「陽暉楼」
1983年9月10日公開。
宮尾登美子の同名小説の映画化。
土佐の高知随一の遊郭・陽暉楼を舞台に様々な人間模様を描く異色作。
受賞歴:
1983年 第8回 報知映画賞 助演女優賞(倍賞美津子) 1984年 第7回 日本アカデミー賞 最優秀監督賞(五社英雄) 最優秀脚本賞(高田宏治) 最優秀主演男優賞(緒形拳) 優秀主演女優賞(池上季実子) 優秀助演男優賞(風間杜夫) 最優秀主演女優賞(浅野温子) 優秀助演女優賞(倍賞美津子) |
脚本:高田宏治
監督:五社英雄
キャスト:
- 太田勝造
- 演 - 緒形拳
- 女衒。あだ名は「だいかつ」。普段は借金を抱える家の娘たちを芸妓や女郎として欲しがる店に斡旋する仕事を淡々とこなしている。顔に凄みがあり喧嘩が強く、怒らせると手のつけようがない。殺人で前科2犯。
- 稲村から後ろ盾になってやると言われた時は「(組織を作って)いまさら成り上がるつもりはありません」と断り終始一匹狼を貫いている。そのため命を狙われることになる。桃若のことは娘として愛情を持っているものの、桃若の生みの母・呂鶴が死んだ原因が自身にあったり、愛人を作ったりしているため親子関係は上手く築けていない。
- 太田房子(桃若)
- 演 - 池上季実子、加藤奈巳子(少女)
- 陽暉楼のNo.1芸妓。女将お袖に「100年に一人出るか出ないかの芸妓」とその素質を高く評されている。ただし陽暉楼や客の一部からは「見かけとは違って情が薄い、冷たい女や」と思われている。佐賀野井の子を妊娠する。
- 勝造によって芸妓となるべく幼いころに陽暉楼に連れてこられた。勝造の命を狙う追っ手によって母・呂鶴が死んだが、桃若にとっては勝造に殺されたようなものとして父に対し激しい憎しみを内に秘めている。母に生写しだといわれるが、生前の母の詳しい話はあまり聞かされていない。
- 『サーカスの唄』(松平晃の歌)が大好きで少しだが歌うシーンがある。
- 豊竹呂鶴
- 演 - 池上季実子(二役)
- 房子の生みの母。娘義太夫。美人で、過去に佐賀野井の父や堀川がのぼせ上がって通いつめたほど。その歌声が絶賛されている。勝造と駆け落ちしたが、まだ乳児だった房子を残して勝造の追っ手によって殺された。
- 珠子
- 演 - 浅野温子
- 勝造に囲われていた愛人。大阪で娘義太夫の修業をした後、カフェーの女給になり勝造と知り合った。勝造と別れ、芸妓になりたいと申し出たが陽暉楼の女将・お袖に断られた。その後玉水遊郭の女郎として働き始め、ほどなくして一番の売れっ子となる。
- 気が強くやり手のお袖にも動じずに話をしたり、初対面にも関わらず桃若を筆頭とする芸妓たちに向かって「なんやこれが陽暉楼の芸妓かいな、しょーもな(くだらないの意味)!」と言い放った。桃若を敵視し、挑発的な態度を取る珠子だが、後に、桃若と心を通わせるようになる。
- 胡遊
- 演 - 二宮さよ子
- 陽暉楼の芸妓、桃若の先輩。本人によると「金持ちの優しいお爺さんを含めて2、3人の男と付き合っている」とのこと。本気で男を愛したことがないという桃若に本気の恋愛について教える。
- 吉弥
- 演 - 市毛良枝
- 陽暉楼の芸妓、桃若の先輩。桃若が本気で男に惚れたことがないと指摘している。仲は悪くはないが桃若について「元々あの人は一皮むけば自分さえ良ければいい人間なんや」と感想を述べている。
- 茶良助
- 演 - 熊谷真実
- 陽暉楼の芸妓、桃若の先輩。ダンスホールで佐賀野井からチャールストンのダンスを習っていたところ、踊りの上手い珠子に邪魔をされ佐賀野井を取られた。また桃若が妊娠した時に「産むか降ろすか早く決めた方がいい」と助言をする。
- 助次
- 演 - 西川峰子
