「勝利の朝」
(原題: Morning Glory)
1933年8月16日公開。
初のアカデミー主演女優賞受賞作品。
興行収入:$582,000。
脚本:ハワード・J・グリーン
監督:ローウェル・シャーマン
キャスト:
- エヴァ・ラヴレイス:キャサリン・ヘプバーン
- ジョゼフ・シェリダン:ダグラス・フェアバンクス・ジュニア
- ルイス・イーストン:アドルフ・マンジュー
- リタ・ヴァーノン:メアリー・ダンカン
- ロバート・ハーレイ・ヘッジス:C・オーブリー・スミス
あらすじ:
田舎娘のエヴァ・ラヴレース(キャサリン・ヘプバーン)は舞台に憧れてニューヨークに出て来た。
彼女が憧れているブロードウェイの有名な興行師ルイス・イーストン(アドルフ・マンジュー)は新作「青空」を上演することとなり、そのキャストを選定中であった。
エヴァはイーストンの事務所を訪れて、イーストン及び「青空」の作者ジョゼフ・シェリダン(ダグラス・フェアバンクス・ジュニア)と会ったが、田舎町での素人芝居しか経験のない彼女は端役も貰えなかった。
数週間の後「青空」初日の晩エヴァはイーストン事務所で会った老女優ヘッジススと邂逅し、彼女に伴われてイーストン私邸の祝賀園に出席する。
1日中絶食していた彼女はシャンパンに酔った勢いで「ハムレット」と「ロメオとジュリエット」を演じてみせる。
そしてそのまま酔いと疲れのあまり倒れてしまう。
その夜イーストンに憧れ恋しているエヴァは彼に肌を許したのである。
翌朝シェリダンが訪れ来て、ことの次第をイーストンに聞かされて痛く失望する、
彼はエヴァを愛していたのである。
しかもエヴァはなおイーストンを恋し、彼女自身も彼に愛されていると信じていることを知って、シェリダンは深く悩んだ。
その後エヴァは小さな芝居に出たり、ヴォードヴィルに出たりしてからくも口に糊していた。
シェリダンは仕切に彼女の行方を探したが解からなかった。
約1年後イーストンはモルナール劇を翻案した「金の枝」を上演することとなる。
いよいよ初日の葢開けとなった時、主役女優のリタ・ヴァーノン(メアリー・ダンカン)が居直って給料値上げを要求する。
イーストンは憤慨しつつも背に腹はかえられず譲歩する気になった。
だが、シェリダンは探し続けていたエヴァをようやく発見して、イーストンには秘密で代役女優として雇っていたので、無理にイーストンを口説いて、リタを首にしてエヴァに主役を演らせることにした。
エヴァはシェリダンの心尽しに感激して一生懸命に演じたので、果然大喝采を受けた。
かくて彼女は生涯の希望であったブロードウェイ舞台の花形となることができたのである。
コメント:
キャサリン・ヘプバーンにとって出世作となった作品である。
この映画で主演し、アカデミー主演女優賞を初めて獲得し、彼女の名前は世界で認知されたのだ。
ヘプバーンと言えば、「オードリー・ヘプバーン」しか知らない日本人が今でもけっこう多いのではなかろうか。
だが、世界のハリウッド映画ファンは、圧倒的な存在だった「キャサリン・ヘプバーン」という女優を良く知っている。
オードリーも素晴らしい容姿と愛らしい表情によって世界の映画ファンを引き付けてきたが、キャサリンの役者としてのレベルの高さはやはり半端ない。
キャサリンは、男勝りであり、容姿も堂々としていて、セリフも演技も人並外れたレベルにあった。
お人形さん女優が大好きな日本人にはオードリーの方が好ましく映るかも知れないが、役者のレベルではキャサリンが完全に勝っているのだ。
例えは良くないが、端的にいえば、吉永小百合と田中絹代の比較のようなものだ。
キャサリン・ヘプバーン最初の作品レビューとなるので、この映画までのキャサリンの経歴を記しておきたい。
キャサリン・ヘプバーンは女優になることを決意して大学を中退した。
卒業の翌日、彼女は劇団を経営して成功を収めたエドウィン・H・ノップフに会うためにボルチモアへ旅行した。
彼女の熱意に感銘を受けたクノップフは、現在の作品『ザ・ツァリーナ』にヘプバーンをキャスティングした。
