夫の初恋それは中学生の頃
卒業アルバムの女性は少し大人びて笑顔の可愛い制服姿
夫はこの、jkならぬjcとはまともに会話すら出来なかったそう
それだけではなく、学校内の合唱コンクールで彼女を意識するあまり、青い山脈の歌い出しをミスって先行して、全校生徒に笑われるという地獄の思いをしたとか
それでも彼には大切な時間だったようで、その話をすると、顔を赤くしながら笑っていた
そんな初々しさから20年程経った四十二歳の大厄の年に
厄落としを名目にクラス会が有って、夫は出掛けたのた
が、たぶん楽しみにしていた初恋の人との再会は自分が望んでいたのとは違っていたのだろう、もうあれで終わりだな、と
数日して、夫の同級生を名乗る女性から電話を頂いた
横浜にいるクラスメートが集まっているから会いたいとか
20数年ぶりに会ったクラスメートが夜のお店へのお誘いとは、と思ったが
夫の判断に任せていると、二度ほど出掛けたが、もう取り次がないでくれと
姑に似て気前の良い夫は誘われる度に全ての支払いをしていたようだった
その後の電話を何度か取り次がずにいたら、奥さん焼きもちやいているの?
私達はそんな関係ではないから、と
成る程、この人は夫の外見でなにかを判断したのか、と、理解した
会社を経営し、当時買い換えたばかりの新車、それもクラウンに乗り、妻が用意したバーバリーのスーツにアーガイルの靴とROLEXの時計
その女性は夫のそれに目が眩んだのだろう
車は営業で一年で三万キロも走るのだから車検の度に新車になっていたのだし、せめてあの合唱の失態を凌駕出来るようにと、極力身嗜みに気を遣って送り出した結末がこれだったのかと、夫が可哀想になった
私がふざけて青い山脈を歌うと必ず少年のように頬を染める夫を見るのが楽しみだったのに
これを書いていて思い出したが、夫がいる施設に面会に行った時に夫を連れてきてくださった職員さんはなんとなくアルバムのJCに似ていて
夫は面会の私と娘そっちのけで、久し振りに見たのだろう外の様子を彼女に説明していたから
たぶん今初恋の子と楽しい会話をしている状況にあるんだと思えて
不思議に嬉しくなった
家族から離れて、家族のことや家に帰ることばかり考えて職員さんに対して心を開かずにいたらと
内心ずっと胸を痛めていたから
当時、同級生に奢らせるなんて、という私に、奢って貰うより、奢った方がいいと言っていた夫を、ふと思い出した瞬間でもあった