「パッション・ダモーレ」
(原題: Passione d'amore)
1981年5月7日公開。
心が病んでいる女性の愛の苦悩を描く。
ダヴィッド・デ・ドナテッロ賞主演女優賞受賞(ヴァレリア・ドビチ)。
原作:イジニオ・ウーゴ・タルケッティ 「フォスカ」
脚本:ルッジェーロ・マッカリ
監督:エットーレ・スコラ
キャスト:
ジョルジョ・バケッティ:ルナール・ジロドー
フォスカ:ヴァレリア・ドビチ
クララ:ラウラ・アントネッリ
大佐:マッシモ・ジロッティ
軍医:ジャン・ルイ・トランティニャン
あらすじ:
1862年。クリミア戦争で活躍した騎兵隊長ジョルジョ・バケッティ(ルナール・ジロドー)は、ピェディモンテの町でクララ(ラウラ・アントネッリ)という人妻と恋に落ちていた。
しかし、ジョルジョは第4国境守備隊ヘの転属命令を受け、クララと遠く離れ離れに暮らすことになったのだ。
休暇には必ず会いに来ると誓って旅立つジョルジョ。
寂しい山あいの町に着いた彼を大佐(マッシモ・ジロッティ)が歓迎した。
大佐の屋敷で寝起きすることになったジョルジョは、食卓の席で奇妙なことに気づいた。
大佐の従妹の席がいつも空席なのだ。
みんなは彼女が病気だと弁明したが、どこか様子がおかしかった。
数日が過ぎ、ジョルジョの興昧は、部屋にこもったきりの大佐の従妹のことに集中した。
その女性フォスカ(ヴァレリア・ドビチ)に、ジョルジョは遂に対面した。
しかし、そのあまりの醜さに彼は声も失う思いだった。
一方、フォスカは、凛々しいジョルジョに一目惚れした。
執拗につきまとうフォスカから逃れるように、彼は一ヵ月の休暇をとってクララの許ヘと急いだ。
情熱的なクララとの愛の時を過ごして、ジョルジョが戻ってみると、フォスカは発作のために寝込んでいた。
フォスカには過去に結婚した男がいたが、その男は結婚式の夜、持参金をもち逃げして姿をくらましてしまったのだった。
男に恵まれないフォスカのことをかねがね心配していた軍医(ジャン・ルイ・トランティニャン)は、彼女のために一緒に夜を過ごしてやってくれとジョルジョに頼んだ。
しかし愛のないジョルジョの態度は逆にフォスカを傷つけ、ジョルジョは、再びやすらぎを得るためクララの許へと向かった。
汽車に乗る彼をフォスカが追った。
無理に彼女を汽車から降ろすジョルジョ。
しかし、勇んで訪ねていったクララば冷たかった。
「フォスカにはあなたが必要なのよ」と、言い放つクララ。
40日の休暇を2日で切り上げた彼は、ローマヘの転属命令を受けた。
クリスマス・パーティーの夜、人前でジョルジョを愛していると絶叫するフォスカ。
それを見た大佐がジョルジョに決闘を申し込み、ジョルジョの剣に倒れた。
その夜不思議なことに、ジョルジョは、自然にフォスカの許へと足が向いた。
夜明け、フォスカは生涯で最高の幸福感にひたりながら息を引きとるのだった。
コメント:
19世紀末のイタリアを舞台に、若い軽騎兵将校を執拗なまでに愛する病弱な女の苦悩を描く。
悪女の深情けを地で行く映画で、「美女と野獣」の男女逆バージョンとの評価もある作品。
「特別な一日 」の監督をつとめたエットーレ・スコラの異色作である。
1862 年の冬のトリノで、傑出した戦歴を持つ容姿端麗な騎兵大尉である未婚のジョルジョ・バケッティは、美しい人妻クララと情熱的な関係に陥っていた。
その後ジョルジョは、フォスカという名前の若い女性に会う。
フォスカは、部屋にこもったきりの大佐の従妹である。
彼女は、さまざまな身体的および心理的問題を抱えているだけでなく、驚くほど醜い姿をしていた。
しかし、彼女は繊細で文化的でもあり、男性の付き合いを切望していた。
ジョルジオは、連隊の外科医の勧めもあり、彼女と一緒に時間を過ごすことになった。
だが、ジョルジオは彼に対する彼女の要求が大きな精神的負担となり、病気になってしまう。
外科医は自分の計画が間違いであったことに気づき、唯一の解決策はジョルジオを転勤させることだと悟る。
大佐の家でクリスマスパーティーが開かれている最中に彼の転勤通知が届けられる。
すると、フォスカはヒステリーに陥り、彼女の情熱の存在と深さを知らなかったゲストを恐怖に陥れた。
大佐は、ジョルジオが優しさと哀れみから結んだこの関係によって自分の名誉が傷つけられたと誤解し、翌朝ジョルジオに決闘を申し込む。
決闘で彼は大佐に負傷を負わせた。
その夜、フォスカに心から申し訳ないと思った彼は彼女の寝室に行き、彼らは奇妙な愛を完成させる。
フォスカは生まれて初めて幸せな夜を過ごし、あの世に旅立っていった。
本作の主役は、ベルナール・ジロドー演ずるジョルジョだが、実質的な主役は、なんといってもフォスカだ。
このフォスカとは一体どんな女性かとジョルジョが興味を抱くのに併せて、その初出のシーンは、開始から30分ほど経ってからだ。
しかも、その最初に映るフォスカの姿のインパクトは凄い。
醜女というよりは、病的である。
とにかく異様に痩せていて、異様に目が大きくて、鷲鼻に出っ歯だ。
確かに、美しくはないけど、造作の善し悪しというより、彼女の不幸な人生がそのまま顔に出ているのだ。
精神不安定であることが分かる異様な目の動きが気持ち悪い。
こういう女性に惚れられた主人公の悩みは深かっただろう。
だが、その後彼はその女性に同情するあまり、ついに一夜を共にする。
そして彼女は幸福な最期を迎えたのであった。
愛を乞うる気の毒な女性の愛へのすさまじいまでのパッションがスクリーンに充満する異色の映画である。
ここまで激しい愛への渇望を心に持つ醜女を熱演した女優・ヴァレリア・ドビチのぶっ飛んだ熱演には頭が下がる。
イタリア映画界でのアカデミー賞といわれるダヴィッド・デ・ドナテッロ賞の主演女優賞受賞を受賞した。
この映画は1981年のカンヌ国際映画祭に出品され、スティーヴン・ソンドハイムとジェームズ・ラピンによる1994 年のブロードウェイ ミュージカル『パッション』のインスピレーションとなったとされる。
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