彼女は小さな役柄で高い評価を受け、『Printed Word』紙は彼女の演技を「驚くべきもの」と評した。
彼女は翌週のショーに出演することになったが、2回目のパフォーマンスはあまり評判が良くなかった。
彼女は甲高い声を批判されたため、ボルチモアを離れ、ニューヨーク市の有名な声楽教師であるフランシス・ロビンソン・ダフに師事した。
クノップはニューヨークで『 The Big Pond』(1930年公開映画)を製作することを決め、ヘプバーンを主演女優の代役に任命した。
開幕1週間前に主演が解任され、ヘプバーンが代役を務めたため、彼女は演劇キャリアをスタートしてからわずか4週間で主演を務めることになった。
だが、初日の夜、彼女は遅刻し、セリフを間違え、足をつまずき、理解できないほど早口で話すなど、多くの失態を演じてしまった。
彼女はすぐに解雇され、元の主役の女性が再雇用された。
ヘプバーンはひるむことなく、プロデューサーのアーサー・ホプキンスに交渉し、他の作品で女子高生の役を引き受けました。
彼女のブロードウェイデビューは1928年11月12日にコート劇場で行われたが、ショーの評判は悪く、8晩で閉幕した。
ホプキンスはすぐにヘプバーンをフィリップ・バリーの劇『ホリデイ』の主役の代役として雇った。
わずか2週間後の12月初旬、彼女は大学時代の知人であるラドロー・オグデン・スミスと結婚するために退職した。
彼女は劇場を去るつもりだったが、仕事が恋しくなり始め、すぐに『ホリデイ』の代役を再開し、6か月間務めた。 1929年、ヘプバーンは演劇組合からの『Death Takes a Holiday』の主役の役を断った。
彼女はその役割が完璧だと感じたが、再び解雇された。
彼女はギルドに戻り、「A Month in the Country」で最低賃金の代役を務めた。
1930年の春、ヘプバーンはマサチューセッツ州ストックブリッジのバークシャー・プレイハウス劇団に加わった。
だが、彼女は夏のシーズン途中で退社し、演劇の家庭教師について勉強を続けた。
1931年初め、彼女はブロードウェイの『アート アンド ミセス ボトル』に出演した。
ヘプバーンは劇作家が「彼女は怖そうな見た目で、態度も不快で、才能がない」と嫌悪感を抱き、その役から解雇されたが、他に女優が見つからなかったため、ヘプバーンは再雇用された。
それは小さな成功であった。
ヘプバーンはコネチカット州アイボリートンのサマー証券会社で数多くの演劇に出演し、人気者であることが証明された。
1931年の夏、フィリップ・バリーは彼女に、彼の新作劇『動物の王国』にレスリー・ハワードと共演してほしいと頼んだ。
彼らは11月にリハーサルを開始し、ヘプバーンはこの役で彼女はスターになれると確信していたが、ハワードが彼女を嫌ったため、再び彼女は解雇された。
彼女がなぜ解雇されたのかとバリーに尋ねると、バリーはこう答えた。「率直に言って、あなたはあまり優秀ではなかった。」
彼女はその後の演劇で小さな役を演じたが、リハーサルが始まると、ギリシャの寓話『戦士の夫』の主役の朗読を頼まれた。
その結果、『戦士の夫』はヘプバーンの出世作となった。
伝記作家のチャールズ・ハイアムは、この役はアグレッシブなエネルギーと運動能力を必要とする女優にとって理想的であり、彼女はその製作に熱心に関わったと述べている。
この劇は 1932年3月11日にブロードウェイのモロスコ劇場で開幕した。
ヘプバーンは、最初の入場シーンで、銀色の短いチュニックを着て、鹿を肩に担いで、狭い階段を飛び降りるよう要求された。
この演目は3か月間続き、ヘプバーンは好評を博した。
ニューヨーク・ワールド・テレグラムのリチャード・ガーランドは、「これほど輝かしいパフォーマンスがブロードウェイの舞台を明るくして以来、それが毎晩続いている」と記している。
ハリウッドのエージェント、リーランド・ヘイワードのスカウトは、『戦士の夫』でのヘプバーンの演技を見て、近日公開予定のRKO映画のある配役の演技テストを打診した。