- 陽暉楼の芸妓、桃若の後輩。作中では「父や母が病気でお金がいる」などと理由をつけては、金を前借りしている。女将お袖について裏では「あの女は鬼かヘビや!」などと嫌っている。14歳の頃から客を取らされており、その割に借金が一向に減らないと勘兵衛に食って掛かった。
- とんぼ
- 演 - 仙道敦子
- 陽暉楼の若い芸妓。桃若を慕っており、色々と気遣いを見せる。
- 〆若
- 演 - 山本ゆか里
- 米蝶
- 演 - 弓恵子
- 今助
- 演 - 林彰太郎
- 勘兵衛
- 演 - 花沢徳衛
- 陽暉楼の番頭。店の金の管理、雑用などをこなす。
- 古田徳次
- 演 - 木村四郎
- 大阪の天下茶屋で中学校の教師。金を借りるために妻昌江を売ろうとする。勝造から前金の百円を持ち逃げし、まもなくケンカに巻き込まれて死ぬ。
- 丸子(古田昌江)
- 演 - 佳那晃子
- 古田の妻。前金持ち逃げの後、夫を亡くし、別の店で芸妓となり売れっ子となる。稲宗組の親分に気に入られる。元々はしおらしい女性だったが、稲宗組と関わる内に性格が豹変する。稲宗組の親分の命で陽暉楼にスパイとして送り込まれ、陽暉楼の主人を誘惑する。
- お駒
- 演 - 上月左知子
- 陽暉楼の芸妓たちの世話をしている。桃若が客に会う前に助言やお願いをしている。
- 仁王の秀次
- 演 - 風間杜夫
- 勝造の舎弟。勝造の指示を受け、玉水で女郎として働き始めた珠子を見守る。優しい人柄で、初めての客から逃げ出そうとした珠子に対し、無理に引き戻さず判断を委ねた。後に、珠子と土佐に小料理屋を開く。
- 佐賀野井守宏
- 演 - 田村連
- 南海銀行の御曹司。一目見た時から桃若を気に入り好意を持つ。ダンスホールで居合わせた玉水の女郎たちから「ええ男、活動写真のスターみたいやわ」と褒められる。特技はダンスで、チャールストンを踊れる。
- 山岡源八
- 演 - 北村和夫
- 陽暉楼を経営。表向きは真面目な商売人だが、博打好き。気の強いお袖の尻に敷かれっぱなしだが、実際には血も涙もない情のかけらもない女だと愚痴をこぼしている。
- 堀川杢堂
- 演 - 曽我廼家明蝶
- 銀行協会の会長。桃若の上物の客で、陽暉楼の客の中で特に大事にされている。桃若からは「ほーさま」と呼ばれている。自ら年寄りと認めており、金はあるものの体力的に衰えてきている。綺麗で踊りも上手い桃若が中々客と長続きしないことを不憫に思っている。
- 前田徳兵衛
- 演 - 丹波哲郎
- お袖
- 演 - 倍賞美津子
- 陽暉楼の女将。元芸妓。陽暉楼を取り仕切っている。周りから「お母さん」と呼ばれているが、親しみより恐れられている存在。真偽は不明だが「芸妓だった時に陽暉楼の女将になるために蛇神様を祀って先代の女将を呪い殺した」と芸妓たちから噂されている。また三好からは警察も動かすやり手の女として、一筋縄ではいかない存在となっている。
- 金串によると芸妓だった頃勝造と恋仲だった。そのため別れた今でも勝造とは仕事や桃若を通じて親しくしている。桃若を幼いころから立派な芸妓にするため手塩にかけて育てており、そのためなら時に手厳しい言動も辞さない
あらすじ:
昭和8年、高知随一の遊興の場として名高い陽暉楼。
売れっ子芸妓の桃若(池上季実子)は、芸妓紹介業を営む父・太田勝造(緒形拳)に売られた身だ。
母親のお鶴(一人二役:池上季実子)は既に死んでいる。
陽暉楼の女将・お袖(倍賞美津子)は、お鶴と勝造を取り合った過去を持つが、今は桃若を最高の芸妓に育てようとしている。
勝造は大阪に珠子(浅野温子)という女を囲っていた。
女義太夫の道を諦めた珠子は、もう一度花を咲かせたいと考える。
珠子は勝造に仲介してもらって陽暉楼で働こうとするが断られ、娼婦になることにする。
ダンスホールで出会った桃若と珠子は、激しいケンカを繰り広げる。
高知進出を狙う大阪の稲宗一家が、陽暉楼を守ろうとする勝造を襲って重傷を負わせる。
病院に駆け付けた珠子に、勝造は自分の子分である秀次(風間杜夫)と一緒になるよう勧める。
