「ハロルドとモード 少年は虹を渡る」
(原題:Harold and Maude)
1971年10月20日公開。
自殺を演じ続ける少年と、生を謳歌する80歳の老婆との恋を描く異色コメディ。
脚本:コリン・ヒギンズ
監督:ハル・アシュビー
キャスト:
- ルース・ゴードン:モード
- バッド・コート:ハロルド
- ビビアン・ピックレス:ハロルドの母親
- シリル・キューザック:グローカス
- チャールズ・タイナー:ハロルドの叔父
- エレン・ギア:サンシャイン・ドレ
- エリック・クリスマス:司祭
あらすじ:
19歳のハロルド(バッド・コート)にとって“自殺”は生活の一部だった。
広大な邸宅、欲しい物は何でも手に入る一人息子の彼は、ママ(ヴィヴィアン・ピックルズ)や叔父(チャールズ・タイナー)に代表される体制に、自殺で抗議するのだった。
応接間で首つりをしたり母親のバスルームで喉や手首を切って血の海にひたる――そのたびに母親が青くなればなる程、彼は満足感を味わう。
彼の愛車は霊柩車。
それを運転して葬式に出席する。
たびたびの葬式通いのうちに、もう1人の傍観者がきているのに気づいた。
80歳のおばあちゃん、モード(ルース・ゴードン)である。
彼女はチャーミングでいたずら好きで、生きることの喜びに満ちている。
廃棄されている鉄道車両に住む彼女を訪ねたハロルドは、彼女が友だちの彫刻家グローカス(シリル・キューザック)のためにヌード・モデルをやっているのを見て興味をもった。
彼女はまたハロルドに絵画や音楽のすばらしさを教えた。
一方母親は、コンピューターによるデート紹介サービスに依頼して、彼にガールフレンドを見つけてやることを決めていた。
彼の霊柩車も処分し、かっこいいジャガーを買い与えたが、ハロルドはすぐさまそれをミニ霊柩車に変えてしまった。
コンピューターが選んだ最初のデート相手は、女学生のキャンディ(ジュディ・エングルズ)だった。
しかし、彼が身体に灯油をかけて火をつけたため、悲鳴をあげて逃げてしまった。
2番目も3番目も同じように逃げだした。
万策つきた母親を冷たく見ながら、ハロルドはモードと一緒にいる楽しさを味わった。
ある夜、2人はカーニバルにいって遊んだ。
ハロルドはモードを深く愛していると告白した。
2人はモードの車両に帰り、ピアノを弾き、ワルツを踊った。
暖炉には火が燃え、2人はベッドに入った。
翌日、ハロルドはモードの写真を母親に見せ、結婚すると宣言した。
母親、叔父、はては牧師まで反対してわめきたてた。
しかし、ハロルドは頑として耳をかさなかった。
この問題を解決したのはモードだった。
80歳の誕生日を迎えた日、2人だけのパーティで、こんなすばらしい別れはないと睡眠剤を飲んで自殺した。
モードのいない翌朝、彼は泣きながら霊柩車を崖下に落下させた。
崖の上ではハロルドがバンジョーで“モードのワルツ”を弾く。
いま、ハロルドは生きる自信を全身に感じて歩みだしたのであった。
コメント:
ハロルドは自殺を演じることを趣味にしている19歳の少年。
彼のもう一つの趣味は見知らぬ人の葬式に参列することだった。
ある日ハロルドは、同じ趣味を持ち、ちょくちょく墓地や教会で顔を合わす79歳の老女モードと知り合う。
生きている実感が持てず、いつも死を見つめていたハロルドは、人生を謳歌するモードと付き合ううちに、彼女に魅かれ、生きる歓びを見出していく…。
マザコンのハロルドはお母さんに構って欲しくて色々な自殺を試みるも、お母さんは「もう少し明るく遊びなさい!夕食は8時よ!」と一向に関心を示さない。
どんなトリックを使ってるかは不明だが、ハロルドは自殺ごっこをしてるだけなので、お母さんはもう、相手にするのを止めてしまう。
ある時は首吊り。
ある時はバスルームで首を切り血塗れ。
ある時は切腹(⁉︎)その時に苦し紛れに「スキヤキ……」と一言。
何故、スキヤキかは謎である。
そんなハロルドの趣味はというと、お葬式に参加して悲しそうな面々を見ることだ。
人生の意味が見出せないハロルドはひたすら死に憧れ生気を失っている。
いつもの様にお葬式の見物を終えて帰ろうとすると、車泥棒のおばあちゃんに出逢う。
それが恋のお相手になるモードだった。
死神のような青白い顔のハロルドに比べ、しわだらけの顔でも溌剌とした笑顔は生の喜びに輝いている
モードの若々しいアクティブな明るさはハロルドには謎。
でも、引きずられるように行動を共にしているとハロルドに変化が現れる。
車泥棒を繰り返し、警察を煙に巻く。
街路樹の枯れた葉を嘆き森に戻してあげようと奮闘する。
盗んだトラックを飛ばしふたりで森へ向かう。
すると白バイに停められるも、モードは落ち着き払って警官をあしらい、逆に警官の目を盗んで白バイに跨がり逃走する。
モードが枯れかけた樹木を森に帰す行為は、ハロルドの枯れた心にたっぷりと命の水を注ぐことに繋がるのだ。
「毎日ひとつずつ新しい事をする」がモットーのモードに習って、次々と色々な事に挑戦して行く内に、ハロルドは毎日が楽しくなりやがてモードの存在がかけがえのないものに気付き、ハロルドは恋に落ちる。
80歳の誕生日を迎えるモードには人生の秘密があった。
ハロルドはその秘密を知らず、ある決意をもって誕生日の朝を迎えるが……。
その後の展開はハロルドにとってとても悲しい顛末となるが、生きる喜びを掴んだ彼の目は強い輝きを放ち未来を見つめていた。
この作品が描く「人生の肯定」に、ハロルドだけでなく観客も生きることを見直してみようと思うようになっている。
そんな映画なのだ。
79歳のモードはとてもチャーミングでいたずら好きのおばあちゃんで、「モラルを越えて生きなさい」とハロルドに教えるが、モードの実践するモラルを越えた行動の描き方が絶妙。
単純な笑いだけでなく、苦みや毒も含まれた風変わりな作品だが、若者の人生を応援するような暖かい人生賛歌だ。
葬儀の参列が趣味という以外は生まれも育ちもまったく違う変人二人の奇妙な交流を紡いだ異色の友情譚は、警官や軍人やモラルや常識を揶揄するブラックな味わいの反体制的ライトコメディである。
またそれは、老女の奔放な生き様を通して真に生きることを学ぶ孤独な少年のオーソドックスな成長物語であり、まさかまさかの展開が観る者の意表を突く切なくもメルヘンチックなラブストーリーでもある。
そんな様々な味わいを詰め込みながら、一本の映画としてソツなく纏め上げるアシュビー監督の職人的な腕の冴えを感じる異色のアメリカンニューシネマとして認知されている異色コメディ。
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