「白日夢(1981)」
1981年9月12日公開。
愛染恭子主演の大ヒット作。
原作:谷崎潤一郎「白日夢」
監督・脚本: 武智鉄二
キャスト:
佐藤慶 | ドクトル |
愛染恭子 | 葉室千枝子 |
勝然武美 | 青年・倉橋順吉 |
川口小枝 | 看護婦 |
殿山泰司 | 守衛 |
あらすじ:
青年・倉橋順吉(勝然武美)は、ある日、歯科医院で美しい令嬢・葉室千枝子(愛染恭子)に出会う。
並んで治療を受け、麻酔の注射をうたれた。
霞んでいく意識の中で順吉が見たものはとても信じられないものだった。
ドクトル(佐藤慶)は千枝子を裸にし、胸に歯形の残るほど口づけをせる。
喘ぐ千枝子。
ディスコで、ホテルで、ドクトルは千枝子を犯し、いたぶった。
千枝子はドクトルを憎みながらも、しかし思わず歓喜の声をあげてしまう。
見ている順吉に、千枝子への思いはつのるが、
どうすることも出来ない。
思いつめた順吉は、遂に千枝子を刺し 殺してしまう。
千枝子は死んだ。
ドクトルから解放されたのだ。
意識がはっきりしてくると、治療は終わっていた。
千枝子はドクトルに挨拶すると、診療室を出た。
順吉も彼女を追った。
海辺で追いつくと、千枝子は何事もなかったかのように順吉を見つめるのだった。
コメント:
本作は、いわゆる本番映画だ。
愛染恭子に改名する機会となった、彼女の人生を変えた大ヒット作品である。
出演者が(性器の挿入を伴う)本物の性交をするハードコア映画と宣伝されたため、センセーショナルな話題作となった。
しかし本編の一部にSM行為やセックスシーンが織り込まれている以外は、64年版同様に谷崎の原作に沿った展開である。
ヒロインに決まっていた紀ノ川涼子が出演拒否したことから、ピンク映画の出演経験があった22歳(当時)の青山涼子が抜擢され、本作の出演を契機に芸名を愛染恭子に改めている。
後年、日刊ゲンダイで連載されたピンク映画のドキュメンタリー記事「ピンクの証言者たち」で、愛染が『白日夢』を回顧した読み物では、出演料は100万円だったとのこと。
車を運転するシーンがあると聞かされた愛染は、自動車教習所に通って免許を取得したほか、クランクインまでの数か月間は日舞、発声、体操、ジャズダンスの特訓を積んだ。
歯科医役で出演する佐藤慶は、映画冒頭の歯科治療の手さばきが本物に見えるように、実際の歯科医師の指導を受けながら撮影をした。
本作のスチールカメラマン岩田彰の話によると、話題性重視の武智が愛染と佐藤のベッドシーンを公開撮影としたため、「たいへんな取材陣で、約50人の記者、カメラマン、それにテレビのカメラにレポーター」が集まったという。
部外者の多さから佐藤がプレッシャーを感じて、撮影が3時間中断したのち、集中して取り組みたいという佐藤の意見を汲んでマスコミ各社をスタジオから出し、現場スタッフのみで撮影を再開した。
撮影に備えて腸内の洗浄をしていた愛染をベッドシーンで大きく開脚させた佐藤は、人差し指を彼女の肛門の奥深くまで挿入。
指先で直腸内を刺激された愛染が声をあげて身をよじる姿を始め、陰茎が根本まで収まった女性器が画面一杯に映し出される等、ハードコア映画を強調する映像が中盤20分以上にわたって展開する。
セックス場面の撮影は5時間に及び、精液が膣口から逆流するカットを撮るため、佐藤は愛染の中に陰茎を挿入したまま射精し、愛染は精液がこぼれ出さないよう逆立ち同然の姿勢でスタッフに抱えられてセットを移動した。
これら一連の出来事は日刊ゲンダイの回顧録「日本初の本番映画 『白日夢』は本当に中出しでした」という見出しの回で赤裸々に語られており、愛染は精液のことを終始「ザーメン」と呼んでいる。
愛染が洋式トイレのセットで放尿して、尿道口と同時に開いた膣口から精液が垂れ落ちる所が撮影されたが、このシーンは82年公開の再編集版『DAYDREAM 白日夢』で初めて陽の目を見た。
