「草原の椅子」
2013年2月23日公開。
世界最後の桃源郷と呼ばれるパキスタン・フンザへ旅するヒューマンドラマ。
興行収入:1.4億円。
受賞歴:
- 第37回日本アカデミー賞新人俳優賞(黒木華)
- 第56回ブルーリボン賞 新人賞(黒木華)
- 第23回日本映画批評家大賞 新人賞(黒木華)
原作:宮本輝「草原の椅子」
脚本:加藤正人、奥寺佐渡子、真辺克彦、多和田久美、成島出
監督:成島出
キャスト:
- 遠間憲太郎:佐藤浩市
- カメラメーカーに勤める中間管理職のサラリーマン。
- 富樫重蔵:西村雅彦
- 篠原貴志子:吉瀬美智子
- 喜多川祐未:小池栄子
- 鍵山:AKIRA
- 遠間弥生:黒木華
- 喜多川圭輔:貞光奏風(子役)
- 喜多川秋春:中村靖日
- 道代:若村麻由美
- 富樫の母:草村礼子
- 富樫茂雄:井川比佐志
あらすじ:
遠間憲太郎(佐藤浩市)は50歳の会社員。
阪神淡路大震災後、桃源郷ともよばれるフンザに旅してその地の老人から「あなたの瞳のなかには、三つの青い星がある。ひとつは潔癖であり、もうひとつは淫蕩であり、さらにもうひとつは使命である。」という不思議な言葉を告げられた経験を持つ。
現在彼は妻と離婚し、大学生の娘・弥生(黒木華)と阪神間の夙川(しゅくがわ)で暮らしている。
街は震災から復興したが、憲太郎の心の底にはまだ震災で受けた衝撃が残っていた。
ある日、憲太郎は幼時に実の母親から虐待を受けていた4歳の少年・圭輔(貞光奏風)に出会い、その世話を手伝うことになる。
取引先の社長で同じ歳の富樫重蔵(西村雅彦)との仕事を越えた友情に助けられながら、憲太郎は圭輔へのいとおしさを深めていく。
憲太郎はまた、趣味の店で出会った篠原貴志子(吉瀬美智子)に密かに惹かれる。
憲太郎は富樫とフンザに旅する計画を立て始めたが、衝動的に貴志子をフンザ行きに誘い、さらには圭輔を同行させざるを得ない状況になる。
コメント:
50代の男性が母親に虐待されて育った少年らとともに、桃源郷といわれるパキスタンのフンザを目指して旅する物語。
宮本輝が、阪神・淡路大震災で被災したことをきっかけに、シルクロード6700キロ、40日にわたる旅に出た体験をもとに、その後50歳のときに執筆された長編小説を映画化。
映画の設定は、東日本大震災以後の東京に変わっている。
パキスタンのフンザ、カリマバード、スカルドゥなどで約1か月半に渡る長期撮影が行われた。
この地域での長期撮影は世界初だった。
『八日目の蝉』の成島出が監督した作品で、佐藤浩市、西村雅彦、吉瀬美智子が出演している。
バツイチで、年頃の娘と二人暮らしの遠間憲太郎(佐藤浩市)に、
50歳を過ぎて三つの運命的な出会いが訪れる。
ひとつは、取引先の社長・富樫(西村雅彦)に懇願され、いい年になってから親友として付き合い始めたこと。
もうひとつは、ふと目に留まった独り身の女性・貴志子(吉瀬美智子)の、愁いを湛えた容貌に惹かれ、淡い想いを寄せるようになったこと。
そして三つめは、親に見離された幼な子、圭輔(貞光奏風)の面倒をみるようになったこと。
憲太郎、富樫、貴志子の3人は、いつしか同じ時間を過ごすようになり、交流を深めていく中で、圭輔の将来を案じ始める。
年を重ねながら心のどこかに傷を抱えてきた大人たち。
そして、幼いにも関わらず深く傷ついてしまった少年。
めぐり逢った4人は、ある日、異国への旅立ちを決意する……
年齢も性別もバラバラな4人が、世界最後の桃源郷と呼ばれるパキスタン・フンザへ旅するという、大人の寓話的とも言うべきヒューマンドラマである。
佐藤浩市が演じる主人公は、大手カメラメーカーの販売局長だ。
ある日、取引先の中堅販売店チェーンの社長(西村雅彦)から電話がかかってくる。
「不倫相手に別れ話を持ち出したら、灯油をぶっかけられて、二進(にっち)も三進(さっち)もいかない、助けてほしい」と。
それをキッカケに中年男ふたりの友情は始まる。
