『大学への数学』とともに『数学セミナー』について何度か触れた。前者が大学受験範囲なのに対し、後者はもともと大学以上の内容が記事の中心だ。
受験範囲としては『大数』の「宿題」コーナーが一番難しいが、その様子が昔と今では違うことは既に書いた。今もそうだろうが、「宿題」で満足しない人たちは『数セミ』の「エレガントな解答をもとむ」を目指すようだ。
何かにつけランキングや、一たび定量化されたものについては上位を目指すのが好きな人が多い日本人。社会人になってもいろいろな資格試験の点数やランキングを競う姿がネット上などでよく見受けられる。
数学においてはそれが「宿題」や「エレ解」のように思われる。
「宿題」の安定的な難易度に対し、「エレ解」の難易度はまちまちで、必ずしも難しい問題ばかりではないし、問題も数学の問題とは趣の違う出題のされ方をするので、どちらかと言えば少し特殊だ。
ただ、決定的に違うことがある。「エレ解」では主に大学の講師陣から直接、大学の数学を背景とした問題が出され、ある意味、交流がなされる点である。最高学府と学問について交流できる場はそうはないだろう。その1つが、それも誰でも参加可能なのが「エレ解」なわけである。
しかも、その歴史は創刊以来続いている。言ってみれば「エレ解」ひいては『数セミ』は日本の数学の文化と言うことができるだろう。最先端の研究記事と一般人との交流が両立しているのは本誌しかない。
しかし、疑問もある。「エレ解」の正解者はかなり常連と準常連で占められている。数学ばかりに現をぬかすわけにもいかないから、結局、時間切れなどで断念している人や最初から諦めてしまう人も少なくないのだろうと思う。でなければ、これほど少数の常連による固定化は起きないからだ。
ネットを見ると東大などの問題の解答といったものを延々と示している人もいれば、「エレ解」の自分の解答を出している人もいる。言ってみれば数学オタクである。
常連の人たちは永くそれを趣味としてきただけの話で、特に何か誇示する意味でやってはいないだろう。むしろ、ときどき投稿する人間の方にそういう人が多いように思える。そういう人たちは数学を楽しむことより、常連として名を残すことが目的なのかも知れない。中には教育関係の仕事をしていて、その必要性がある人もいるようだ。
これらよりも上の数学の問題を解いて世に知らしめる場が別に現れるのかどうかはわからないが、もし出たら、またそこが数学オタクの巣窟になるのだろう。そういう意味で現在は「エレ解」と「宿題」がその受け皿となっているようだ。
さて、「エレ解」に以前に1度だけ出して、正解者として名前が出た私も数学オタクだろうか。実は、所在地を故郷の町にした。住んでいる場所への思い入れは全くないし、むしろ寂れる一方の故郷の名を知らしめたいという思いがあった。『大数』に出身地名が載ったのもおそらく私の1回切りではないかと思うが、「エレ解」でも最初で最後ではないかと思う。町の書店には『数セミ』はもう並んでいない。私も年を取った。次の未来を考え、私なんか軽く越える若者が故郷から出てきてほしいのだが。。。
※数学雑誌ではほかに現代数学社刊『現代数学』(一時期『理系の数学』と改名)がある。内容は大学から大学院にかけてのものだが、高校の範囲の記事が入ることもある。それに触れていないのは片手落ちではないかと思う人がいるだろう。残念ながら、この雑誌は私の町にはほとんど出回ったことがない。近くの書店では大数は1冊入ってくる程度。数セミも同じだが、数セミは増刊号含めバックナンバーがおかれていた。それもなかなか捌けていかず、しばらく経って私が面白い号を買ってやっと消える状況だった。『現代数学』は院試のあたりまでで、大学院までは入っていかなかったと思う。町には大学は無いのだから売れるわけがないのは当たり前だった。一般人にも対応する数セミとはそこが異なる。大学で教わる内容についての解説であって、研究の先端の紹介とか、大学の先生による研究書に匹敵するような啓蒙記事とかの類はなかったと思う。強いていえば、内容を限定した『大学院への数学』といったところか。解説連載は本になるので、そっちで買うことにして雑誌は買わなかった。さらに進むとなると以前にも触れた岩波から出ている日本数学会の季刊誌『数学』があり、最先端の研究情報を知ることができる。もちろん、これは故郷で見たのではない。政令指定都市の大きな書店に行ったときに初めてその存在を知った。(専門雑誌となると東大や京大の生協で初めて見たとかいうのが多い)
『現代数学』には宿題とかエレ解などのような読者参加型のコーナーはなかったと思うが、エレ解などの常連の方々や数学ファンはたぶん、こちらの雑誌も買い続けておられるのではないかと思う。
それにしても雑誌の廃刊が多い中で、大学入試レベル以上の数学の一般雑誌が3誌もあり続けられる国がほかにあるのだろうか?それなのに数学オリンピックの国別優勝が無いのは残念だ。