<ダーウィン> | 3秒~3分で読む超短編小説とお気楽メモ

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<題名>とタイトルを書いているのは、短編小説です。他のものは、日記訓練です。去年はよくサボった。今年はサボらないならすごいが、続くとも限らない…?

<ダーウィン>

 最も強いものが生き残るわけではない。

 賢いものが生き残るわけでもない。

 変化に対応できたものが生き残るのだ。

           チャールズ・ダーウィン

  *  *  *


「お~ぃ。そこの、誰だっけ? もっとペースを上げろ」

 教官がどなっている。ちゃんと名前を読んでくれなきゃ、誰に言っているのか分かりませんよ。でも、あのトラメガは、ぴったりコッチを向いているからなぁ。教官の気まぐれで、何周も余計に走りたくないしな。ケンジは少しばかり、ペースを上げた。

 教官の横を走りぬけるころには、誰が誰だかわからなくなったらしい。五人ぐらい前を走っていたまじめそうなヤツが、「気合を入れろ」という罵声とともに、教官にブン殴られていた。ヤレヤレ、運のないヤツもいるもんだ。


「タナカ教官、人違いをしたらしいですな」

 サカシタ副所長は広げたノートに集中し、メモをとりながら、慎重に質問した。コレは尋問ですかと、ポリポリ、頭をかきながら、教官は応えた。

「あの時間中、誰だったかマジメにランニングしていなかったのが気になりましてね。サボルナと注意をして気合を入れたんですが、それが人違いだったと言うわけです」

「なるほど」

「今はランニングに力を入れていましてね。職員の皆さんにも参加していただきたいと思っているくらいなんです。副所長も運動の継続の大切さをご承知でしょう…」

 副所長は広げたノートの書きこみを見ながら、再び慎重に質問した。

「タナカ教官、人違いの件ですが詳しく話してもらえませんか」

「おや、もう、ずいぶん話したと思いますが。その時間のランニングは、なんとなくダラけていましてね。それで、適当なヤツを捕まえて気合を入れたわけです」

 副所長は広げたノートに集中しながら、再び質問した。

「話がぼやけて来ているようですな。誰かがマジメではなかったという点について伺いたい」

「そのように言いましたっけ…?」

 タナカは急にボンヤリとした表情になった。集中力をなくしたようだ。

「確かにそう言われましたな」

「覚えがありませんが…」

「タナカ教官、お話は十分、うかがいました。もう、結構です」

 副所長は広げたノートを閉じて、静かにそう告げた。


 何度も頭を下げて帰っていく教官を見送って、副所長は書きかけの報告書に取り掛かった。

報告書には、まだ、タイトルがなかった。分析し出てきた内容で考えようと思っていたからである。

 副所長は極めて有能な男であった。この辺境の訓練所では、才能のあるものを見出し、その能力を鍛えることが行うことが目的だった。資源のないこの国では、訓練をうけたものが人的な商品となって、他国に売られていく。最近はあちらこちらで動乱が起きており、人的な商品の消耗は激しく、勢い、訓練所には毎日のように、出荷要請か来ていた。

副所長は、品質管理に厳しく、未熟な訓練生を送り出すことは無かった。

むしろ、厳しい情勢でも生き抜けられるように、訓練レベルを以前よりも数段、上げていたのである。


副所長は最後の行を書き終えた。

問題のありかは明らかになった。

自分の目をくぐりぬけ、訓練所に居座り、出て行かないものがいるのである。

この訓練所で、もう、何年も「ただめし」を食らっているものがいる。

だが、まだ、見つけてはいない。見つけることが重要なのかどうかはわからなかった。

 副所長の並外れた集中力がなければ、この問題を継続してしらべることは、難しかっただろう。こうやって報告書に残しておけば、もう、問題が消えてなくなることはない。これから、じっくり誰がそうなのかを突き止めればよい。収穫が得られるのは時間の問題となったのである。


 副所長が部屋を出たとき、報告書は、まだ、几帳面に整理された机の上にあった。

彼には珍しいことだが、部屋の窓が開いたままだった。

少しばかり強い風が部屋に吹き込み、机の上の報告書が、パラパラと風にあおられて、クズ箱の中に狙ったように落ちた。そして、副所長の留守中に、部屋は定期的に来る掃除婦に片付けられ、クズ箱の中身も片付けられてしまったのである。


  *  *  *

 最も強いものが生き残るわけではない。

 賢いものが生き残るわけでもない。

 忘れられたものが生き残るのである。


(おわり)