雪催いの雨の中、庭の隅から柑橘系の匂いがしてくる
ああ、沈丁花だ
この花が咲くと、私は花粉症になる
それは中学生の頃の、当時の私には切実な思い出が起因している、と思う
私には同窓生から認められた、付き合っている子、がいた
自覚して付き合っていたというわけではないが、同じ部活で
生徒会の役員でもあったので、必然的に会話が多くなっていた
その私を、事あるごとに揶揄う子がいた
私はつい喧嘩腰で言い合いになり
頭をはたかれて、そしてまたバカなことを言い合って
先生にお前たちはと叱られて
彼は自分が私の初恋の人とは知らなかったと思う
何も言い出せないままに卒業の日を迎えて
心の内を話した友人から
サイン帳にサインをして貰えとすすめられて
持っていくと、ぶっきらぼうに Time is Moneyと一言
で、どうせ彼氏がいるんだろって
もしかして焼いてくれてた?なんて言葉を出せるほどの勇気もなく
じゃあ、元気でねと別れて、帰り道に咲いていた沈丁花の匂い
それは中学生という、永久にありそうな三年間の中での
多くのことを思い出す縁になっている
告白したところで、卒業すれば偶然に合うような距離にいる人でもなく
お互い高校に入れば自然と終わってしまう、それくらいのものだったと思う
それでも花が咲くころ、その日のことを思い出すと
何故かやっちまった気分になってしまう
なんで自分の胸の中だけでの大事な思い出にしておかなかったんだろうと
彼にとって私は妹というより、弟とやりあっているような
そんな感覚でじゃれてきているんだと分かっていたのに