それは、キャサリン・ヘプバーンの映画デビュー作となった『愛の嗚咽(A Bill of Divorcement』』のシドニー・フェアフィールド役であった。
ジョージ・キューカー監督は、自分が見たものに感銘を受け、「ここに奇妙な生き物がいた」と回想し、「彼女は私が今まで聞いた誰とも違っていた」と語った。
特に彼女のグラスの持ち上げ方が気に入っており、「あのアクションにおいて彼女はとても才能があると思った」と語っている。
この役での出演をオファーされると、ヘプバーンは週に1,500ドルを要求したが、これは無名の女優としては高額だった。
キューカーはスタジオに彼女の要求を受け入れるよう勧め、ヘプバーンと3週間の保証付きの一時契約を結んだ。
RKOの社長・デヴィッド・O・セルズニックは、この稀有な女優をキャスティングするにあたって「大きなチャンス」をつかんだと述懐した。
ヘプバーンは1932年7月、25歳でカリフォルニアに到着した。
彼女は『愛の嗚咽』でジョン・バリモアと共演したが、威圧的な素振りは見せなかった。
ヘプバーンはこの映画でのキャラクターの演技に苦労したが、最初から映画業界に魅了されていった。
この作品は成功し、ヘプバーンは好評を博した。
ニューヨーク・タイムズ紙のモーダント・ホールは、彼女の演技を「非常に素晴らしかった…ミス・ヘプバーンの演技はスクリーン上で見られる中で最も優れたものの一つである」と評した。
バラエティ誌の批評は、「ここで際立っているのは、キャサリン・ヘプバーンが最初の映画の仕事で与えた衝撃的な印象である。彼女には、これまでの映画スターとは一線を画す重要な何かがある。」と述べた。
この作品の成功によって、RKOと彼女は長期契約を結んだ。
監督のジョージ・キューカーは、彼女の生涯の友人であり同僚となり、彼女と共に10本の映画を製作したのであった。
そして、次の作品が、この「勝利の朝」であった。
キャサリンのマシンガン・トークの魔力は世界一であった。
ハリウッドにおけるコメディの代表作品といえば、スクリューボール・コメディである。
その分野でのトップ女優として、間違いなくキャサリン・ヘプバーンは認知されたのだ。
本作においても、田舎出の売れない女優があっとおどろくシェイクスピアの演劇でのセリフをまくし立てる、その卓越した役者としての存在感はこの映画の最高の見せ場だ。
酔っぱらった姿が笑える。
そして、酔っぱらった挙句に、「私は女優だ!」と、シェイクスピアの「ハムレット」のセリフや、「ロメオとジュリエット」の「ジュリエット」のセリフをノーミスで語りまくる!
それがこのシーン:
この映画は、RKOピクチャーズ(RKO Pictures)というアメリカ合衆国の映画会社が製作・配給したものだ。
この企業は、1950年代までは、メトロ・ゴールドウィン・メイヤー (MGM)、パラマウント、20世紀フォックス、ワーナー・ブラザースと並んで、「ビッグ5」と呼ばれ、ハリウッド黄金時代を牽引する一大メジャー映画会社であった。
その後ハリウッドも統廃合が進み、現在のRKOはメジャーではなくなっているようだ。
この作品は、キャサリン・ヘプバーンの女優としての魅力を思い切り披露した作品である。
原題「Morning Glory」とは「朝顔」のことであるが、邦題は「勝利の朝」と訳され、本編内容とはまるで関係ないような題名となっている。
なぜか。
もしかすると本作の日本での上映が決まった時、「Morning Glory」という原題を誤訳してしまったのだろうか。
まさか花の名前である「朝顔」を英語で「Morning Glory」と言うことを知らなかったのかも。
本作公開の1933年の当時は、まだ日本には英和辞書も存在しなかったのかも。
いやいや、そんなことは無い。
「Morning Glory」が「朝顔」のことであることは分かっていたはずだ。
だが、邦題をあえて「勝利の朝」にしたのは、おそらくこの映画が間違いなくキャサリン・ヘプバーンを一躍有名にするでだろうと確信するものがあったに違いない!
