以前に、最近の功夫映画は抗日政策を離れて自由で楽しい物が沢山作られるフェイズに入ったと書きました。
この思いは、作品を見るごとに強まっています。
新しく、自由で、かつ、これまでの文脈を良く勉強して踏まえています。その上で膨らませている。
このあいだ観たのは、霍元甲物の一作でした。
この霍先生、精武体育会で知られている有名な先生です。
映画としては、ブルース・リーの傑作「ドラゴン 怒りの鉄拳(精武門)」が有名ですね。
主人公の陳青年が霍元甲師の弟子で、日本の軍人に殺された師匠の仇を討つというのがお話の軸となっています。
この精武門系の関連作品は沢山作られるのですが、その中で特筆すべきは「SPIRIT」です。
日本からは中村獅童も出演した作品で、こちらでは霍先生は死んだ師匠ではなくて本人としてちゃんと生きて登場します。
才能あふれる傲慢な武術家という設定で、そのために勝負には勝つ物の大切な物を失い、精神的な回復を経て成長し、国士として日本人の武道家と戦うという内容でした。
台湾の色男、ジェイ・チョウのラップが主題曲として使われていたことも話題になりました。かっこよかった。
このストーリーを、ほぼほぼまんま踏襲したのが、後のイップ・マンです。
イップ・マンは中国政府が制作した抗日功夫映画の最高傑作の一つで、SPIRITとほぼ同じ物語を、実にウェルメイドにマッシュアップしており、大変に良く出来た映画でした。
だったらSPIRITをリメイクして抗日映画として活用すればよかったと思うのですが、あの作品は公開後に霍先生の一族から「うちの人はこげでなかんし」と訴えられてしまったそうなんですね。
しかし、現在になってこの霍師の映画がまた公開されたのです。
傲慢な天才という設定はそのままです。
冒頭、日本人の武道家と雷台の上で戦うというのはSPIRITとまったく同じシチュエーションです。
そこから物語は回想に入り、銘家の才子が父親から咎められて家出し、その後、尊敬する革命家の元で心を入れ替えて国士となるという過程が描かれます。
そして冒頭のシーンに帰ってくるのですが、なんとこの映画、この戦いは描きません。
見事にすかすのです。
主題となっているのはそこにいたるまでの精神的成長や国の未来に必要なのは教育であるというメッセージであるというように受け取れます。
ちなみに、今回敵役となっているのは政府です。
国民を抑圧している政府から人々が幸せになるためには教育が必要だと言うお話なのですよ。
これ、完全にこれまでの政府主導の抗日映画とは違った方向性です。
そう考えると、ちゃんと日本人武道家が登場しているのに戦わないというお話が物凄く意味を持っているように感じられます。
ちなみに、エンドロールではラップが流れます。
ジェイ・チョウのと同じフレーズが入ったので一瞬リミックスかなと思ったのですが、サンプリングでした。
そういう意味でも、かつての作品を下敷きに、時代に合わせた新しい作品を作ろうと言う意思が感じられます。
つづく