「道頓堀川」
1982年6月12日公開。
深作映画の代表作にもなった松坂慶子の美しさ。
ハスラーの道を巡る山崎努と佐藤浩市との父子対決。
深作欣二監督による傑作。
道頓堀川の夜の世界。
原作:宮本輝「道頓堀川」
脚本:野上龍雄、深作欣二
監督:深作欣二
キャスト:
- まち子
- 演 - 松坂慶子
- 小料理屋『梅の木』の女将(ママ)。邦彦より数歳年上。『梅の木』の2階で暮らしており、1階の一室で右の前足に障害のある“コタロー”と名付けた犬を飼っている。両親は既に亡くなっており天涯孤独の身だが、スポンサーの男性がいる。好きなものはレモンで、下戸らしくお酒が苦手。乱暴な人や嘘つきな人は嫌い。普段は人当たりが良いが、家族がいないということで人知れず寂しさを抱えている。
- やすおか邦彦
- 演 - 真田広之
- 19歳。あだ名は『くにちゃん』。父を早くに亡くし母子家庭育ちだったが、先日母が病死したばかり。1ヶ月前から喫茶店『リバー』のウェイターをしながら、母が残してくれた学費で美術学校に通っている。面倒見のいい優しい性格で誰かが困っていると助けたくなる性分でお人好し。一応絵描きの卵として絵の勉強をしているが特に決まった目標はなく将来を迷っている状態。
- 武内てつお
- 演 - 山崎努
- 道頓堀川沿いにある喫茶店『リバー』のマスター。政夫の父。邦彦の雇い主で、彼の父親代わり。妻は既に亡くなっている。15年前までハスラーとして日本一になるほどの実力を持っていた。10年以上前から半ば引退状態で現在は喫茶店で客と雑談しながらのんびりと接客しており、ビリヤードとは無縁の生活を送っている。
- 武内政夫
- 演 - 佐藤浩市、坂内真基(幼少時代)
- 武内の息子。邦彦の友達で彼から『まーちゃん』と呼ばれている。唯一の取り柄がビリヤードで日本一のハスラーになることを夢見ている。自身がハスラーになることについて否定的な父に反発し、最近は自宅に帰っていない状態。基本的に自己中心的で甘ったれな性格のドラ息子だが、ビリヤードのことになると野心家で強気な言動をする。
ビリヤード関連
- ユキ
- 演 - 加賀まりこ、紗貴めぐみ(10代のユキ)
- ビリヤード場『紅白』のママ。ハスラー界で名の知れた玉田の孫。10代の頃に玉田のビリヤードを間近で見ていたことから自身もビリヤードの技術などに長けており、武内とも何度か交流した過去がある。気っ風のいい芯の強い姉御肌な性格で、考え方が甘い政夫に率直な意見を口にする。
- 玉田
- 演 - 大滝秀治
- ビリヤードの名人。故人。過去にハスラーとして名を馳せた。16年前に武内がビリヤードで対戦した相手。現在は既に亡くなっており生前武内について「彼は天才。自分が死んだら次の日本一は彼になるに違いない」と評していた。
- 渡辺
- 演 - 渡瀬恒彦
- ハスラー。政夫によると大阪で一番の凄腕。根は真面目な性格だが、覚せい剤を常用して影響でさとみの金をシャブ代に使ったりしている。ハスラー時代の武内を知っており、彼の実力に脱帽している。
- 野口
- 演 - 片桐竜次
- ヤクザ。組のシマにあるビリヤード場などでショバ代を取るなどしている。渡辺と政夫の賭けビリヤード対決を見届ける。裏では渡辺に覚せい剤を売っている。金にがめつい性格で汚い手を使う。
- 木村
- 演 - 成瀬正
- ハスラー。ユキのビリヤード場の客。新人ハスラーの政夫の強さを聞きつけて彼と試合をするために神戸市から大阪までやって来る。しかし試合の賭け金が用意できなかった政夫に「大したことあらへんな」と悪態をつく。
- 風間
- 演 - 加島潤
- 木村の知人。具体的な関係は不明だが木村からは敬語を使って話されている。政夫に曲玉(きょくだま。球をジャンプさせるなどの高度な技を使ったショット)を見せられて驚く。
その他
- 勝さん
- 演 - 名古屋章
- 『梅の木』の雇われの板前でまち子と2人で店を切り盛りしている。曲がったことが嫌いで政夫がまち子から大金を借りようとした時に彼女に助言する。まち子が2階にいる時に1階の店内に呼び出す時は、いつも階段の柱を叩いて知らせる。
- 田村
