このところ、日本の太極拳の不可思議さを露わにする記事をよく書いていますが、この日本太極拳の歴史に溥儀が居ることをご存知でしょうか?
あの満州国の皇帝溥儀です。
実は、日本で最初に太極拳教室を開いた人は、溥儀から太極拳を習ったのだそうです。
これはちょっとフックのある面白いトリビアのようですが、実は驚くことではありません。
というのも太極拳は清朝の御用拳法で、それがためにこれだけ普及した物です。
満州族の貴族たちが紫禁城での健康体操として盛んに行っていた物だそうで、浅田次郎の小説だと当時の軍閥の大物であった袁世凱は太極拳がうまかったという描写があります。
実際に本人がどれほどのコンフーがあって太極拳をしていたかはよく分かりませんが、袁世凱の側近には腕比べがとても強かったという宋書銘や袁世凱の親衛隊で武術教官をしていた李瑞東と言った太極拳の名人が居たので、軍を率いる将軍として自身も訓練していても不思議はまったくありません。
それだけ太極拳が普及していた清朝貴族の最後の国である満州はと言えば、日本の傀儡国家です。
となると、日本の軍人が溥儀の傍に居て、彼と一緒に太極拳をしていてもおかしくはありません。
しかし調べてみると、実際にはそういった経緯で日本人が溥儀から太極拳を習ったのではないのだそうです。
なんと、習ったのは満州国が滅んだ後で、場所は収容所なのだそうです。
その収容所に、戦犯として収容されていたのが日本人の永富博道さんという方です。
この方は戦前、戦中に中国に沢山いた武道家にして工作員だった人で、収容所の中で溥儀に太極拳を習ったのだと言います。
なんだか映画のような話です。
工作員時代に、日本武術の達者であったにも関わらず、中国では子供にも通じなかったことで中国武術を学んでいた永富さんはそのようにして収容所で学んだ太極拳の追求を続けて、出所して帰国した後に日本で大陸から先生を呼び、本邦最初の太極拳教室を開いたのだというお話です。