先日、東北系の太極拳の練習グループが配信した太極拳の動画を目にしました。
このグループは中国最高レベルの名門武術派閥で、歴史上非常に大きな活躍をしています。
ですので、他の幾つもの名門武術と交流を重ね、本門である通背拳類を始めとた回族武術諸門の他にも、色々な武術を伝承しているようです。
ですので、中国武術をしているとなにがしかここと技術が隣り合うこともあるかもしれません。
私の場合はもちろん、回族武術をしている時にこちらの継承する物を一つかじったことがあります。
また、私の老師の継承している通背拳類は、向こうの物の元となった古伝の物となります。
そのためか、老師はこの系統の関わっていた国術館の武術を体得した先生にも支持しています。
ですので、目にした太極拳は私が以前老師に見せていただいた物と同じ系列の物であるかと思われます。
もっともこれは、私が師父から教えていただいている物とは全く違う物となりますので、私の理解の範疇からすると、まるで未知の派ということになります。
その前提の上でのお話ですが、このグループの派の太極拳、私が良く知っているいつも蔡李佛で馴染んだ勁を用いているように思えました。
推手の状態から肩での靠でポーンと相手を飛ばしてゆく。
大変に見事な抜根勁です。
私はこれを、心意拳で初めて体験しました。
心意拳ですので回族武術です。この名門グループの中枢は回族の人々です。
太極拳は回族武術ではありませんが、そこに同様の勁が伝わっているんだなあと思いました。
もちろん、太極拳ですので純粋に直接勁を打ち込むのではなくて、推手で利きやすい状態に作ってからでしたが、その分、接触は極めてソフトでした。
私が蔡李佛式に正面から直接靠で飛ばすときは、もっとずっと当たりが強く見えるのではないかと思われます。
勁そのものの力で行っているからです。
推手のような用法で崩しておくと、もっとずっとエレガントに飛ばせます。相手の勁が切れて排打をする力が無くなっているからです。
蔡李佛でのこの勁は、北派少林寺の武術が南進したと言われているところから少林心意把の系統ではないかと思われます。
高級套路になると、物すごく心意拳っぽいものや物凄く形意拳な物がありますので、あるいはどこかの段階でそれらが入って来たという可能性もありえます。
蔡李佛の最も古いルーツである洪拳を見ると、やはりそこにその痕跡が見えるので、少林系列の可能性は高いとは思うのですが。
対象的に、もしかしてその東北グループの太極拳が回族武術の勁を太極拳に入れたのではないかと言う見方も可能なのですが、恐らくはその可能性は少ない。
というのも、一つには太極拳のルーツである陳氏太極拳が元々は少林拳と呼ばれて陳家に伝わっていたということです。
なので、その段階で少林心意把がそちらに伝わっていて、スタート段階から太極拳の勁は心意の勁だった可能性が高いと言うことがあるからです。
それからもう一つ。東北のグループが自分たちの本門であろう通背拳類の勁で相手を飛ばすと言う動画を公開した時に、その勁が全然太極拳の勁とは違ったと言うことがあります。
こちらの勁は私たちの通背拳類が言う鞭勁という物で、心意拳類で用いられる整勁とはまた別の物です。
ですので、こちらでは抜根はされない。
よろよろと押されて動くと言う感じになっていました。
これ、私は物凄く感動しました。
見栄えをよくして人に良く見せようと思ったら、こちらでも抜根勁を使えばよかったんですよ。
その方がポーンと飛んで魔法のように驚かせられるから。
でも、通背の時はちゃんと通背の勁を使っていた。
これは本当に誠実なことです。
流石は本物。信頼が出来る。
この派の動画では、偽物を学んでも武術ごっこでしかないという旨のことが書かれていました。
まったく同感です。
本物はやはり、ちゃんとしている。
こうやってちゃんとした人たちが居るから、本当のことの研究という物が可能になる。