今日の朝、庭の菊が一斉に開花していたから、幾つかを摘んで家の中に飾ると部屋の中に菊の香りが溢れて、娘が私の母に菊枕を作ったことを思い出した
新暦九月九日は重陽の節句だが、中国では菊花節として
邪気を払うために菊を愛で
菊酒を飲む風習がある
また、風呂に浮かべたり、枕にして眠るという風習があり
陶淵明は飲酒という漢詩の中に
采菊東籬下悠然見南山と詠んでいるが
この詩を用いて俳句の師匠に菊枕を贈ったのは杉田久女
彼女は官僚の娘であり、学もあったが、今流にいえば痛い女だったようで、大学教授である平凡な夫に飽きたらず、同人誌の主宰の高浜虚子に思い入れてしまい、高浜虚子が病に倒れると、自ら作った菊枕を持って見舞いに行き、そのことで同人女性達から排除され、邪魔をされれば燃えるのが恋の相場で、終いには精神を病み、病院に入ることになってしまう
その様子は松本清張により
或る小倉日記伝の中に納められているが、清張は、精神を病んだ妻は見舞った夫に、菊枕だと布で出来た袋を渡し、夫は心を病んで漸く自分を思ってくれた、と結んでいる
杉田久女は
足袋つぐやノラともならず教師妻
などと生活の中から俳句を詠むことから台所俳人と揶揄されて、幾つかのテレビドラマの題材になっている
何人かの女優が彼女を演じたが
やまほととぎすほしいままの栗原小巻が
吉屋信子や松本清張の表現する杉田久女の実像に一番似合っているように思うのは
彼女が松井須磨子の演じたノラを
松井須磨子役で演じ
人の妻、人の母である前に、私は一人の人間です
という台詞がぴったりとはまっていたからだろう
久女は菊枕を自分のために作っていれば恋の熱も下がったかもしれない
私は特に熱など無いが、明日菊枕を作ろうと思う