嫉妬というと女性の専売特許のように見られがちだが
男性の嫉妬は女性の嫉妬のはるか上を行くというのを
身を持って経験したことが有る
被害者はたぶん夫
夫はあまり身の回りに気を使う人間ではなく
その上デパートが大嫌いで
従業員が成人するというので
彼と夫と三人でスーツを買いに行ったことが有ったが
その時の恰好がハンチングを被れば小説に出てくる闘鶏のおじさんみたいな
茶色のジャンパーに灰色の作業服という出で立ちで
従業員と10も違わないのに、お父さん呼ばわりされていた
それ以降、私が全て買いに行き、裾も直すという生活のまま今世を全うしそうだ
夫は時には伯父の連れられ料亭に行くこともあるし
取引先の銀行の支店長や大手の建設会社の監督さん達とゴルフに行くこともある
ある時、取引先の大手建設会社でゴルフ大会があり
私は夫にカシミアのセーターを着せて送り出した
帰宅した夫が着ていたのは、先日買ったばかりではなく
かなり長く使われたであろう毛玉のついたもの
夫はわざわざ連絡しなくとも気がつけば返してくれると話していたが
私は念のためと思い、電話を入れてみた
すると一人の監督さんから快く間違っていたことと交換するという連絡を頂いた
それからひと月くらいした頃、夫がその監督さんと泊りでゴルフに行ったり
飲みに行く回数が多くなっていった
夫が嘘が吐けない性格らしく、まるで線を引いたみたいに家を顧みなくなった
それと同時にいろんな人から目撃情報を告げられた
覚悟しなければならないのかなと思った時
一本の電話を頂いた
その建設会社の他の監督さんからだった
ざっくりといえば
社長はうちのAと飲みに行くと言ってるでしょうが
女遊びに誘われているのです、と
一緒に囲ってもいるようだと
私は夫にその電話があったことを伝えて離婚を申し出た
そして銀行にお金の流れを確認した
それをいち早く察知っした夫の弟から夫の長兄に伝わったようで
長兄は次兄の家に夫呼び出すと、いきなり殴ったそうだ
次兄の奥さんからはたかが女遊びでと言われたが
たかが女遊びなら、怒ったりはしないと内心思った
誰かの意図にまんまと引っ掛かり、女子大生と名乗る女性の不幸話に同情し
大切な従業員を使って偽装結婚の手引きまでしかけている
さすがにそれは夫の親族には言えなかった
夫に、親が病気で貧しいから外国で働くという人がその国の大学に通って
男を目的とした店で働くと思うのかと聞くと、夫は唖然とした顔をしていた
誰かを好きになるのは否定しない。そうであれば私と別れてからにして
というと、夫は何も言えなくなっていた
もう一人、銀行の支店長が同じように察して
離婚したら、融資は即日回収させて頂きますし
今後は一切の融資はしません。そうなると会社が潰れて
困るのは従業員ですよ、と
融資は借入ればかりではない、手形を割り引くときにも発生する
半年もの期日がある手形を割り引いてもらえなければ
市中の金融を頼ることになる
会社を興す際にお世話になった税理士に
そんな事態になったら会社を諦めろ、そのほうが安全だ
と言われていたのを思い出し、会社と従業員のために離婚を諦めた
結局この銀行員のために夫は会社を失くすことになるのだが
連絡をくださった監督さんに事の顛末を話すと
その監督さんはほかの問題も起こしていて退職されたと聞いた
なんで奥さんとも日頃会話しているうえに
自分が一番世話になっている社長をそんなアブナイ話に誘ったんでしょうね
と言われたが
自分より下の立場の人間が自分より上等な服を着ていたことに
逆恨みをしたのだろうと私は思っている
会社の事務に関しては全く疎く
二軒目の家を買うときでさえ私に丸投げしていたから
従業員のために住まいを借りるからと
従業員の印鑑や住民票を取り寄せるようにいう夫で良かったと思う
もし、私の知らないうちに事を運ばれていたら
夫は犯罪者になり、夫の人生はそこで終わっていた
返してもらわなくてもという夫に逆らって返還を要望した
その点では責任の一端があるが、夫婦の特権として未だにチクチク虐めている
男の嫉妬はもう一人、御巣鷹山の事故で亡くなった税理士の後に来られた
大学に在学中に税理士になったという
とても優秀と自負される若い税理士からも向けられた
夫の会社の職種の割には売り上げがありすぎる、と
私の単純ミスを指摘もせず、そのまま申告して、税務署の調査が入り
修正申告と追徴課税を支払うことになったが
その調査員から税理士を変えたほうが良いというアドバイスを頂いた
この経験から
自分より下の人間が自分より恵まれた位置にいると思うと
自己中心の人は嫉妬するんだと認識した
面会に行くとにこにこと笑い、施設の人に素直に従っていく夫を見ながら
夫が嫉妬される側で良かったとしみじみ思う