「ナオミ」
1980年3月15日公開。
「痴人の愛」の映画化4作目。
原作:谷崎潤一郎「痴人の愛」
脚本:高林陽一、今戸栄一
監督:高林陽一
キャスト:
水原ゆう紀 | ナオミ |
斉藤真 | 河合譲治 |
光田昌弘 | 浜田 |
平野克己 | 熊谷 |
田中隆 | 中村 |
黒田努 | 吉田 |
津山栄一 | 関 |
森愛 | 春野綺羅子 |
奈三恭子 | 中村菊子 |
平泉征 | 長谷 |
あらすじ:
宝飾貿易会社を経営する三十八歳の河合譲治がはじめてナオミと知り合ったのは、彼女が高校を中退したばかりの十六歳のときだった。
譲治がしばしば利用するスナックに彼女が働いていたのだ。
ナオミに魅せられた譲治は彼女を引き取り、知的で美しい理想の女性に育てようとした。
二人は結婚して鎌倉に家を買った。
十八歳になりいっそう美しさをましたナオミは、また淫蕩で気まぐれな性格も目立って来る。
テニスクラブのメンバーの青年、浜田や他の若者たちを集めてかって気ままに遊び歩く。
そして、ナオミの狼費癖は見境を知らず、下着だろうがドレスだろうが、片端から買い漁るのだった。
譲治の出費はかさむ一方だが、ナオミの虜となってしまった今、強い態度に出れず、全てを許してしまう。
その頃、ナオミの男関係は近所でも評判で、そのことを浜田から聞いて愕然とした譲治はとうとう彼女と別れる決心をする。
鎌倉の家を出たナオミは、六本木あたりで、不良外国人たちと関りを持ち、自堕落な生活を送っていた。
そんな生活の空しさ、哀しさに襲われ、荒みきった彼女は、荷物を取りに行く口実を作って譲治のいる鎌倉の家を訪ねた。
そして、また二人の生活がはじまった。
しかし、今度は、譲治がいっさいナオミの行動に干渉しないことなどが約束され、彼女の肉体の情欲はとどまるところを知らなかった。
コメント:
谷崎潤一郎の『痴人の愛』の四度目の映画化で、狡猾で淫蕩なヒロイン“ナオミ”の愛と性を現代の女性像として描く。
谷崎潤一郎の原作を現代に置き換えた作品だが、耽美色は抑え目になっている。
ヒロイン目線で物語を進めることによって、耽美色を消す結果になった。
それを狙っていたのか?
水原ゆう紀が裸身を晒していているのにもったいない。
水原ゆう紀は「天使のはらわた赤い教室」などにっかつの女優のイメージが強い。
高林監督は、いくつも名作を残したが、谷崎潤一郎の耽美主義を描くことは出来なかったようだ。
原作のナオミはカフェーの女給から見出された15歳。
彼女を自分の妻にして、自分の思いのままに育てようとする男の破滅を描いた作品になっていて、小悪魔的な女の奔放なヒロイン像な[ナオミイズム]という言葉を生み出した作品。
本作はそれを16歳の設定にして、夜の店で貿易証を営む河合穣治(斎藤真)が見出す。
彼は鎌倉に家を持ち、そこに小林ナオミ(水原ゆう紀)を住まわせ、英会話、テニス、等上級な物を習わせ、やがて二人に恋が芽生えて結婚していく。
ある日家の前で、捻挫したというナオミを送ってきたを不審に感じて、彼女に問いただすが、ただの友達と否定する。
テニスクラブ主催のダンスパーティーで、河合は同席していた女性からナオミの悪い噂を耳にする。
そして、それは現実として、五人の若い男に囲まれたナオミを河合は見てしまう…。
コケティッシュでエロス全開の水原ゆう紀は、イメージとしては悪くないが、フケ過ぎだろう。
本来の谷崎の意図とするともっと若いヒロインがいつしか欲望のままに男を知り、妖艶なおんなに変身していく様を描くのが目的であり、もっと若くて純粋できちんと脱げるヒロインを設定した方がいいのではないか。
ナオミはダンス好きで、その曲からディスコブームだったことが伝わってくるのだが、高林監督の好みで設定や音楽などを作っていることは明らかであり、[痴人の愛]の文学的なエロスは全く再現できていない。
チープなピンク映画に終わってしまった。
ナオミを海外に旅立たせるパーティーでウエディングドレスで登場するナオミで、映画は終わるのだが、高林は谷崎文学をもう少し学んでこの映画の監督になるべきだった。