- 演 - 安部徹
- まち子のスポンサー(支援者)。70代の男。淀屋橋にある大きな不動産会社の社長。5年前まで芸姑をしていたまち子を引き上げて『梅の木』の開店資金を出したり、彼女の両親が亡くなった時に世話をするなど彼女にとって恩義のある人。武内から「貫禄のある立派な人」と評されている。
- かおる
- 演 - カルーセル麻紀
- ゲイボーイ。『リバー』の常連客で邦彦とも顔見知り。今で言うニューハーフバーのような店で働く。普段は自虐を含めた辛口な言葉を用いて陽気に振る舞っているが、時にしおらしい態度を見せたり心ない言動に心を痛めることもある。恋人の石塚に惚れ込んでいるが彼に振り回されていることに悩んでいる。
- 石塚
- 演 - 柄本明
- かおるの恋人。仕事は流しらしく、着流しを着て三味線を持って夜の街をうろついたり、かおるの部屋でお座敷唄らしき歌を歌っている。一見すると大人しそうに見えるがどことなく凄みがあり、時にかおるに手をあげることもある。嘘つきでしたたかな性格。
- さとみ
- 演 - 古館ゆき
- 渡辺の妻。高校3年生の頃の邦彦のクラスメイト。現在は、踊り子でキャバレーを回って各店のダンスショーで踊って生活費を稼いでいる。ビリヤードだけが取り柄だが、違法薬物に手を出した渡辺に振り回される。
- 鈴子
- 演 - 岡本麗
- 武内の妻。政夫の母。故人。政夫が子供の頃に亡くなっている。ハスラーをしていた頃の武内が家庭よりビリヤードを優先するあまり自身は辛い時期を過ごした。
- リカ
- 演 - 横山リエ
- 『リバー』の常連客。ホステスらしき女性で、昼過ぎぐらいに喫茶店に訪れかおるたちと顔を合わせる。かおるとは水商売の良きライバルで冗談や嫌味を言い合うが仲は良い。
- ゲイボーイ
- 演 - アミー、花井優、美露
- かおるの仕事仲間で『リバー』の常連客。かおると似たように明るい性格で歯に衣着せぬ物言いで場を盛り上げる。
- ドヤの中年男
- 演 - 浜村純
- ドヤ街にある簡易宿所に寝泊まりする同性愛者らしきおじさん。ある日客として泊まりに来た邦彦とベッドが近くにあったことから彼に声をかける。
あらすじ:
邦彦(真田広之)がまち子(松坂慶子)に会ったのは、母の納骨の日の早朝だった。
彼が大黒橋の上で道頓堀の絵を書いている時に、足の悪い犬を追ってきた彼女と会ったのだ。
邦彦は道頓堀川に面した喫茶店「リバー」の二階に住み込み、昼は美術学校に通い、夕方からは店で働いていた。
「リバー」のマスター武内の一人息子・政夫(佐藤浩市)は、邦彦の高校時代の同級生であり、日本一の玉突きの名人になるといい武内(山崎努)と衝突、家を出ていた。
武内は納骨を済ませたその日、精進落としだといって、邦彦を行きつけの小料理屋「梅の木」に連れていった。
邦彦はそこでまち子に再会した。
彼女は店のママで、もとは芸者だが今は不動産業を営む田村(安部徹)がパトロンだった。
その日から邦彦はカンバスにまち子と足の悪い犬の絵を書くようになった。
しばらくして犬がいなくなり、邦彦とまち子は道頓堀川筋を探したが見つからなかった。
まち子はさがしてくれたお礼にと邦彦を夕食に誘い、その夜「梅の木」の二階で二人は結ばれる。
ビリヤードで次々と勝っていた政夫は試合に必要な金を作るために、まち子にたのんだ。
邦彦が学資を払うために高利の金を借り、返済に困っているとまち子をだましたのだった。
政夫の裏切りを知った邦彦は「リバー」に置き手紙を残して店を出た。
息子の不始末を知った武内は、政夫を探して、千日前のビリヤード「紅白」を訪れ、そこの女王人・ユキ(加賀まりこ)から政夫が東京まで勝負に出かけたこと、そして、ユキがかつてビリヤードをしていた武内にどうしても勝てなかった玉田(大滝秀治)という老人の孫娘であることを知らされる。
武内は息子と未来を賭けて勝負しようと思い「紅白」で特訓を始めた。
その頃まち子はパトロンと別れアパートを借り、邦彦と生活しようと邦彦を探し、口説いた。
邦彦が学校を卒業するまでの二年間だけでいいから一緒にいたいというまち子に、邦彦は大きくうなずいた。
「紅白」では東京から勝負に負けて帰った政夫と武内の試合が始まった。
