最初に言っときます。今回は長いです
2018年4月に前々職を辞めてバスの運転手に転職しました。以降2023年10月までの5年半、運転手を生業として過ごしました。
事務職からバス運転手へ。それはもうそれまでとは全く違う世界で、仕事を覚えるのに必死に頑張りました。
結果として一人前と呼べるほど上手くなれたのかわかりませんが、少なくとも公共交通を支える一角を担っていた自負はあります。
コロナ騒動が終息した直後からバス路線の減便・廃止や運転手不足が注目されるようになりました。運転手の働き方改革を目指した国主導の労働時間規制強化が2024年に始まったのは、バス事業の負の連鎖に拍車をかけたと言えます。
でも、こうなるのはわかりきっていたことで、にもかかわらず国も事業者も自治体もバス利用者も全ての人達が目をつぶっていたことが原因です。
ここからは、報道される実態と実際に働いてみた状況の乖離をお話ししたいと思います。
報道等で言われている運転手が増えない理由というのは・・・
1.賃金の少なさ
2.勤務時間の不規則さ
3.休みの少なさ
4.カスタマーハラスメントの激しさ
5.業務の複雑さ
6.拘束時間の長さ
7.運転手に課せられる責任の重さとリスクの高さ
等々ってとこでしょうか。
現状、バス運転手の6割強が50~60代と言われています。この年代のほとんどが若い頃から運転手一筋という人達です。
言い方に語弊があるかもしれませんが、この世代の人達は基本的に車好き、運転好きとともに体を酷使してでも働くことに疑問を持っていません。また、自らの運転に自信と誇りを持っている人がほとんど。つまり、実際の現場で2.3.6はあまり問題視されていないんです。今まではたくさん働けばそれだけ給料も増えるので、むしろ拘束時間の長さが歓迎されていたり。
ところが、2024年の労働時間規制強化です。ただでさえ1.のとおり基本給はバカ低い。時間外労働で稼げないならさすがにモチベーションは保てません。業界を支えてきた世代も次々と辞めていくことになります。
一方で、今の若者にとって2.3.6は大きな問題です。しっかり休んで心と体を休める。リフレッシュのためには年休も効率的に取得する。無理な時間外労働はしない、させない。これらが現代の一般的な考え方でしょう・・・若者がバス運転手を目指すはずないですよね。
若者に選ばれない理由をもう少し語りましょうか。
4.に関してはそりゃもうひどいもんです。
一般市民って運転手を下に見てるよね・・・ってのは私がバス運転手になってからバスに乗るようになった奥さんの感想です。
怒鳴られるとか理不尽な苦情を言われるなんて日常茶飯事。自分の要求を満たすためなら何でもするし、法に基づいて注意すると開き直る。料金をごまかす。良い大人がこんな態度とる?って感じです。
加えて客からの苦情に対して会社は守ってくれません。例えそれが客に一方的な非があってもです。私たちの会社の休憩室には「我々のお給料はお客様から頂いている」とデカデカと書かれていました。ごもっともではありますが、お客様はお客様であって神様ではありません。理不尽な苦情には毅然とした対応をしてくれないとねぇ。
5.って言っても「運転手なんだから運転していればいいだけじゃん」って思うでしょ?
そもそもその運転が大変です。全長が11~12mある大型車両を街中で走らせるって、言っちゃ悪いけど相当レベルの高いお仕事です。その上一般車両からすれば完全な邪魔者扱い。安全運航って皆さんが想像するよりずっと難しいんです。
そんな状況なのに、バス停の確認、乗降の確認、料金の収受、アナウンスの操作、トラブルの対応 etc... 運転だけしてればいいって思ったあなた、やれるもんならやってみろって思います。
7.は当然ですよね。満載時で50名前後の乗客を運ぶわけです。これ全部死なせたら死んで詫びるしかないって思っちゃいますよ。にもかかわらずお給料はバカ低い。責任の重さに見合っているとは言えません。
大型車両だからって安全なわけじゃなくて、重たい分大事故になるリスクが高いのが慣性の法則ってもんです。
そして、これが最も若者には我慢ならんだろうなぁと思うのが、良くも悪くも職人芸の世界だってことです。
運転という行為自体はマニュアル化できるものではありません。事実、先輩方一人ひとり言うこともやってることも違う。「まずは見て盗め」と教えられたのを思い出します。
できなきゃ怒鳴られるのは当たり前。しかも「できない」の基準が人によってまちまちだから怒られるポイントもまちまち。混乱します。
元気に働くのも当たり前。心が弱っているそぶりを見せると根性が無いと渋い顔をされます。
そりゃパワハラだろなんて理屈を言ってもしょうがない。そのような世界なんです。
これだけ挙げ連ねたら若い人が積極的にバス運転手を選ぶ理由が全く見当たりませんね。むしろそんな奇特な人がいたら「何が良くって?」て聞いちゃいます。
給料を上げるだけで若者が来てくれるなら人手不足に悩むことはありませんて。
路線の廃止・縮小・減便についてはバス利用者の側にも問題があります。
このような報道がある度に「困りますぅ」なんて話す市民の姿が映し出されますが、ホントに困ってます?
