「華麗なる一族」
1974年1月26日公開。
銀行家の一族を描く山崎豊子原作の大ヒット作。
配給収入:4億2000万円。
受賞歴:
- 第48回キネマ旬報ベスト・テン 第3位
- 第29回毎日映画コンクール 撮影賞、美術賞
- 第28回日本映画技術賞(横尾嘉良、大村武、下村一夫)
原作:山崎豊子「華麗なる一族」
脚本:山田信夫
監督:山本薩夫
キャスト:
- 万俵大介(万俵家の15代当主:阪神銀行頭取):佐分利信
- 万俵寧子(その妻):月丘夢路
- 万俵鉄平(万俵家の長男:阪神特殊鋼・専務):仲代達矢
- 万俵敬介(万俵家の14代当主、大介の父):仲代達矢(2役)
- 万俵銀平(万俵家の次男:阪神銀行・本店融資課長):目黒祐樹
- 美馬一子(万俵家の長女:大蔵省主計局次長の妻):香川京子
- 万俵早苗(鉄平の妻:大川一郎の娘):山本陽子
- 万俵万樹子(銀平の妻:大阪重工業・令嬢):中山麻里
- 万俵二子(万俵家の次女):酒井和歌子
- 三雲志保(大同銀行頭取令嬢):大空真弓
- 一之瀬四々彦(息子):北大路欣也
- 一之瀬(阪神特殊鋼:工場長):稲葉義男
- 銭高(阪神特殊鋼・常務):加藤嘉
- 石川(阪神特殊鋼・社長):北沢彪
- 和島(帝国製鉄・専務):神山繁
- 大川一郎(自由党・代議士):河村弘二
- 春田(大蔵省銀行局長):平田昭彦
- 芥川(阪神銀行・常務 / 東京支店長):高城淳一
- 角田(阪神銀行・池田支店長):高原駿雄
- 松尾(大蔵省審議官):細川俊夫
- 荒尾(社民党・代議士):大滝秀治
- 中根(社民党・代議士):金田龍之介
- 倉石(弁護士):鈴木瑞穂 ※ナレーションも担当
- 小島(大同銀行・常務):小林昭二
- 中川留市(地主):花沢徳衛
- 山本(社民党・委員長):嵯峨善兵
- 小泉夫人(総理筋縁談の仲介者):荒木道子
- 伊東夫人:小夜福子
- 白川(大同銀行・専務):中村哲
- 速水(阪神銀行・頭取秘書):武内亨
- 伊佐早(阪神銀行/東京支店):梅野泰靖
- 大亀(阪神銀行・専務):浜田寅彦
- 渋野(阪神銀行・専務):花布辰男
- 帝国製鉄・工程部長:下川辰平
- 佐橋(総理大臣):伊東光一
- 大平(スーパー社長):田武謙三
- 市太:若宮大祐
- 万俵家別荘管理人:青木富夫
- 田中銀行局金融検査官:五藤雅博
- 井掛大蔵省銀行局銀行課長:生井健夫
- 永田大蔵大臣秘書官:白井鋭
- 阪神銀行池田支店次長:夏木章
- 岡村(阪神銀行):笠井一彦
- 大友銀行・池田支店長:守田比呂也
- 細川一也(佐橋首相の甥・二子の縁談相手):鳥居功靖
- 大川夫人(代議士夫人):堺美紀子
- 万俵家の女中:横田楊子、川口節子
- 鎌倉の老人宅の女:麻里とも恵
- 猟師:木島一郎
- 猟師の女房:坂巻祥子
- 東郷(長期開発銀行・常務):隅田一男
- 青木(長期開発銀行・融資担当部長):久遠利三
- 川畑(阪神特殊鋼・常務):鈴木昭生
- 看護婦(採血を依頼):記平佳枝
- 看護婦(石川社長の介添え):東静子
- 田淵自由党・幹事長室の秘書:加納桂
- 鎌倉の老人:佐々木孝丸
- 田淵(自由党・幹事長):河津清三郎
- 周子(佐橋総理夫人):北林谷栄
- 松平(日本銀行・総裁):中村伸郎
- 宮本(長期開発銀行・頭取):滝沢修
- 安田太左衛門(大阪重工業・社長):志村喬
- 綿貫千太郎(大同銀行・専務):西村晃
- 永田(大蔵大臣):小沢栄太郎
- 三雲祥一(大同銀行・頭取):二谷英明
- 美馬中(大蔵省主計局・次長):田宮二郎
- 高須相子(万俵家の家庭教師兼執事):京マチ子
あらすじ:
志摩半島の英虞湾を臨む志摩観光ホテルのダイニング・ルーム。華やかな正月の盛装の人々の中にあって、群を抜いて際だった一組があった。
この一族は、関西の財界にこの人ありと知られている阪神銀行頭取・万俵大介とその家族である。
鋭い眼光、端正な銀髪の大介が正面に坐り、妻寧子、家庭教師兼執事の高須相子、長男鉄平と妻早苗、次男銀平、次女二子が大介を中心にして坐っている。
年末から新年にかけての四日間をこのホテルで一家揃って過すのが万俵家の長年の慣例であった。
金融再編成のニュースが新聞紙上にもとりあげられ、万俵大介の心中は穏やかでない。
彼は預金順位全国第十位の阪神銀行を、有利な条件で他行と合併させるべく、長女一子の夫、大蔵省主計局次長・美馬中から極秘情報を聞きだした。
この閨閥作りを演出しているのは、大介の妻寧子が華族出身の世間知らずであることから、ここ二十年来、子供の教育から万俵家の家計に至るまで全ての実権を握っている高須相子である。
阪神銀行本店の貸付課長である次男銀平を、大阪重工社長安田太左衛門の娘万樹子と結婚させたのも、また、恋人のいる次女二子を、佐橋総理大臣の甥と見合させたのも相子の手腕だった。
しかも、彼女は大介の愛人として、妻の寧子と一日交替で、大介とベッドを共にしていた。
長男の鉄平は、万俵コンツェルンの一翼をになう阪神特殊鋼の専務だが、彼は自社に高炉を建設し、阪神特殊鋼の飛躍的発展を目論み、メインバンクである阪神銀行に融資を頼むが、大介は何故か鉄平に冷淡だった。
大介は、彼の父敬介に容貌も性格も似た鉄平が、嫁いで間もない頃の寧子を敬介が犯した時の子供だと思い続けているのだ。
鉄平は高炉建設資金、二百五十億の内、五十億を自己資金、残りの四十パーセントを阪神銀行に、三十パーセントをサブパンクである大同銀行、三十パーセントをその他の金融機関に頼むつもりだったが、大介は融資額を三十パーセントにダウンしてきた。
激怒した鉄平に大介は「融資に親も子もない。経営者としてのお前の考えは甘すぎる」と冷たく云い放った。
だが、鉄平に好意を寄せる大同銀行三雲頭取の計らいと、妻早苗の父で自由党の大川一郎の口ききで遂に念願の高炉建設にとりかかれた。
しかし、完成を間近に、突然高炉が爆発、死傷者多数という大惨事が勃発した。
さらに鉄平を驚愕させる事実が三雲頭取から知らされた。
阪神銀行の融資は見せかけ融資だ、と云うのである……。
大同銀行は阪神特殊鋼への不正融資を衆議院の大蔵委員会で追求され、三雲頭取は失脚した。そして、多額の負債をかかえた阪神特殊鋼は、会社更生法の適用を受けざるを得なかった。
事実上の破産である。
妻子を実家へ帰した鉄平は、愛用の銃を手に雪山で壮烈な自殺を遂げた。
しかし、皮肉にも死んだ鉄平の血液型から、彼は大介の実子だったことが判明した。
一方、二子は、総理の甥との婚約を自ら破棄して、アメリカにいる恋人、一之瀬四四彦のもとに飛んだ。
大介の筋書通り、阪神銀行は上位行の大同銀行を吸収合併し、新たに業界ランク第五位の東洋銀行が誕生、大介が新頭取に就任した。小が大を喰う銀行合併劇を、あらゆる犠牲を払って実現させた万俵大介の得意満面の笑顔……。
しかし、その背後には、さすがの大介の考えも及ばぬ第二幕が静かに暗転していった。
--それは、永田大蔵大臣が、東洋銀行を上位四行の内の五菱銀行と合併させるべく美馬中に秘かに命じていたのだった……。
コメント:
富と権力獲得への手段として、華麗なる閨閥をはりめぐらす万俵一族を主役に、金融界の“聖域”銀行、背後で暗躍する政・財界の黒い欲望を描く。
山崎豊子の長編小説『華麗なる一族』の映画化で、山本監督にとっては『白い巨塔』に続く山崎豊子作品の映画化である。
山本は元々東宝の監督だったが、レッドパージ以後は独立プロで活動していた。
本作はそんな山本の24年ぶりの東宝作品となった。
出演者は豪華な顔ぶれとなり、作品は大ヒット。配給収入は4億2000万円を記録し、1974年度の邦画配給収入ランキング第4位となった。
第48回キネマ旬報ベスト・テン第3位。
妻と愛人が同じ寝室で暮らす「妻妾同衾」を平然と行う男であったというのが、まず最初のショッキングなネタで有名になった小説だ。