ベッドシーンの撮影時に緊張感から勃起しなかった佐藤だったが、いざ男性器が硬くなると愛染を押し倒してすぐ行為を始めてしまった。
あまりに突然のことだったため、女性器に初めて陰茎が挿入されて行く場面を撮れずに撮影が進んだと愛染が明かしている。
精液が膣内から出てくるショットが必要と認識していた愛染は、一種の段取りミスに落胆する間もなく、自身の性器内で佐藤が射精を終えるまで性交をそのまま続行した。
佐藤と愛染の実際の性交シーン全般は松竹大船撮影所のセットで撮っているが、「監督と慶さんと3人で1日だけ、香港にアリバイ旅行へ出かけました。海外で撮影したことにしたんです」と愛染が語るように、厳しい映倫の目を欺くため、性交場面のみ海外撮影を敢行したと偽っていた。
そのため再編集版公開時のチラシで「香港の本番撮影シーンを多く取り入れた待望の完全オリジナル版」とアピールされている。
良くも悪くも話題を集めたこの映画は、初公開時にカットされたフィルムを加えた再編集版が制作され、“完全オリジナル海外版、遂に解禁!”を惹句に『DAYDREAM 白日夢』のタイトルで1982年10月22日より小規模公開されている。
配給は前年の初公開版と同様に富士映画(多くの未公開シーンを加えて再編集しているが、上映時間は前より短くなっている)。
映画の反響が大きかった故か、武智は癌で亡くなるまでハードコア映画を撮り続けた。
『キネマ旬報』1982年2月下旬号で、配給収入5億円と発表されているが、09年版『白日夢』のチラシに「成人映画としては異例の興行収入15億円の大ヒットを記録」という本作に関する記述がある。
また観客動員数に関しては、82年の再編集版のチラシに「7か国で公開され、20万人を動員」と記載されている。
映画公開によって一躍有名になった愛染は、街で「本番女優」と言われたり、「おい、やらせろよ」と下品な言葉をかけられたため、外出時にサングラスをかけるようになった。しかし愛染が母親に家を贈ったことが報じられてからは、そうした冷やかしがなくなったという。
武智は本作について、ベッドシーンの撮影は性行為の反応をドキュメンタリー的に見つめることにしたと語っており、「反応が起ると予想される部分にはすべてライティングをほどこし、六台のカメラをすえてそうした反応をとらえようと試みた。これは、かなりねらい通りにいったように思う」と自己評価している。
撮影日までオナニーも含めて禁欲を命じられていた愛染は、セックスの時間経過と共に「出る! 出る出る…」と口走ると、陰茎の抽挿が続く結合部分からみるみる白濁色の愛液を溢れ出させ、到底演技では成し得ない生々しいオーガズムをカメラの前に晒した。
陰茎が出入りする度に真っ白な体液を股間から糸を引いて垂れ流す、愛染の女性器の変貌ぶりを武智は「海外において世界的な反響を呼びおこすと想像される」「性器自体の反応も、すばらしい美しさで映像化され、そこが単なる刺激の部位ではないことを示している」と高評価した。
その一方で「このような創造を日本人だけが見ることを許されないことに怒りを覚えずにいられない」と、日本の映画業界に不快の念を露わにしている。
日本公開時は能面をつけて舞う2人の姿や、別のカメラアングルで撮った愛染の悶える表情が、性器部分を覆うように合成されている。
この映画も谷崎潤一郎の「耽美主義」を描いているのかは、定かではないが、ここまで世界にその名を轟かした映画になっているので、良しとするしかないだろう。
武智鉄二、愛染恭子、佐藤慶の勇気に拍手を送りたい!
この映画は、Amazon Primeで動画配信中:
(ノーカット版ではない)
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