今年の、夏くらいだったか、それとも秋に入ってでしたか、師父から、ご自身の師父が現地のテレビに出演されて、日本にも支部があるということを語っていたと聴きました。
もちろん、日本の支部というのは師父の会のことです。
ご注意ください、これは蔡李佛の話ではありません。ですのでテレビに出ていたのは私の大師には当たりませんし、私の会、SMACは日本の支部にもあたりません。
師父は蔡李佛の他にも、太極拳や古武術の正式な師範でもあるのですが、これは中国の白眉拳のお話です。
先に、うちの会はこの系統には入っていないと書きましたが、実は私も最初は白眉拳をやっていました。
そこから入って、蔡李佛に移行したのです。
白眉と蔡李は発勁が全く違い、身体が出来るまでは混乱するので並行して練功してはいけないという教えがあって、私も三年は白眉拳だけをやっていました。
しかし、三年が明けたところで師父に蔡李佛を体験させていただき、どちらを選ぶのかを選ばせてもらえました。
俄然蔡李佛でした。
蔡李佛は、圧倒的に気持ちがいい。
白眉拳は、当時の私にはちょっと窮屈でした。
まぁとにかく、基本的に難しい武術です。
根本的に発勁が難しい。
白眉六勁と言って身体の内から前後左右上下に向かって瞬間的に身を震わせるような勁を用います。
これが開合も伴った短い勁で、水に濡れた犬が身を震わせるように用いる勁だと教わりました。
ちなみにこの系統の短拳の代表的な物は恐らく福建白鶴拳類でしょう。
現在、老師から教わっているこの種の武術の練功で、老師からは川を渡った馬が身を震わせるように勁を用いよと教わりました。
南派蟷螂拳などもこの類ですね。みんな非常に難しい武術だと思います。
これに比べれば、蔡李佛は内功によって勁を通して勁の塊になってぶん殴るだけなので非常にシンプルだと言えましょう。
勁を出しっぱなしなので、消耗はするのですが出したり消したり瞬発させたりと言う細かい動作が無いので私にはやりやすかったのです。
白眉拳のもう一つの難しいところは、根本的に拳が握りがたいところです。
この派の最大の特徴は、鳳眼拳と呼ばれる、人差し指この角を突出させた握りです。
これがとにかく難しい。
形だけなら出来るのですが、どうやって力を入れても、長年空手や格闘技をやってきた私が本気で相手を殴りつけた時に有効だとは思えません。
まともな拳の握りでさえ、強打者はボクサーズ・フラクチャーと言って拳の骨を折ります。
私の左の骨も人を殴って複雑骨折をしたままくの字に繋がっています。
それくらいの威力を、人差し指の角で耐えきれるものでしょうか。
難しい。
どう想像しても自爆パンチにしかならない気がしていました。
それまでの人生を拳に任せる処が多かったせいか、どうしても私はそういうところが気になります。
ウィンチュンをやったときも、あの小指と薬指の拳頭で威力の小さな連打をちょこちょこするというのが、明らかに力のない人向けの拳と言う気がして気に入りませんでした。
こんな体格と気性と見かけの男が、男らしくないことはしたくない。
そんな訳で、白眉拳の拳形が体得できないまま、私はそちらから以降した次第です。
しかし先日、老師から五祖拳の高級套路を教わっていた時に、この拳形を教わりました。
白鶴拳類ではこの形は定番なようなのですね。
五祖拳ではこれを、尖拳という名で教わりました。
ここまで来たのならこれはもう一度向かい合う時なのだと思ってこれと向かい合って観ました。
自分の手を見ていると、いまなら出来ると言う感じもします。
白眉拳の時代から十年以上、私もそれなりに功が上がっているはずです。
そこで、以前のように表層的な握り方の工夫ではなく、内勁の用い方を色々試してみました。
結果、だいぶ強く握れることが分かりました。
以前のように手で押すとふにゃふにゃとクッションしたりはしません。
反動を受け止めて、それを体内に流して軸に繋げれば、十分に発勁が可能だと思えました。
ところで、私は膝が悪いので冬場は関節がよく痛みます。
それを試しにこの拳で撃ってみました。
痛いけど気持ちのいいところ、東洋医学で言う喜按の場所をこのとんがったところでゴツゴツと殴ったのですが、これが内側によく力が通ります。
数回叩くと、なんと、膝の痛みが一時的に消えました。
ちょうど最近、別方向の研究でちょっと気にかかっていた、鍼を使わずに代わりに気を用いて治療を行う、という奴がこれで出来たように思いました。
私が鍼灸学校に進んだのは、自分の段階が発勁の段階から点穴の段階に移行しつつあるからということがあります。
どうやら、点穴の基礎が出来るようになったようです。
ここに至れば、白眉拳であっても形意拳であっても、この拳を用いて体内に気を打ち込むことが可能です。
いや、面白いところに至りました。