試合中に武内は、政夫が幼ない頃、ビリヤードのために妻の体を他の男に売り、金を作ったという悲しい過去を告白した。
父と子の争いを見ていられなくなった邦彦は外へ出ると、「リバー」の常連のゲイ・ボーイ・かおる(カルーセル麻紀)が、情夫の石塚(柄本明)に包丁を振りかざしているのを見る。
邦彦はそれを止めようと二人の間に入るが、一突きに刺されて命を失ってしまう。
帰りの遅い邦彦を待ちながらまち子は窓の外を見ると、いなくなったあの犬がエサを漁っていた。
犬を抱き上げ頬ずりするまち子の後を、赤く点滅させたパトカーが、道頓堀の方向へ消えていった。
コメント:
原作は、宮本輝の同名小説。
筑摩書房より1981年に出版されている。
この小説には多くの橋が描かれている。
特に道頓堀川には多くの橋が架かっている。
「戎橋の次が道頓堀橋……、西道頓堀橋、幸橋となるんやけど、そのへんの橋に立って道頓堀川をながめていると、人間にとって何が大望で、何が小望かわかってくるなァ」「邦ちゃんも、いっぺん幸橋の上から道頓堀を眺めたらええ。昼間はあかんでェ、夜や、それもいちばん賑やかな、盛りの時間や」
当時は真っ暗で人影もまばら、ぼんやりと道頓堀のネオンが見える寂しい所だった。
「川には光はなく、それは歓楽街に伸びて行く底深い一本の道に見えた。道は橋々をくぐって後方の、遠い高層ビルのほうにまで続いている。なるほど、自分はあんなところで生きているのかと邦彦は思った。あんな眩い、物寂しい光の坩堝の中で生きているのか。 実際に邦彦が幸橋から道頓堀川を眺めると、人気のない一艘の満艦飾の船みたいに見えた。確かに、人ごみや喧騒などはまったく聞こえない別世界に見えた。自分には関係ない場所のように見えた。しかし、その場所から離れる事はできない。」
大阪に生きるさまざまな庶民を描いた名作である。
映画は、以下の3つの物語を描いている。
1.松坂慶子が演じる幸せ薄い美人女性と、向学心のある真面目な真田広之との純愛。
2.ハスラーの世界に生きた父と、新たに同じ道に向かおうとする息子との間の激しい情愛。
3.道頓堀川に沿って生きる夜の世界での猥雑さと危うさ。
サブストーリーとなる、ハスラーの世界が素晴らしい。
こっちの話の方が迫力があり、面白い。
山崎努の演じる父親が、佐藤浩市扮する息子のビリヤードを見て、血は争えないことを痛感して、自分がかつて地獄を見たハスラーへの道に進むことを許すくだりはグッとくる。
この映画における佐藤浩市の演技は、父・三國連太郎の血筋を感じさせるものがある。
いよいよこの俳優も一人前の役者になってきたなと思わせてくれる。
ビリヤード場のママを演じている加賀まりこが良い。
ハスラー界で名の知れた玉田の孫で、10代の頃から本物のビリヤードを間近で見ており、自身もビリヤードの技術などに長けている。
気っ風のいい芯の強い姉御肌な性格で、山崎努と佐藤浩市の争いに的確なアドバイスをする。
普段の加賀まりこそのままの感じがあって、すがすがしい。
この人は、数多くの文芸作品に出演しているが、宮本輝原作の映画でも素晴らしい存在感を示している。
ついに本作で完全にオールヌードを映像化させた松坂慶子。
深作欣二監督が松坂慶子をいよいよ本格的に演技指導して、濡れ場を堂々と演じさせているのが出色である。
画面にはっきりとバストトップを晒したのはこれが初めてといって良い。
山崎努が演じる元・プロハスラーの武内の昔と今の姿、佐藤浩市扮するその息子・政夫の父と同じ道を突き進もうとする姿は、凄まじい修羅の道を感じさせる。
この親子の殴り合いと、ビリヤード対決は、まさに圧巻だ。
この映画での佐藤浩市の熱演ぶりは、その後の彼の役者人生を決定的にしたのではないだろうか。
映画の醍醐味を味わいながら、命懸けの演技を見せている。
山崎努は、本作の直前までは、若い女の子をものにするエロい中年男の役が続いたが、本作は打って変わって、ハスラーのなれの果てを熱演していて、素晴らしい。
これぞ山崎努の世界だ。
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