ある日、佐藤の娘・弥生(黒木華)がひとりの男の子・圭輔(貞光奏風)を連れてくる。
その子は、母親(小池栄子)に虐待されて心を開かない、という。
子供の父親のほかには、唯一、佐藤の娘にだけなついている。
またある日、佐藤は、ひとりで現代陶芸家の作品を扱う店に立ち寄り、その店を切り盛りする清楚な女性と知り合う。
彼女は、かつて旧家に嫁いでいたのだが、子供が出来ないことからその旧家に居づらくなり離婚した過去を持つ。
そんな男女三人とひとりの男の子。
彼らは互いに互いのことを気遣うようになっていく・・・
見知らぬ他人が、いつしか疑似家族になり、それがホントウの家族になっていくハナシである。
とにかく桃源郷・フンザの景色が素晴らしい。
パキスタンの奥地にあるという知る人ぞ知る秘境の地だ。
フンザ (Hunza, ウルドゥー語: ہنزہ) は、パキスタン・イスラム共和国北西部ギルギット・バルティスタンのフンザ=ナガル県に位置する地域。
広義では、藩王が1974年まで支配していたフンザ藩王国の版図、狭義ではその王都があったカリーマーバード(Karimabad)を指すという。
北で中華人民共和国、北西でアフガニスタンとの国境と接し、面積10,101平方キロメートル。中国のカシュガルへ向かうカラコルム・ハイウェイ沿いに、観光ホテルや安宿の集まるカリーマーバード、ゴジャール(Gojal)にあるパスー村、グルミット村などの集落が点在している。
ワハーン回廊へは、カランダル峠、イルシャード峠で夏期のみ連絡されている。また、ワフジール峠でバダフシャーン州(アフガニスタン)とタシュクルガン・タジク自治県(中華人民共和国 新疆ウイグル自治区 カシュガル地区)が連絡されている。
パキスタンと中国新疆ウイグル自治区を結ぶアジア横断ルートの途中にある上に、7000m級のパミール高原の山々が迫る辺境にあるため、外国人観光客や登山目的の旅行者が多い。アジアを旅するバックパッカー(個人旅行者)には「伝説の地」、「桃源郷」と呼ばれるほど、景色がすばらしい。自然豊かな村や谷は、4月になると杏の花でピンク色に埋め尽くされる。
この映画は、宮本輝の小説の中でも最も大きな時空間を描いている作品で、小説自体の評価は極めて高い。
しかし、映画は、鳴り物入りで公開されたにもかかわらず、興行収入がたったの1.4億円。
映画賞の受賞も、佐藤浩市扮する主人公の娘を演じた黒木華のみという結果に終わった。
数多くのブログを見ても、「自分が生んだ子を虐待死、育児放棄した母親を演じた小池栄子がすごかった」という感想のみだ。
この女優の演技力が素晴らしいということではないようだが、とにかくぶっ飛んでいて怖かったというものだ。
つまり、これ以上にもっと心に残るシーンがこの映画には無かったということになる。
これだけ魅力的なフンザの風景をバックにしながら、観客を感動させられなかったという、情けない結果に終わっているのだ。
信じられない。
これは、完全に監督と脚本の力量不足だ。
子供を主人公にしている映画は、非常に映像化が難しいと言われているが、これはその最たるものだ。
この映画も、絶対にリメイクすべし!
山田洋次監督なら、絶対に素晴らしい泣かせる作品を作ってくれるだろう。
宮本輝の小説を今回全部読み直してみたが、どれも傑作だ。
だが、映画化が成功しているのは、「泥の河」、「蛍川」、「道頓堀川」のみ。
「流転の海」は第1部しか映画化されたが、大コケとなり、残りの8部は手つかずのままだ。
本作「草原の椅子」も失敗作と言わざるを得ない。
パキスタンの国境にあるフンザという場所が素晴らしいということすら、ほとんどの日本人は知らないままだ。
現在、フンザへの旅行はいくつかの旅行会社が手掛けているようなので、山岳旅行に興味のある人はどんなものかご覧になったらいかがか。
この映画は、Amazon Primeで動画配信可能:
本ブログを以て宮本輝の映画レビューを終了する。