「深夜の告白」
(原題: Double Indemnity)
1944年9月6日公開。
保険金殺人事件を映画化したフィルム・ノワール。
原作:ジェームズ・M・ケイン
脚本:レイモンド・チャンドラー、ビリー・ワイルダー
監督:ビリー・ワイルダー
キャスト:
- ウォルター・ネフ: フレッド・マクマレイ - 保険外交員。
- フィリス・ディートリクスン: バーバラ・スタンウィック - 実業家の後妻。元看護師。
- バートン・キーズ: エドワード・G・ロビンソン - 保険調査員。
- ディートリクスン氏: トム・パワーズ - 初老の実業家。フィリスの夫。
- ローラ・ディートリクスン: ジーン・ヘザー - ディートリクスンと先妻との間の娘。
- ニノ・ザケッティ: バイロン・バー - ローラの恋人。
- ジャクソン: ポーター・ホール - ディートリクスンが死亡した事件の証人。
あらすじ:
深夜のロサンゼルス。フル・スピードで走ってきた車がパシフィック保険会社の前で止まり、肩をピストルで射ぬかれた勧誘員ウォルター・ネフ(フレッド・マクマレイ)がよろめきながら下りてきた。
彼は会社の自室に入り、テープレコーダーに向かって上役バートン・キース(エドワード・G・ロビンソン)に宛てた口述を始めた――。
数カ月前、ウォルターは会社に自動車保険をかけているディートリチスン(トム・パワーズ)を訪ねたが不在で、夫人のフィリス(バーバラ・スタンウィック)に会った。
翌日フィリスはウォルターのアパートを訪れ、夫を殺してそれを事故死と見せ、倍額保険を取ろうともちかけた。
足を怪我したディートリチスンは、近く開かれるスタンフォード大学の同窓会へ汽車で行く予定だった。
最初は当惑するウォルターも、フィリスの肉体の魅力に負けて、ついに計画を手伝う破目になった。
保険に入ろうとしないディートリチスンからサインを詐取して保険証書を作った2人は、犯行当夜のアリバイを作って実行に入る。
ディートリチスンと同じ服装をしたウォルターは、フィリスの運転する自動車に忍び込み、車に乗った彼を撲殺。
代わって松葉杖をつきながら汽車に乗った。
展望車に乗り合わせた男がいなくなったすきをついて汽車から飛び降り、自動車で先回りしていたフィリスとディートリチスンの死体を線路に運び、松葉杖を置いて立ち去った。
計画は成功し、ディートリチスンは過失死と認められた。
だがただひとり、キースが死因を怪しんで調査を始めた。
そしてディートリチスンの娘ローラ(ジーン・ヘザー)の恋人ニノ(バイロン・バー)に嫌疑がかかり、ローラも行動を監視され、ウォルターはディートリチスン家に近づけなくなった。
ひそかに連絡をとってフィリスと会っているうちに、ウォルターは次第に不安を感じ、ある夜いらいらした気持ちでフィリスと会ったとき、ついに2人の間に争いが起こりフィリスはウォルターを撃つ。
ウォルターはピストルを取り上げ彼女を射殺した。
――ウォルターの告白が終わったとき、キースが入ってきた。
彼にとっては信頼するウォルターであったが、殺人の罪は裁かれねばならない。
キースは受話器をとり、警察に電話をかけた。
コメント:
フィルム・ノワールの古典として現在でも高く評価されている作品。
不倫による生命保険金殺人を取り上げた倒叙型サスペンスの先駆であり、その後の多くの映画・テレビドラマに影響を与えた。
原題の「Double Indemnity」は、「二重の補償」、「倍額保険」という意味。
日本語タイトルの「深夜の告白」は、原題とは全く関係ない表現だが、こちらのほうが神秘性があってスリラー映画の雰囲気がある。
原作であるジェームズ・M・ケインの小説『Double Indemnity』(1936年)は、保険会社勤務の経験を持つケインが、1927年に実際に起きた保険金殺人事件「ルース・スナイダー事件」に触発されて執筆したものといわれる。
このタイトルは、自動車など他の交通機関に比べて乗車中の危険率が低い鉄道での死亡事故が起きた場合、通常の生命保険契約の倍の保険金が支払われるという作中での設定による。
本作におけるフィリスという女性のキャラクターは、それまでのハリウッド映画では倫理的に許されないほどの異常な悪女であった。
従来、明るい美人の役柄を得意としてきたバーバラ・スタンウィックは、自ら選んだ金髪のかつらを被り、フィリス役に挑んだ。アカデミー主演女優賞にもノミネートされたが、受賞は逸した。
夫の殺害に際しても何ら動じず、むしろ笑みさえ浮かべるフィリスの非情さは、ファム・ファタール(運命の女、危険な女)と言われる女性像のクラシックになっているとされる。
映画はタイトル通りに深夜の告白から始まる。
原作は、ジェームズ・M・ケイン、脚本にあのハードボイルド小説の巨匠レイモンド・チャンドラー(なんと、カメオ出演している)そして、そして監督はビリー・ワイルダー。
1944年の戦争中にこんな戦意高揚とは程遠い作品が作られているとは、アメリカの力を感じさせられる。
映画のスケールとしては小品と言う感じだが、これだけのスタッフを集めて、全く隙のない傑作だ。
話は保険金殺人ということで、今では使い古されたネタではあるが、70年以上前にそもそもの原点を作ったということになる。
保険会社の営業をしている切れ者のネフ(フレッド・マクマレイ)が、保険の外交で出会った人妻フィリス(バーバラ・スタンウィック)に惑わされ、夫殺しの完全犯罪を目論む。
そこに、立ちはだかるのが、ネフの上司でもある天才保険調査員キーズ(エドワード・G・ロビンソン)ということになる。
ちょっと、刑事コロンボを思わせる構成で、先に観客に犯罪を見せて犯人を知らしめておいて、それがバレるかどうかのサスペンスを楽しませてくれる。
いつしか、我々観客は犯人側に立って、何とか成功して逃げられないかと思ってしまうところがこの作品のミソ。
それにしても、白黒画面の美しさの極致といっても過言ではなく、白黒だからこそ表現できる怪しい空気感、特にナイトシーンの素晴らしさには息を飲むくらいに計算されている。
そこに、ビリー・ワイルダーの職人芸で、今回はコメディではなくフィルム・ノワールをヒッチコックのようなサスペンスで盛り上げてくれる。
それにしても、70年以上前の作品で、全く今にも通用する面白さで、さまざまな所で後に作られた映画・ドラマが参考にしたと思える。
まさに、この種の映画の教科書のような作品なのだ。
スーパーでの密会等の日常におけるサスペンスも見事で、さすが、ワイルダーの作品と感心する他はない。
エンディングでの、ネフとキーズが煙草の火をつける典型的なフィルムノワールの男の友情の演出にもしびれた。
エドワード・G・ロビンソンも実に生きている。
かっこいい映画だ。
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