今日は為替と物価を切り口に日本で何が求められているのかを考えてみたいと思います。長期投資をする際、避けては通れないトピックだと思いますので、僕の意見に賛成でも反対でも、問題意識を持っていただければ嬉しいです。
毎年、為替のアナリストが年間の為替予想を出したりしますが、いつも円高派と円安派がいます。そして、双方がもっともらしい分析をします。でも、為替は影響する要因が多くあるので、予測が1年位の期間で当たる確率は50-50と見てよいと思います。だから、アナリストの予想が外れても次の年もまた同じ人たちの予想が紹介されます。確率的には2年に一回は当たりそうですね。仮に予想を外し続けても、事後分析が詳しくされることも特にありません。
ただ、物事の基本原理は通常はシンプルです。
よく出る話に購買力平価(PPP: Purchasing Power Parity)がありますね。自由貿易下では、これが一番シンプルな為替動向の説明だと僕は思います。
例えば米国で買うボールペンが1ドルで日本では同じ物が100円だったとします。この場合は単純化した世界では1ドル=100円のレートになりますね。同じ製品が30年後に物価上昇で米国では2ドル、日本では物価が上がらずに100円のままだったとします。もし1ドルが100円のままなら、日本でボールペンを調達して米国で2ドルで売れば稼ぐことが出来ます。でも実際には、儲け話があると多くの人たちが利益が出る限りは同じことをするので、円の需要が高まって為替変動が起こり、1ドルは50円という風に円高になります。効率的な市場では、結局は両国で同じボールペンは同じ価格になる。これが購買力平価から為替を割り出す考え方です。
米国の物価は年率2%くらいで上昇しますから30年で2倍近くになります。すると、物価がほとんど上がらない日本では、ずっと30年の間、円高が進んだ筈ですね。
傾向としては円高ですが、実際には名目の為替は110円を中心に±10%程度で推移しています。要するに購買力平価の考えからすると、明らかに日本は円安に誘導されていることになり、実質的な購買力が低下しているわけです。じわじわと日本円の価値が目減りしているということですね。
これは海外に行くと痛感します。僕は出張でシリコンバレーの辺りによく行っていましたが、ホテル代が一泊300ドルとか400ドルもするのです。日本なら1万5千円とか2万円以下なのですが。
日本は現時点では資源国ではありませんので、エネルギーや原材料の多くを輸入しています。ですから、円安は、大手の輸出企業に与える恩恵よりも、中小企業や一般消費者へのマイナス影響の方が大きいと思います。自由貿易で世界中から円安でも買える物ばかり選ぶのではなく、良い物を円高、即ち、高い購買力で、安く買う方が消費者にはメリットが大きいと思うのです。そもそも大手企業は製造・生産の最適地をグローバル規模で探す力があります。外貨で利益をプールすることも可能です。そういう観点では、購買力平価から割り出す為替レートよりも円安に誘導されている現在の日本円は僕たち消費者やグローバル展開が難しい中小企業にとってはマイナスの方が大きいと言えそうです。
参考までに言いますと、GDPに占める日本の輸出の割合は16~18%程度で、よく比較されるドイツの3割程度しかありません。お隣の韓国も40%を超えています。米国は12%程度ですから、製造空洞化の話が2000年代に出た米国の後を日本のDataは追っているようです。オバマ政権やトランプ政権でMade in Americaへの回帰が叫ばれましたが現実と政治のレトリックは違うということですね。米国企業の復活は製造は台湾や他のアジアに任せて設計やIdeaなどに集中した結果です。ソフト関連の教育も圧倒的で人材が豊富なのでベンチャー企業の生成が途切れません。
日本では物価が上がらないことが問題視されて久しいですが、そもそもこれはどうしてでしょう。アベノミクスで好景気が続いたと言われたりもしましたが、それは株を保有する人たちが恩恵を受けるような好景気でした。一般レベルではその実感を持てた人は少数だと思います。これはとても簡単な話で、物の値段を上げると売れなくなると考える売り手が多かったからです。イコールそれは、「景気が良くなかったから」なのだと思います。景気が良ければ、人手不足や材料不足など様々な要因で価格上昇が消費者物価に反映され、しかも高くなっても物は売れるのです。好景気とはそういうものなのです。僕たちは1990年代からの長い間、好景気を知らずに生きているので、少しずつ物価が上がる=景気が良い、ということを肌感覚として理解できない状態なのです。
