流れの岸の一本(ひともと)は、
御空の色の水浅葱、
波、ことごとく、口づけし
はた、ことごとく、忘れゆく
上田敏が翻訳した海潮音というドイツ人の詩人たちの詩集の中の
ヰルヘルム・アレントの忘れなぐさという題名の詩
この詩はドイツの伝説にある
ドナウ川の岸に咲くこの花を恋人ベルタに贈ろうとして、
誤って川に落ちて死んでしまった騎士ルドルフの物語を
モチーフにされているという
アメリカでは forget-me-not
日本では勿忘草と書き表す
勿忘草は日本に古来から有った雑草の一種でもあるが
日本には万葉集の中で詠まれる忘れ草というものがある
別名は甘草という橙色の花
日本にはこちらの忘れ草を詠む歌人が多くいて
古く大伴家持は万葉集の中に
わすれぐさわがしもひもにつけたれどしこのしこぐさことしありけり
と、甘草の葉を下着=ふんどし=に結んでいれば忘れられないというが
結局忘れるじゃないか、と詠んでいる
ふんどしの紐に甘草の葉っぱを結んでいれば確かに本人は忘れはしないと思うが
日本で忘れな草が流行り出したのは1960年代に
ヴォーチェ・アンジェリカという六人の日本女性によって歌われた
世界の抒情歌の一つから
その頃、出来立ての高速道路をバスで三浦の荒磯に向かうとき
高速道路の壁面に土留めのために植えられた草の名前を
聞いた当時の女学生はアメリカ人はなんと抒情的な人々なんだろうと
感心したものだ
高速道路の壁に靡くライオンの髭のような草の名は
Weeping lovegrass 恋にすすり泣く草という意味だと
日本名のシナダレスズメガヤとは大違い
ようやく本格的な春になったと思っていたら
今日の温度計は春を通り越して夏になっていた
因みに
上田敏の海潮音は
遙に〇洲なる森鴎外氏に此の書を献ず
という書き出しで 青空文庫 というサイトで読むことが出来る