「泥の河」
1981年1月30日公開。
第13回宮本輝の作家デビュー作・太宰治賞受賞作。
宮本輝原作映画第1作。
受賞歴・順位:
第5回日本アカデミー賞最優秀監督賞受賞。
モスクワ国際映画祭銀賞受賞。
第54回アカデミー賞外国語映画賞ノミネート。
キネマ旬報ベスト・テン第1位。
脚本:重森孝子
監督:小栗康平
キャスト:
- 板倉晋平:田村高廣
- 板倉貞子:藤田弓子
- 板倉信雄:朝原靖貴
- 松本笙子:加賀まりこ
- 松本喜一:桜井稔
- 松本銀子:柴田真生子
- タバコ屋:初音礼子
- 倉庫番:西山嘉孝
- 巡査:蟹江敬三
- 屋形船の男:殿山泰司
- 佐々木房子:八木昌子
- 荷車の男:芦屋雁之助
あらすじ:
朝鮮動乱の新特需を足場に高度経済成長へと向かおうとしていた昭和三十一年。
河っぷちの食堂に毎日立ち寄っていた荷車のオッチャン(芦屋雁之助)が事故で死んだ。
ある朝、食堂の息子、信雄(朝原靖貴)は置き去りにされた荷車から鉄屑を盗もうとしていた少年、喜一(桜井稔)に出会った。
喜一は、対岸に繋がれているみすぼらしい舟に住んでおり、信雄は銀子(柴田真生子)という優しい姉にも会った。
信雄の父、晋平(田村高廣)は、夜、あの舟に行ってはいけないという。
しかし、父母は姉弟を夕食に呼んで、暖かくもてなした。
楽しみにしていた天神祭りがきた。
初めてお金を持って祭りに出た信雄は人込みでそれを落としてしまう。
しょげた信雄を楽しませようと喜一は強引に舟の家に誘った。
泥の河に突きさした竹箒に、宝物の蟹の巣があった。
喜一はランプの油に蟹をつけ、火をつけた。
蟹は舟べりを逃げた。
蟹を追った信雄は窓から喜一の母(加賀まりこ)の姿を見た。
裸の男の背が暗がりに動いていた。
次の日、喜一の舟は岸を離れた。
「きっちゃーん!」と呼びながら追い続けた信雄は、悲しみの感情をはじめて自分の人生に結びつけたのである。
舟は何十年後かの繁栄と絶望とを象徴するように、ビルの暗い谷間に消えていく。
コメント:
原作は、宮本輝の作家デビュー作にして、太宰治賞を受賞した短編小説だ。
映画は、1981年公開の小栗康平監督による渾身の作品である。
この年のアカデミー外国映画候補となった。
異色監督・小栗康平による名作である。
戦後10年の昭和30年の大阪を流れる川が舞台。
主人公の少年達の演技も素晴らしいが、両親役の田村高廣と藤田弓子がとても良い。
男達は皆、戦場から生きて帰ってきた故の苦しみを持ち、女は身を売ってでも子供を守り育てるという時代がとても切なく悲しくも力強い。
登場する人物が皆、それぞれに持つ悲しい辛い記憶。
この時代まで、人が生きていく上で行ってきたことが、否定でも肯定でもなく当たり前の日常として描かれている。
観ている間、ずっとこの家族が幸せになって欲しいと願わずにはいられない。
最後に、対岸の郭舟の家族が去っていくのを追いかける少年が切ない。
主人公の少年の父を演じる田村高廣が優しい。
加賀まりこが、船の中で男に身を売って生きる母親を演じている。
これは、大阪の堂島川と土佐堀川が合流して安治川となる部分にひっそりと生きる貧しい民たちの物語だ。
こんな悲しい物語があるか。
山崎豊子が描いた船場は、大阪の横堀川、長堀川、そして土佐堀川に囲まれた地域だ。
そこに生きる人たちは豪商だった。
宮本輝の描く川に住む人たちは、同じ大阪のすぐとなりの町を舞台にしているが、船場と比較すると月とスッポンだ。
「泥の河」は、まさに関西に存在した底辺に息づく人々の河であった。
泥の河に浮かぶ小舟に住む母子。
そこで身を売る母親。
泥棒の常習犯の子供。
人間の生きる悲しみの究極を描く宮本輝を象徴する作品である。
作品を読み終えて、ここまで苦しい人生があったのかと驚愕した。
その宮本輝の世界の第1作がこういう内容だったとは。
昭和30年に前後には、まだこんな人たちが必死で生きていたのだ。
映画もすごい!
キネマ旬報ベスト・テン第1位に選出され、第5回日本アカデミー賞で最優秀監督賞を受賞した。
国外でもモスクワ国際映画祭で銀賞を受賞し、第54回アカデミー賞では外国語映画賞にノミネートされた。
小栗康平による傑作である。
この人は、1945年に生まれた。
浦山桐郎の下に弟子入りする。
その後、フリーの助監督として、山本迪夫、大林宣彦、篠田正浩らの助監督を務めた。
この間、1973年に特撮テレビドラマ『流星人間ゾーン』で監督を務めている。
1981年1月に、宮本輝原作による処女作『泥の河』を発表。
この映画は、Amazon Primeで動画配信可能: