今世紀になって地方再生の1つの手段とみられているのがアニメとの連携である。
おそらくその先駆けは『らき☆すた』の埼玉県鷲宮町(現久喜市)ではないかと思う。アニメにかなり精密な町の再現場面がある。そして、現時点で最もその成功例とみられるのが『ガールズ&パンツァー』の聖地、茨城県大洗町である。ここでのアニメでの町並み再現の精度は非常に高い。そのため巡礼者も多いようだ。ほかには『けいおん!』の滋賀県豊郷町などがある。
現在のアニメとは違うが『ゲゲゲの鬼太郎』の境港も成功例と言える。アニメに拘らなければ、ウルトラマンの生まれた祖師谷などもある。
大洗町の成功は何かというと、実はアニメだけの話ではない。ここに1冊のインタビューをまとめた本がある。
本書によれば、如何に町おこしとして『ガルパン』に期待し、かつ町民がその支持者として巡礼者と同列になっていったかがわかる。彼らは巡礼者を同士として扱っていくようになるのである。単にお金を落としてくれるお客という意識ではない。そして、製作者側も町側もどちらも、復興としての意気込みはあったが成功するかどうかは未知数だったという。
逆に失敗の代表例としてNHKの「クローズアップ現代」でも扱われたのが『輪廻のラグランジェ』である。数学と物理学に長けたフランスが誇る歴史的天才ラグランジュ(本来の発音はこちら)は自分の名がこんな形で使われるとはさすがに思わなかっただろう。千葉県鴨川市が大映の怪獣映画『ガメラ対ジグラ』ではとっくに効果が切れたのか、アニメとの連携を試みた。しかし、大洗よりも都心に近いにも関わらず巡礼者はほとんどいないらしい。
成功した事例を見ていると以下の要件が外せないように思う(最後のは補強的意味合い)
・アニメそのものが質と人気が高い(ファンが没入できるキャラクターと展開)
・町、巡礼者、製作者の同士感
・アニメと同じ町の雰囲気づくり
・近隣に大都市圏があるかアクセスがある程度よい
・定期的イベントの継続
・他の組織の協賛(『ガルパン』では陸自が協力)
ただ、聖地といっても最長でも10年に満たない。長年続けていくとマンネリ化や終わったコンテンツとみなされてどうなるかわからない(『けいおん!』は既にそうみなされている模様)。トレンドの変化や今、巡礼をしている人たちが高齢化したとき、次の世代に果たして同じように響くかどうかはわからないのである(『ゲゲゲの鬼太郎』は少なくとも3世代から4世代はリメークされている特異な例と言える)。他の町がアニメによる町おこしを考えた場合に成功のためのアドバイスがあるか、と訊かれた大洗の人や製作者も全員、わからないと答えている。
町の活性化の指標として、このインタビューでは特に指摘されていないが、アニメによって人口減が鈍ったかどうかが重要と思う。ガルパンのファンで大洗へ移住した人がいると聞くが、今のところ、人口減が鈍った感じはない。まだ聖地巡礼が始まって日が浅いので早計なのはたしかだが、景気の問題だけでなく、人口減をいかに食い止めるかが自治体運営では今後重要である。聖地化でそれが鈍化するとか逆転するとかまでの勢いが得られるかは今後の経過によるが、厳しいだろうというのが予測だ。観光によって支えられる数はそれほど多くないだろうからである。(大洗町の規模なら可能か)
縁結びで有名な出雲大社は昨年は800万人の観光客があったが、それでも大きな都市になる気配はない。あれだけ有名な『幸せの黄色いハンカチ』でさえ、夕張を元気にはできていない。大林監督の尾道三部作も、その後のアニメ『かみちゅ!』も尾道の衰退を止められない。『北の国から』は富良野を全国的に有名にしたが、それだけではやはり厳しく、ラベンダーの展開や丘の町美瑛との連携、さらには『風のガーデン』と継続的な展開を必要としている。それでも富良野の人口は減り続けた(今年やっと止まっている状況)。地場産業の農業主体の観光でもやっとこの状況。やはり強い生産的産業がないと厳しい。
上記のようにアニメで町おこしを自分の故郷に期待することは難しい。まず、再現する価値があるほど商店街が残っていないし、多くの産業住宅はすでに更地になっている。つまり町がもうほとんど姿を保っていない。大都市からのアクセスも悪い。残された高齢住民がアニメファンと同士感を持てるかどうかもかなり疑問である。大洗のこの対応をできるかと言われれば心許ない。
http://www.excite.co.jp/News/reviewmov/20130522/E1369153531767.html
正直、私自身、アニメファンと仲良しになれるかというとその気がしない。アニメを毛嫌いなどしていないが、巡礼するほど入れ込むことはちょっと考えにくい(大洗でもファン層の行動が不安視されたが、ファンのマナーの良さに驚いたという。ボランティアをする人もいるという)。
私見では、アニメ、という時代を反映しやすいものでの町おこしは本質的に無理と思う(映画が衰退したようにアニメが衰退しないという保障も無いし、別のものが流行するかもしれない)。一時的には可能であっても永続させていくのが難しい(その町の産業がアニメになっている場合は別。『銀の匙』など)。町役場への意見箱にこれも意見として出そうかと思ったが、どう考えてもこっちでの成功は望めそうもない、別のもっと地に足がついた方向で考えた方がいいとの結論となった。
アニメ1話30分として製作に2千万円かかるそうで、何話にするか、その他宣伝やグッズ販促などの活動経費ほかを考えると小さな自治体では決して負担の少ない事業ではない。
もう1つ。今の倍もの人口があった昔に戻ることが本当にいいことかも疑問である。これからは少ない人口でゆとりのある土地を持って優雅に暮らすような考えで田舎町としての生き残る道を考えた方がいいだろうとも思っている。都会ではなく地方で生きていくこととはそういうスタイルだということだろう。
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聖地巡礼についての取材が別にあった。
http://diamond.jp/articles/-/71868
この場合は地場産業との関係が強く、見込みは高いが、さらに後継ぎまで得られるぐらいになると自治体にとっては大きいだろう。
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本ブログはアクセス数は少ない。記事を挙げたときは上がるが、通常は30とか40程度(これでも当初の10倍なのだが)。これまで村上春樹関係で200前後をうろつくのが大体限界。それが400をあっさり超えた。しかも、この記事の閲覧数が251に対し、その次が9。いかに違うかがはっきりとわかる。こんな桁外れ現象は初めて。恐るべきアニメパワーである。(『ガルパン』はYouTubeで部分的に見ただけだが、よくできていて面白い。人気があるのも理解できる。が、DVDやグッズを買う気にはなれない。それより欲しい国内外の専門書籍が山ほどある)
なお、『ガルパン』で最もウケたのは黒森峰という高校名。ドイツの戦車が多いが、まさかシュバルツヴァルト(現地に行くと黒く深い森をたたえた山地がある。その東にはドイツアルペンスキーの聖地ガルミッシュ・パルテンキルヘンがある)をネタにするとは思いもしなかった。こういう気の利いたセンスがあちこちにあるのにはとにかく感心した。製作者の力量と手抜きの無さがよく伝わって来る。
一番魅力を感じる登場人物は西住まほ。MVPらしい雰囲気だ。