「刺青 IREZUMI」
「刺青 IREZUMI」(プレビュー)
1984年12月22日公開。
にっかつの曽根中生監督作品。
金持ちの娘である友人と間違われ、誘拐されてしまった歌手の女を描く。
原作:谷崎潤一郎「刺青」
脚本:那須真知子
監督:曽根中生
キャスト:
伊藤咲子 | 石原麻美 | |
沢田和美 | 神崎典子 | |
木之元亮 | 野村 | |
根岸一正 | 安藤 | |
石井茂樹 | 竜也 | |
成瀬正 | 沢村 | |
美波ゆかり | かおり | |
益富信孝 | 朝野 | |
志賀実 | マサル | |
根本正克 | 遠藤 |
あらすじ:
歌手の石原麻美(伊藤咲子)はスターを決定づけるコンサートを翌日に控えていた。
その麻美のマンションに、スポンサーで神崎財閥の一人娘、典子(沢田和美)がやってきて、ラブホテル替りに使わせてくれという。
屈辱に耐えて、麻美は典子のベンツで夜の街に走り出すが、オートバイの青年をハネてしまう。
マサル(志賀実)という青年は、麻美に事故の代償に体を求めた。
そこへ、安藤(根岸一正)と沢村(成瀬正)という男が現れ、マサルを殺すと麻美を連れ去っていく。
二人は麻美を典子と勘違いしていたのだ。
典子ではなく歌手の麻美であると知った二人は、彼女に刺青を入れると、クズのように処分しようとする。
二人はヤクザの川島に麻美を売ろうとした。
フリーライターの野村(木之元亮)を呼んで相談するが、川島は結局、彼女を買わなかった。
一方、野村は歌手としての麻美を評価しており、刺青を彫られたその姿に愕然とする。
安藤たちは、麻美が金にならないと知ると、山中で殺そうとするが、頭の弱い子分の竜也に助けられ逃げ出していく。
ゆきずりの男を相手に金を得ていた麻美だが、行くところもなく、安藤たちのところに戻っていった。
それから安藤たちは、麻美の妖しい魅力に入れ込み、サラ金から金を借り、さらに銀行強盗を企て事故死してしまう。
一方、野村はやっと麻美を見つけ、歌手としてカムバックさせると熱い思いを伝えた。
しかし、麻美は自堕落な女を演じ続け、野村に、典子を誘拐しろと迫る。
計画は成功するが、竜也が典子を殺害してしまう。
竜也を残して逃げる野村を、麻美がなじる。
逆上した野村は麻美をレイプ、彼女の顔は苦々しく歪んた。
事後バスルームで麻美は野村を刺し殺してしまう。
一番好きな男に「こんな私を抱いてほしくなかった、好きだったの……」と呟く麻美の背中の刺青が悲しそうだった。
コメント:
スターを目前にしながら刺青を彫られてしまい、堕ちていく女と、彼女に群がる男たちの姿を描く。
谷崎潤一郎の同名の小説を、舞台を現代に移して映画化したもの。
脚本は「オン・ザ・ロード」の那須真知子、監督は「唐獅子株式会社」の曽根中生、
なんとヒロインを演じているのは、『ひまわり娘』で一世風靡した清純歌手・伊藤咲子だ。
彼女にとって唯一の映画作品のようだ。
しかも日活ロマンポルノだ。
歌唱力はトップクラスなのに人気歌手としてはすっかり落ち目になった頃の伊藤咲子の唯一の映画出演作。
原作は一応谷崎潤一郎になっているが、全く別の話。
配信版は、日活のロマンポルノにしては絡みが少ないので、カットされたバージョンだろう。
伊藤本人が裸になっていると認められるのは最後の木之元亮との絡みのみで、他は別人と思われる。
脚本は酷いし、怒鳴るだけの木之元亮の芝居はヘタクソだしとあまり良いところはない。
金持ち令嬢役の沢田和美は綺麗だったけど。
伊藤咲子はこの頃はまだ25歳位なのに、老けて30歳過ぎに見える。
ひまわり娘の頃に、若さを出し切ってしまったのか。
本作の主題歌「蜉蝣(かげろう)」も伊藤咲子が歌っている。
残念ながら、ここまでひどいストーリーだと、谷崎文学の「耽美主義」を冒涜する以外のなにものでもないと断ずるしかない。
「谷崎潤一郎原作」とすれば売れるかもと思った、にっかつロマンポルノの浅知恵が情けない限りだ。
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