無論、通院や通勤・通学などの事情で定期的に乗車する人はいます。しかし、そんな人は今や少数派なんです。普段車で通勤している人がバス通勤に切り替えるなんてこと、無いですよね。それも路線や便数を維持するために。
通院・通勤・通学に使っている人ですら、休日のお出かけには車を使いますよね。
そんなことはバス事業者が企業努力すべきじゃね~の?っていう向きもあるでしょうが、それは酒を飲まない人に酒を強要するようなものです。
バスが無くなっても困らない人が大多数なのに、無くなる時だけ困るって言ってもダメです。
こんな状況ですからね。6割を超える50~60代が全員退職しちゃったら、バス事業は成立しなくなること確定です。
いずれ自動運転バスができるからなんて能天気なこと考えちゃだめですよ。そんなもんはお金持ちの大都会の話し。地方の中小都市にそんなシステムが浸透するのは100年後です。なんたって都会が使い古したバスを中古で手に入れて更に使い倒すのが地方なんですから。北海道はsuicaすら導入されてない事業者が多い。
じゃあどうすりゃ良いってんだ、こら?なんて凄まれても困ります。だってどうしようもないんだもの。
ただ、案はあります。
まずは外国人運転手を大量に雇用しましょう。最近その方向の動きが見受けられるようになってきましたね。
日本の若者はどうあっても旧態然としたバス業界には騙されなさそうです。
ならば純真で目的意識も高く、日本が好きでいてくれる外国人労働者に協力を仰ぐのはかなり有効です。
何より日本語以外の言葉を操れるのは観光需要には大切。バス運転手は私も含めて英語すら話せませんからね。
問題点は受け入れる事業者側です。受け入れ態勢と言うより異物を拒絶する業界の風土の問題。職人気質ってその辺難しい。これまで存在しなかった者を飲み込む根気強さを持てるかがポイントですね。
次に女性の取り込み。
女性のバス運転手は徐々に増えてきていますが、まだまだ少ない。
昨今は車の運転が好きだったり得意だったりするのは女性が多い。子供たちの送り迎えがお母さんの仕事のようになって久しいけど、それが理由の一つかなぁなんて思います。これを取り込まない手はない。
ただし、未だ家事の中心がお母さんなのは日本国の悲しい現実。女性に働いてもらうにはきめ細かな勤務時間設定が不可欠です。何が何でも男と同じく走らせるのではなく、働きやすい時間帯を選択できる工夫が大切です。
最後に行政の協力です。
私が考える行政の協力は、金や制度の話しではありません。人を出せって話しです。
バス事業を抱える市町村、もしくは都道府県の行政機関に交通部門を創設する。そこに配置される職員は大型2種免許を取得させ、一定期間事業者に出向させる。この交通部門には全ての職員がそのキャリアの中で最低一回漏れ無く配属されるものとする。
公営バスを作れと言う意味ではありません。それでは結局今いる運転手のパイを食い合うだけです。行政の責任で運転経験者を増やせと言う意味です。中にはこの経験で運転手の方が良いと思う人が現れるかもしれません。
この方法の問題点は公務員と運転手の処遇の差です。運転手は公務員に比べて絶望的に処遇が低い。その差を埋める方法を上手く発案できるかが肝になりますね。
できるか、そんなこと!と言いたいでしょ? そりゃそうですよね。
でも、そんなことでもしなきゃ解決しない状況なんです。バス事業はそれくらい深刻な現状なのを全国民が認識すべき。ウルトラCでも何でも検討しなきゃ。
誤解の無いように言っておきますが、私自身はバス運転手という仕事が好きでした。
でも、それでも辞めないと自分の身が守れないと思えるほど過酷でした。元々過酷な上に人が足りず、残った人の負担がどんどん増える。給料が安いのは我慢するとしても、事故に繋がれば責任は自分に降りかかります。
余裕を持って仕事が回せる体制づくりは急務。是非国民全員で真面目に方策を考えて欲しいものです。
どうぞよろしくお願いします。