その予想通り、本作で彼女は一躍オスカー女優になったのである。
ほとんど実績が無かった無名に近い女優が、本作を皮切りに世界にその名を知らしめる名優となったのであった。
この映画は、まさにキャサリン・ヘプバーンにとって「勝利の朝」になったのだ。
念のためにこの映画の英語のWIKIPEDIAをチェックしてみたところ、あらすじの中に、「朝顔」という言葉がちゃんと最後に出てくるのだ。
あらすじの後半は以下のようになっている:
ヘッジスは最終的に絶望的な状況にあるエヴァを発見し、イーストンのアパートで開かれるセレブリティのパーティーに彼女を連れて行く。
酩酊したエヴァは騒ぎを起こすが、シェイクスピアのような力強い独白を披露して皆を驚かせる。
彼女は眠りに落ち、イーストンの執事によって寝かされる。
翌朝、イーストンはエヴァの無実を利用したことに罪悪感を抱き、シェリダンに打ち明け、助けを求める。
密かにエヴァに恋心を抱くシェリダンは、イーストンとの一夜が献身的な関係の始まりだと信じてエヴァに真実を明かさないことに決め、エヴァを去らせる。
何か月も経ち、エヴァは何度もイーストンに会おうとするが、イーストンは彼女を無視する。
シェリダンも自分の気持ちを隠し続ける。
イーストンの劇団は、リタを主演に据えてシェリダンの新作を上演する準備をしている。
初日の夜、リタは大幅な昇給と演劇からの利益の半分を含む書面による契約を要求する。
追い詰められたイーストンは従うことを考えるが、シェリダンは代わりにサプライズの代役としてエヴァを連れてくることを提案する。
イーストンはしぶしぶ同意し、リタは撮影セットから飛び出した。
リタの楽屋で、エヴァとシェリダンが一緒にいることに気づく。
突然のチャンスに圧倒され、エヴァは疑いと恐怖でいっぱいになる。
彼女はイーストンの前で演技することができないと感じており、自分の才能と避けられない失敗に疑問を抱いていた。
シェリダンは彼女を安心させ、彼女の強さ、美しさ、そして天性の演技能力を思い出させる。
彼の言葉に励まされたエヴァは自信を取り戻し、この役を引き受けることを決心する。
シェリダンの予言通り、エヴァの演技は大成功する。
バックステージでイーストンはエヴァと和解し、彼女に職業上の友情とサポートを申し出る。
イーストンが去った後、シェリダンは勇気を出してエヴァへの愛を告白するが、エヴァは黙ったままで、二人の関係は不確かなままになる。
「朝顔」として知られる年老いた元スターのドレッサーと二人きりになったエヴァは、かつて彼女のドレッサーが愛よりも名声を選ぶという間違いを犯したと聞いて、慰められ、人生では真実の愛が最も重要であることを悟らせる。
気持ちを新たにし、今後の課題に立ち向かう準備ができたエヴァは、スターダムへの険しい道に向けて準備を整えている。
映画は楽観的な雰囲気で終わり、エヴァは自分が「朝顔」であることを恐れていないとドレッサーに自信を持って宣言するのであった。
どうやら、朝美しく咲いても夕刻にはしぼんでしまう「朝顔」のように、永久に続くスターダムというのはあり得ないのだという事をしっかり心に刻み、女優の道を進む決意をヒロインは表明して、映画は終わっているのだ。
まあ、日本語タイトルが「朝顔」だとそういう深い意味は伝えられないだろうから、「勝利の朝」と命名したのであろう。
これで納得できる。
いずれにしても、本作をきっかけに、キャサリン・ヘプバーンは更なる高みを目指して女優業にまい進するのである。
この映画は、TSUTAYAでレンタル可能:
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