一方、桃若は恋人である佐賀野井(田村連)の子供を妊娠したことに気付く…。
桃若は、子供を生もうと決心し、悩んだ末、堀川(曽我廼家明蝶)に子供は彼の子でないと打ち明けた。
そんなことは承知で子供は認知しようと考えていた堀川は、自分の気持ちを踏みにじられたことに激怒し、縁切りを言い渡す。
珠子は、勝造の希望通り秀次と一緒になり、高知に店を出すことになった。
そして、桃若は女の子を生み弘子と名づける。
桃若は、子供のために懸命に働くが、ある日、稽古の最中、突然倒れた。
結核で身を蝕ばまれていたのだ。
病院に見舞った珠子は、弘子を治るまであずかると言うが、芸妓の世界の習いとして、すでに弘子はお袖の世話で里子に出ていた。
お袖は、弘子を返してくれとの勝蔵の頼みに、桃若の勝手な振舞いをののしる。
桃若の容態は悪化し、臨終の枕もとに弘子を伴って駆けつける勝造。
その夜、秀次・珠子の店を勝造が訪れ桃若の死を告げた。
その時、稲宗の手下が店を襲い、ドスに倒れて秀次は死んでいった。
そして、大阪駅・三等待合室。
勝造は切符を二枚珠子に渡し、用事が済むまでここで待つよう言い残し出て行く。
勝造は床屋にいる稲宗、三好らを射殺するが、逃げる途中、追手に刺され絶命した。
深夜の駅では、いつまでも勝造を待ち続ける珠子の姿があった。
コメント:
原作は、宮尾登美子の同名長編小説。
昭和初期の四国の遊興界における女の人生を描き切った宮尾登美子の代表作。
筑摩書房から1976年に刊行された。
これは、実在した四国一の一流料亭「陽暉楼」を舞台にした物語だ。
五社英雄監督のエロスと任侠の映像化の才能が存分に発揮されている名作である。
『鬼龍院花子の生涯』に次ぐ五社英雄・宮尾登美子コンビの二作目で、土佐の高知の花柳界を舞台に生きる女衒の父と芸妓となった娘との愛憎を描く。
ヒロイン・桃若を演じる池上季実子が美しい。
池上季実子の濡れ場の表情が美しい。
初ヌードで、オッパイ、美尻丸出しだ。
カメラワークもきれいだし、色彩、演出もすばらしい。
やはり、五社英雄監督ならではの映像である。
本作の見せ場は、桃若(池上季実子)と珠子(浅野温子)の二人が張り合ってトイレでびしょぬれの大乱闘を繰り広げるところ。
この作品最大の、女同士のヘビーな乱闘シーンである。
土佐のおなごは気が強いということを象徴している。
売れっ子とそのライバルとの戦いというよりも、父親の愛人と美人の母親が瓜二つということで、互いに嫉妬したという背景がある。
浅野温子の熱演が光る。
ダブル浅野ドラマや踊る捜査線などのトレンディドラマとは全く異なるぶっ飛んだ演技だ。
最初から胸を出して、色気満々の痴態をさらしている:
緒形拳に侵されるシーンもなかなかの存在感だ:
緒形拳は相変わらず渋い重厚な演技を見せる。
ヤクザと立ち会う気概を発揮する役柄は、この人がうってつけだ。
緒形拳のような骨太な役者が近年めっきり減ったことは残念だ。
倍賞美津子の遊郭のおかみ役が板についていてこの映画をしっかり作り上げている。
この女優は、色気だけでなく、任侠の世界でもしっかり存在感を示せる演技力があり、頼もしい。
この映画の舞台となった「陽暉楼」は、現在も続く高知市の料亭「得月楼」(とくげつろう)をモデルにしているようだ。
得月楼は、自由民権運動発祥の地として知られる高知県の中心部・はりまや橋のたもとにあり、明治三年(一八七○年)の創業以来、今日までその歴史と伝統を受け継いできた。
数奇屋造りの佇まいから「南海第一楼」と謳われた当時の姿がしのばれるという。
幕末の著名な庭師による見事な庭園、文人墨客の書画も多数所蔵していて、宮尾登美子氏の著作「陽暉楼」の舞台として全国的に知られている。
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