妾というのは、高須相子という名前の女性。
万俵家の家庭教師兼執事という存在だが、万俵家の15代当主で阪神銀行の頭取である万俵大介の愛人だ。
しかも、万俵大介は、その愛人を自宅に同居させ、本妻・寧子と一日交替で万俵大介と寝るという。
さらに、時々興に任せて本妻と愛人の二人を同時に同じベッドで犯すこともあるという、セックスの狂人だった。
その愛人を京マチ子が熱演している。
京マチ子はこれまでの山崎豊子の映画に何度も出演し、主役クラスの女性を熱演しているが、今回も抜群の存在感を示している。
本作では主人公・万俵大介の愛人だ。
最初は万俵家の子供たちの家庭教師だったが、その後は万俵大介の私設秘書の仕事や、子供たちの結婚相手探しなどもするようになり、実質的にこの家の「お局様」の存在になっている。
この女性の存在が万俵家の栄光を崩壊させることになる。
万俵家15代当主である万俵大介を佐分利信が演じている。
その妻・寧子を月丘夢路が演じている。
この作品は、あり得ない話がほかにもある。
万俵大介の長男である鉄平の出自に疑問があるということだ。
なんと、万俵大介の父である万俵敬介(万俵家の14代当主)が大介の妻・寧子を風呂場で犯した結果生まれたのが長男である鉄平だという疑惑だ。
その理由は、血液検査の結果、鉄平がA型だったということだ。
万俵大介はB型で、敬介はA型だった。
さらに、息子・鉄平の風貌や動作が祖父の敬介とそっくりだったのだ。
これが遠因となり、父・大介の言う事をきかず、がむしゃらに鉄鋼メーカーで新しい高炉建設に走る鉄平を許すことができず、自らの銀行のビジネス拡大の犠牲にして行くのだ。
高炉建設に失敗し、会社は破産し、その責任を取らされて辞職した鉄平は、将来を悲観して、愛用の銃で壮烈な自殺を遂げてしまう。
だが、警察の捜査が行われた結果、鉄平の血液型は大介と同じB型だったことが判明する。
つまり、鉄平は大介の実の子供だったのだ。
映画では、仲代達矢が万俵敬介と鉄平の一人二役を演じている。
小説に描かれた妻妾同衾は、万俵大介の私室において3つ並んだ豪華な洋風のベッドで描かれている。
また女優陣のラブシーンでは、当時としては体当たりといえる演技が見られる。
小説版では3人が寝室を共にした時に寧子が銀平と鉢合わせになるシーンは、割愛されている。
小説では万俵家の晩餐の席ではフランス語と英語で会話するという設定だが、映画では一貫して日本語が使われている。
万俵家の内装はシャンデリアや絨毯など華美な装飾で演出されており、家族の中に渦巻く愛憎劇の舞台となっている。
また万俵家で3匹のグレート・デーンを飼っている部分は忠実に再現されている。
阪神特殊鋼の舞台として実際の鉄工所を、阪神銀行は金融街を使っている。
政財界を巻き込んだ銀行再編という複雑なストーリーが、実にわかりやすい言葉と演出で描かれていて、面白く見ることができる。
しかも個性的な登場人物それぞれのキャラをしっかりと描きつつ、混乱させずに描いてみせるのはもちろん山崎豊子の原作も読み物としてよくできている。
映画も、政治と財界の癒着の部分の皮肉たっぷりな描き方などに社会派の山本薩夫監督らしさが出ている。
さらに、そういった公の部分と対照的に、私的な部分として万俵家一族のバラバラな様子もしっかりと描き込んでいる。家族の幸福を犠牲にしてでも会社の発展を優先させる男(佐分利信)の非情さと取り憑かれた男の哀れさを批判的な目で描いている。
終盤の盛大なパーティー・シーンの最後、ストップモーションがかけられ、鳴り響く銃声は鉄平(仲代達矢)の自殺のシーンからのこだまかもしれないが、監督の怒りの引き金だったのかも知れない。
山崎豊子原作の映画の常連である田宮二郎は、この作品にも登場する。
主人公・万俵大介の長女の婿で、大蔵省主計局・次長をしている美馬中(みまあたる)という男を演じており、存在感が半端ない。
この映画は、以下のサイトで動画配信可能: