「ダニー・ケイの黒い狐」
(原題:The Court Jester)
1956年1月27日公開。
中世イングランドを舞台としたコメディ史劇。
興行収入:$2,200,000。
キャスト:
- ヒューバート・ホーキンス:ダニー・ケイ
- ジーン:グリニス・ジョンズ
- レイヴンハースト卿:ベイジル・ラスボーン
- グエンドリン王女:アンジェラ・ランズベリー
- ロデリック王:セシル・パーカー
- グリセルダ:ミルドレッド・ナトウィック
- グリスウォルド卿:ロバート・ミドルトン
- ロックスリー卿:マイケル・ペイト
- “黒キツネ”:エドワード・アシュレイ
あらすじ
中世紀の英国。
陰謀をめぐらして王位についたロデリック王(セシル・パーカー)は、王室の正しい血統をつぐ幼児が、“黒ギツネ”(E・アシュリー)を首領とする忠臣たちに護られて王位回復の機会をねらっている、という噂に心を痛めていた。
ロデリック王は宰相レヴンハースト(バジル・ラスボーン)に“黒ギツネ”討伐を命じ、気の進まないグエンドリン姫(アンジェラ・ランズベリー)を武人グリスウォルドに嫁がせて、防備を固めようとした。
だが、レヴンハーストは王位をねらう悪人で、王の暗殺を企てていた。
一方、“黒ギツネ”の部下でサーカス芸人のヒューバート・ホーキンス(ダニー・ケイ)は王の追手が迫ったので幼い王子を僧院に送り届ける役目を命ぜられる。
ホーキンスは、酒つくりの老人に変装して王子を酒ダルにかくし、義勇軍の女隊長ジーン(グリニス・ジョンズ)を自分の孫娘に扮装させた上、馬車で出発した。
途中、嵐のため2人はとある小屋で夜を明かし、愛し合う仲となったが、そこに表向きは同化師で実は暗殺の名人のジャコモという男が現われた。
2人は示し合わせてジャコモを倒し、ホーキンスがジャコモに化けて一同は宮廷に乗り込んだ。
だが宮廷は婿君グリスウォルド卿歓迎の大宴会の準備で大騒ぎ。
ジーンも王の家来に馬車ごとつれて行かれ、やっとすきをみて味方の間諜に酒ダルの中の王子をあずけた。
レヴンハーストとホーキンスはお互いを味方の間諜と信じて珍妙な間違いをくり返したが、結婚をいやがるグエンドリン姫は、魔法使いの女グリセルダ(ミルドレッド・ナットウィック)に命じてホーキンスを招きよせた。
彼は魔法のため自分を武勇の騎士と信じこみ、姫と愛を誓った。
大宴会の席上、これを憤ったグリスウォルドは、ホーキンスに決闘で姫の婿を決めろと申し込んだが、試合はホーキンスの勝ちとなった。
レヴンハーストは正体のばれたホーキンスとジーンを捕え、死刑を宣告した。
死刑の当日、危うい処で2人は仲間のコビトに救われ、“黒ギツネ”も部下と共に攻めよせてきた。
ロデリック王は降伏し、ホーキンスはグリセルダの魔法の力でレヴンハーストを倒して幼い王子を国王の位につけたのであった。
コメント:
この映画は、ダニー・ケイ主演の歴史ミュージカル・コメディ映画である。
この映画は、カーニバルのエンターテイナー、ヒューバート・ホーキンスを主人公にした歴史映画。
ホーキンスは、中世イングランドの真の幼児王を簒奪者から守るブラック・フォックスの反乱軍団(ロビン・フッドと陽気な男たちのパロディ)のメンバーである。
原題の「The Court Jester」とは、「宮廷道化師」という職業の名前だ。
「宮廷道化師」というのは、王侯貴族に雇われた道化師・エンターテイナー。
世界各地に存在したが、特に中世ヨーロッパとテューダー朝時代のイギリスの者を指す。
現代でもヨーロッパの歴史再現の催し物で見ることができる。
中世の宮廷道化師は色鮮やかなまだら模様の服装と風変わりな帽子を被っており、先にあげた現代のものはこの服装を模倣している。
中世の宮廷道化師たちは、物語を語ったり、歌や音楽、アクロバットやジャグリング、奇術など様々な芸を披露して楽しませてきた。また、おどけた調子で芸を披露し、当時の事柄や人物を笑いにした歌や話を創作した。
この映画は、主人公ホーキンスが宮廷道化師の身元を偽り、暗殺者たちと闘う物語だ。
そのため彼は、邪悪な目的のために道化師を利用しようとする者がたくさんいる王の城にスパイとして潜入する。
この映画には多くの機知に富んだ言葉遊びが多用されている。
中でも有名なのは、早口言葉として最もよく知られている「すりこぎの入った容器には毒の入ったペレット、宮殿からの聖杯。本物のビールがあるよ!」( "The pellet with the poison's in the vessel with the pestle; the chalice from the palace has the brew that is true!")というセリフだ。
それがこのシーン:
この映画は公開当初は興行的に成功しなかったが、映画批評サイトRotten Tomatoesで高得点を獲得し、愛される名作に成長した。
主役を演じたダニー・ケイは、ニューヨーク州のブルックリンにて、ウクライナからのユダヤ系移民の親の元に生まれる。
幼い頃から歌とおしゃべりが好きで、高校中退後劇団に入り下積みを経験し、1939年の『The Straw Hat Revue』でブロードウェイデビューを果たす。
1934年には、ショーの一員として中国と日本へツアーを行なっており、大阪公演の際に台風に見舞われ、停電となったが、観客を落ち着かせるためにライトを手に舞台に上がり、知っているかぎりの歌を歌った。
言葉の通じない客を楽しませるためにパントマイムや顔芸を駆使し、このときの経験がのちの芸風を形作ったと述べている。
その後、1941年のブロードウェイ・ミュージカル『レイディ・イン・ザ・ダーク』に出演し、さらに同作品中のわずか39秒で50人のロシア人作曲家を早口で暗唱する『チャイコフスキー(とその他のロシア人)』という曲で大絶賛を浴びた。
さらに、彼の才能に注目した映画製作者サミュエル・ゴールドウィンの誘いにより映画界入りを果たし、1944年に『ダニー・ケイの新兵さん』で映画デビューを飾る。 以降、本作のほかにも、『ダニー・ケイの天国と地獄』や『虹を掴む男』、『ホワイト・クリスマス』、『五つの銅貨』等、数々の映画に出演した。
独特の早口で歌う様やコミカルな演技で人気を博した。
この映画は、日本では動画配信、レンタル共に見当たらない。
海外版DVDはアマゾンで販売されているようだ:
https://www.amazon.co.jp/The-Court-Jester/dp/B072QMXZ6P