電話ボックス | そうゆうクンのおはなし

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ちょっと「へぇ~」な仏教のお話、宜しければお付き合いください。

岩手県大槌町に「風の電話」というのがあるそうです。


大槌町は東日本大震災の津波で1200人以上の犠牲者がでた。


町長さんはじめ、沢山の役場職員が波に流されて亡くなった。


大槌の佐々木格(いたる)さんは、あの日、高台にある自宅庭から海岸を見ていた。


家屋がつぎつぎと破壊されていく。


多くの人が、これは現実か! と思ったはず。佐々木さんだって、そうだったろう。


佐々木さんは、69歳。


自宅の庭に白木とガラス張りの電話ボックスがあった。


その中に、いまはもう懐かしい、黒電話(ダイヤルを回すタイプ)がある。


電話の引込線は、つながっていないので、もちろん、普通の通話はできない。


佐々木さん。このボックスを「風の電話」と名付けた。


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波にのまれて、声をかけることができなかった父さん、母さん。


息子、娘、じいちゃん、ばあちゃん。


黒電話の受話器を耳にあてて、じっとしている。


すると、なにか、懐かしい声が聞こえてくるような気が。


震災で亡くなった方だけでなく、病気で身近な家族を失った方も訪れているとのこと。


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青森の下北。恐山は、イタコの口寄せで知られている。


「菩提寺」は、地蔵菩薩を本尊とするお寺なんだけど、その山門脇にイタコの小屋が並ぶ。


イタコさんという、視覚障害のおばあちゃんが、小屋かけをしていて、そこに行くと、亡き人を呼ん


でくれる。


亡くなったお父ちゃんが「元気にしてるか。仕事がんばれや」なんていう。


合理性に価値を置く私たち。しょせん、金儲けの商売、しょうばい。


というのは簡単だが。


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黒川文子さん(NHK学園の先生)のリポートによれば、その小屋からでてきた若い夫婦。


ママがあかちゃんをおぶってた。


パパは、目を赤くしている。


3.11の震災で父親が死んだ。午前中まで一緒に仕事をしていたという。


初めての内孫が生まれるのを楽しみにしていた。


突然の別れ。


イタコが口寄せしてくれた内容は、いかがでした、と聞くと。


「本当のような、そうでないような」。


それでも、「これで、孫を見せることができた」と、ほっとした表情。


黒川先生。「聞きたい人のみに聞こえる声がある」。


あの若い夫婦は、一番聞きたかったことを聴くことができ、満足して山をおりて、元気に生きていけ


るでしょうと。


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「風の電話」


ボックスの中で、ずーっと、泣き続けている方も。


そばまで来て、ボックスには入らず、立ったままじっーとしている方。


受話器をとって、話す方ももちろんいる。


佐々木さんは、あえて、話しかけないようにしているが、時には、お茶をどうぞ、と。


佐々木さんの奥さんは、お話をしたあと、笑顔になってくださるのがうれしい、と。


こういう、活動をされている方もいるんだなと知って、ありがたいと思う次第。