このような状況を見て、僕は心配していることがあります。それは、物価上昇が内需主導で起きるのではなく、円安や海外での物価上昇による(食料価格、コモディティー価格、石油価格の高騰、等)、外からの圧力で仕方なく発生することです。これはとても厄介だと思います。何故なら、日本の景気が良くなくても、物の値段が上がってしまい国内の経済政策の効力が消されてしまうからです。為替の強さは国力と相関関係にありますから、もし日本の国力が弱くなれば円安が進みます。大企業ならば蓄積した資本とグローバル展開でやっていけるでしょうが、日本の99%以上を占める中小企業は大きな打撃を受けると思います。原材料が上がっても売る為に利益度外視で仕事をしたり、値段で叩き合うフィールドで低賃金長時間労働の構造が続いてしまうということです。本当は円高でも圧倒的な強さで戦えるフィールドで戦わなければならないというのが本筋だと思うのです。プラザ合意を経た後も、しばらくの間、日本は1ドル360円時代から80円時代までの過酷な円高環境でも競争力を維持して戦って勝利した歴史があるのですから。
僕は人口減少自体は、AIやロボットなどを駆使して付加価値の高い仕事を極めていくことで日本の将来は明るくできると思います。大きな人数を抱える大企業でなくても少数精鋭でグローバルを相手に戦える可能性は十分にあります。そしてそのような会社や集団が日本には求められていると僕は思います。また、グローバルでなくとも時代を見極めて1億2千万人の人口からくる内需をうまく取り込むことでシェアを伸ばして成長するような会社も出てくるでしょう。恐らく優秀な経営者が機動的に動ける比較的に小さな会社、少数精鋭でもやっていけるビジネスモデルにチャンスがあると思います。そうして一人当たりのGDPを上げれば、個々の日本人、または日本在住者は快適な暮らしができると思うのです。
ですが、日本でのデフレや円安が、外からのインフレを誘発しかねないことをとても心配しています。日本の財政を見ても、そのようなことが一旦本格的に始まると人為的に制御することは相当に難しいと思います。これまでの日銀の異次元金融緩和は、人為的にお金の供給量を増やせば物価が徐々に上がるということを目論んでいた筈です。結果は、活気溢れるビジネスを創造するためにお金が回るというよりもスルガ銀行とシェアハウスの事件のような不正融資、過剰融資が起きるような歪を生んでしまったのではないでしょうか。すべてではないにしても、本末が正に転倒してしまっているのです。いづれにしても人為的に都合よく経済を制御するのは難しく、OvershootやUndershoot、更に目的外の問題を生んでしまうのでしょう。物価を徐々に上げたい場合は、闇雲にお金をばらまくのではなく、教育も含めてマインドセット、スキル、環境、法律などを整えながら景気を浮上させることが順序としては正しいのではないでしょうか。物価上昇は好景気の結果だと思うからです。社会的雰囲気や人々のマインドセットにしても、大学を卒業して就職を数年しなければ敗者になるという流れは若者の挑戦する意欲を阻害してしまうと思います。
金融緩和で億り人が多く生まれたと思いますが、数億円を持っていても、恐らく派手に使うようなことはせず、多くの億り人は将来のために質素な生活をし、残業やストレスのない生活を個人レベルで満喫するためにFIREを目指したり、実際にFIREを達成しているのでしょう。本来は、世界をよりよくするために面白くて楽しい会社やボランティア団体などが次から次へと生まれてくることが日本社会全体のために望ましいと思います。大学に行ったからには専門性を活かして世の中を変えるような起業家になる、なんてことがあちこちから聞こえてくるような社会です。仕事イコール楽しい、という社会を実現したいですね。そのような会社はビジネスモデルがしっかりとしていて情熱ある社員が稼ぎまくっている筈です。そして社会に対して直接的・間接的に様々な還元もしていることでしょうね。起業家と投資家が相互に刺激し合う社会になれば日本の成長は加速するだろうと思います。