ポール・ウェイド氏の提唱するキャリステニクスのやり方に従ってトレーニングを始めると「あれ? ほんとにこれなの? これだけ? こんなでいいの? ぼくなにか読み間違えてない?」となることは間違いないでしょう。
なぜなら壁に寄り掛かった腕立て伏せをたった8回、それを1セット、というようなメニューが支持されているからです。
これでは鍛えられないのではないだろうかと不安になるような内容です。それだけで終わらせては一日を無駄にしたような気持になってしまうかもしれない。
しかし、これなのです。
これが伝統的練功法に共通する考え方です。
本当に長期的に効果を出したければ、それくらいの軽度の練習から下地を作っていかなければ先にはたどり着けません。
懸垂で言うなら、鉄棒に触れることすらありません。
たったまま柱を両掌で掴んで、身体を後ろに少し傾けては垂直に引き戻しを8回程度。
多くのトレーニー希望者が、ここで不安に負けてキャリステニクスを挫折し、分かりやすいウェイト・トレーニングに行ってしまうのだと言います。
功夫の練功も同じです。
例えば硬い物を打つ時も、初めはポンポンと手を触れさせるだけ。
あるいはポンポンもせず、ただこするだけ。
それで、そのあとで薬を飲めとかよく揉んでおけなどのアフターケアに厳重に注意を払います。
とにかく何をやっても、偏差が起きるからと前後のケアに気を使います。
そして本編をやりすぎない。
これが伝統的な練功法の基本姿勢です。
現代的なスポーツの考え方とはだいぶん違う。
ベスト・キッドに代表される若者がこの道に進むタイプの映画でも、初学の内によくわからないことをやらされて「こんなの練習じゃないよ! 馬鹿にするな!」とさじを投げた物の実はすごい効果が、というパターンが良く見られますね。
キャリステニクスに話を戻しますと、私は懸垂の十段階あるステップのうち、いまは二段階目です。
もう二か月以上、そこがクリアできていない。懸垂が弱いのです。
ちなみに、フツーの懸垂をやれと言われれば、私はスポーツテストではAランクに分類されます。
でも、キャリステニクスのやり方では、地面に足を付けた物が30×3セットがいつまでも出来ない。
先週、ようやく27×3が出来るようになって、今週は29×3に挑戦してゆこうと思います。
進捗も、週にプラス1回とか2回まで。気合と根性で無理にやらないのがこのスタイルです。
勢いを使ったり、身体をゆすってもがいたりもしません。
スポーツテストではどっちもしまくりでした。
それは、記録は作れるのですが体には残るものが少ない。
伝統式のやり方では、ゆーーっくりと動いて行います。
中国武術では、これらのやりかたを慢錬と言います。
ゆっくり動くのは太極拳の専売特許ではありません。慢錬はおよそほとんどすべての中国武術で行われていると習いました。
ある中国の先生は練習中ずっと「慢慢練! 慢慢練!」と指導をしていました。
正確に、ゆっくりとやれないと本物にはなれません。
そして、ゆっくりにはもう一つ重要なポイントがあります。それが「圧」です。
この圧を逃がすな。というのがキャリステニクスにおいては注意されています。
圧とはなんでしょうか。
例えば加圧トレーニングという物がありますが、これは創始者の方が正座で足が痺れた時に筋肉の成長が進んだ気がしたことにヒントを得て、成長ホルモンの分泌と圧迫には関係があるんじゃないかということから思いつかれたようです。
この、正座で足が痺れてる時のような圧を使っている体の部分にかけます。
反復でワークをしていると、だんだんその場所が張ってくるのは誰しもが感じたことがることでしょう。
この時、関節をちょっと緩めたりすると、このパンパンになっているのが一時的に抜けて楽になります。
これが、圧を逃がしている状態です。
つまり、勢いを使った反復運動は毎回圧を逃がしながらやっていることになります。
だから、他の運動とキャリステニクスは本質的な仕組みが違うということになるのです。
その反映が結果の著しい違いとして現れます。
つまり、肉体への効果としてです。
この、圧の操作と言うのは武気功でも非常に重要とされています。
監獄式キャリステニクスのポール・ウェイド・コーチはその辺りのことも非常に研究されていて、中国武術の武気功である鷹爪を用いたトレーニングを紹介したり、カンフー式のアイソメトリック、と称してこの技法を活用したりしています。すごい人です。
蔡李佛のコンセプトである「自分自身を勁力の圧を満たした鉄球と化す」において、この圧は重視されています。
ゆっくりと動いて作った圧を維持する。これは練功において大切にしたい秘訣です。
そうやって、身体を成長ホルモンの分泌が盛んな身体に換えて行く。
この体質へのアプローチの結果として、初めて大きな結果が出ます。
決して小手先の技ややり方によってではありません。