います。
世界的な半導体不足の中でも高性能ロジックの不足は深刻です。そして10nm以下の設計ルールが適用される高性能ロジックの製造に使われるプライム・ウエハを作ることができる企業は世界で信越化学とSUMCOしかありません。この断トツの二社の内でも、信越化学は技術力やOBも含めた機密情報管理の徹底力でSUMCOを凌ぐと言われています。
ご存じの通り、信越化学は化学メーカとして塩ビなどウエハ以外にも競争力のある主力製品をたくさん抱えています。1970年代は苦労したようですが、すばらしい経営者が多くいたことで現在に至っているようです。ですので、株価の乱高下は比較的に少なく、あのお手本のような財務諸表もあって、投資初心者にも安心して薦められる優良銘柄となります。それに対してSUMCOはほぼ半導体ウエハに特化したメーカになり株価は乱高下します。あっという間に株価が半分になることは十分にあり得ますから、投資初心者にはお薦めはできない銘柄となります。
そのような少しリスクの高い銘柄なのですが、僕は今、SUMCOに注目しているのです。現下、このSUMCOの株価は半導体ブームの中にあって、あまり奮っていません。決算発表の内容も連続して今一です。投資家たちは失望気味だと思われます。ただし、僕の考えでは、決算発表が面白くないのは当たり前だと思います。彼らのビジネス環境は絶好調ですが、2021年のウエハ契約価格は2020年と同レベルとなっていました。これは不思議なことで交渉力に弱点があるのかと勘繰りたくなります。それとも業界では信越化学に主導権があるのかも知れません。ただ、信越化学が利益を犠牲にする理由も見当たりません。この辺りの未知な部分が不安要素ではあります。いずれにしても今は来年以降に向けての価格協議が年末まで続く過程にあります。ですから、グリーンフィールド(更地からの投資)での新工場投資についても歯切れが悪いわけです。彼らはウエハ単価が50%~60%上がらなければ新工場建設は難しいという立場を取っているからです。しかし、新工場を建設しない限り、旺盛なロジック向けの需要は到底賄えないという状況で、SUMCOとしては新工場建設を進める以外に成長する手立てはありません。この辺りが信越化学と異なり、ウエハ専業であるSUMCOの顧客交渉を難しくしているのでしょう。最近のブログ「半導体株は大丈夫?【短期投資】」でも指摘したように3か月毎に更新されるウエハのスポット価格はまだ低位で推移しています。顧客たちと厳しい価格交渉をしている最中に景気の良い決算発表などする訳がないですね(オーナー社長なら別ですが)。短気な投資家は歯切れの悪い決算発表に失望して売っているのです。加えて昨年はウエハ生産の歩留まり低下に苦しみましたし、今年の1月-3月には施設のメンテで稼働率が低下したようです。これらも不安材料として投資家の頭にあるかと思います。でも、僕はこの程度の悲観はチャンスだと考えています。
僕の見立てでは現在のSUMCOの株価2,300円以下の水準は過小評価されたものだと思います。最近の悲観によって今後のウエハ価格上昇が織り込まれた価格にはなっていないと。EBITDAなどから計算しても今の適正価格は2,800円程度で全く問題ないと思います。これからスポット価格は上昇していきますし、来年以降の長期契約価格は半導体不足の状況下では間違いなく上昇する方向です。ですから年末から来春にかけて株価は3,000円を超えていく展開を予想していますし、金融危機が起きない限りはその可能性はかなり高いと見ています。僕がウォッチしている半導体銘柄で、過小評価の状態で、しかも流動性リスクが低い銘柄の筆頭はSUMCOです。今週の半導体関連株の決算によって調整があると更に10%程度下がる可能性はありますが、下値幅は限定的だと思いますので、秋以降の上昇の魅力の方が大きいと思うのです。効率的市場仮説が正しい場合は、今の株価は僕が知らない事実を織り込んで下がっていることになりますが・・・(これもリスクです)
やはり半導体株は怖いという方には花王やJR東海、JR東をお薦めします。今後の1年程度であれば、花王やJRの株も20%~40%程度の上昇は十分にあり得そうです。年率20%なんて今のような特殊環境でなければ簡単には叩き出せませんから、一考の価値はあるかと思います。ワクチンを打っても感染が減るかどうか分かりませんし、打った場合でも次のブースターを打つのが来年になるとその結果を的確に予想するのは無理です。だとしても、1年のスパンで見た場合、経済が好転する前にこれらの株が期待の中で上昇する可能性は十分です。勿論、Risk-Reward視点で、どの選択に優位性があるかは自分なりに考えて判断されることを、こられの銘柄に限らずお勧め致します。
最後に僕ならどうするかをお伝えします。SUMCOの株価は短期的な下落があったとしても年末から来春にかけてウエハ価格交渉妥結の期待で上昇するという想定でいます。そして、それで上がった時に売却し、その後に、寒さと乾燥でパンデミック心理が悪化して下落しているかもしれない花王や鉄道株などのポスト・パンデミック銘柄を買い向かう予定です。これは別に半導体セクター、化学セクター、輸送関連などの間だけで成り立つ考え方ではありません。マネーフローを追うことでリスクを抑えながらリターンを大きくすることが可能だというのが僕の考えです。大きな流れを想定しながら、状況の変化に応じて戦略や戦術を修正していけば多くのシュミレーションを無理なく実行できると思います。一つの銘柄で40%の利益を狙うよりも、割安の銘柄で20%の利益を2回狙う方がハードルは低いと思います。参考になれば幸いです。