谷崎潤一郎の映画 「卍(まんじ)」 アントニオ猪木の必殺技に通じる必殺のエロス! | 人生・嵐も晴れもあり!

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「卍(まんじ)」 

 

 

「卍(まんじ)」予告編

 

1964年7月25日公開。

谷崎潤一郎の同名小説の映画化。

3人の男女が破滅と背中合わせで身を焦がす問題作。

 

 

 

ふとしたことから人妻が、若く美しい娘と出会い、その小悪魔のような姿態に魅了されて、やがて熱い同性愛関係に嵌まり込んでいく。

しかも妻とのノーマルな愛の生活を望む園子の夫・剛までが、女2人の関係にひきこまれて、異常なセックスのるつぼにのめりこんでいく。

レズビアンに始まって、文字通り、卍(まんじ)がらみの官能関係に発展し、三人の男女は破滅と背中合わせで身を焦がし続ける。

この三人を、若尾文子、岸田今日子、船越英二が演じる、異様なまでの世界が展開する。

レスビアンがまだタブー視されていた当時、話題沸騰となった異色作!

 

 

 

原作:谷崎潤一郎「卍」

脚本:新藤兼人

監督:増村保造

 

キャスト:

徳光光子
演 - 若尾文子
織物会社の社長令嬢。
美術学校の洋画コースで絵を習っている。
園子と親しくなり、彼女を『姉ちゃん』、孝太郎を『パパさん』と呼び始める。
普段はモダンな服を好んで着ている。
小悪魔的な性格で時に子猫のように園子に甘え時に彼女の心を試すように接する。
柿内園子
演 - 岸田今日子
人妻。
光子と同じ美術学校の日本画コースで絵を習っている。
いつも和装姿なため一見古風な女性らしい雰囲気を持っているが、意外と感情的になりやすい性格で激しい情念を持つ。
口達者で喋りが上手い。
綺麗な物を観るのが好き。美術学校で光子と出会ってすぐに魅力に惹かれ、のめり込んでいく。
柿内孝太郎
演 - 船越英二
園子の夫。
1年前に大阪に弁護士事務所を構えるが、それまでは園子の実家に夫婦で身を寄せていた。
園子と光子の関係を友達以上の関係ではないかと疑う。
夫としては少々頼りない性格で、夫婦生活は園子に押され気味。
綿貫栄次郎
演 - 川津祐介
光子に好意を寄せる男性。
なかなか頭の冴える人物で行動力も備わっており、周りの人に取り入るのが上手い。
また、やたらと約束や証書などにこだわる性格で、光子と親しくする園子とある誓約書を交わす。
校長
演 - 山茶花究
女子美術院の校長。
光子と園子が通う美術学校。
ある時、楊柳観音の格好をした女性モデルを描いた園子の絵について、「絵はそこそこ上手いが顔が似ていない」と批評する。
梅子
演 - 村田扶実子
光子の女中。50代ぐらいの女性。光子がちょっとしたトラブルを起こしたため、園子に会って助けてもらう。
清子
演 - 南雲鏡子
柿内家の家政婦。
春子
演 - 響令子
旅館の仲居。
後に園子と光子が時々利用するようになり、顔見知りとなる。
先生
演 - 三津田健
何の先生かは不明だが、園子が親しくしている先生。
園子が以前経験した出来事を自身に語る現在のシーンと出来事の詳細が回想シーンとして交互に描かれるという演出が取られている。

 

 

あらすじ:

秘かに奈良の奥山を散策する二人の女性。

手をしっかりと握って、どちらともなく微笑みかけている美しい二人は、洋服のよく似合う魅惑的な徳光光子。

その眼は特に印象的だ。

そして和服の似合うもう一人の女性は、弁護士柿内孝太郎の妻で、チャーミングな小悪魔を思わせる柿内園子だった。

この二人は同性愛であった。

先日も、園子の寝室で、その美事な裸体を披露した光子は、その美しさに興奮した園子と、激しく抱き合っていた。

最初は恥かしがっていた光子も、だんだんその奇妙な関係のとりこになっていった。

すっかり光子の美しさに魅惑された園子は、光子に綿貫栄次郎という情夫がいることを知って、光子に裏切られたと、涙にくれる。

だが光子を食いものにする綿貫は、園子と光子の愛情のこまやかなのを心配して、光子への愛を二人で分け合おうともちかけ、光子、園子、綿貫の奇妙な三角関係が生れた。

だが、この関係も長くは続かず、光子と綿貫の関係を清算させようと園子が画策するのを知った綿貫は光子を脅迫した。

これに絶望した光子と園子は狂言自殺をしたが、朦朧とした園子の眼に映ったのは、自殺の知らせを聞いて、駈けつけた園子の夫孝太郎と、光子の情事であった。

ここに、光子のとりことなった孝太郎と、光子、園子の新しい三角関係が成立した。

ところがある日のこと、三人にとって致命的な事件が起きた。

綿貫が写真に撮った誓約書を新聞にスッパ抜いたのだ。

醜聞は広まり、三人の前には、自殺でつぐなうより他に手はないように思えた。

ある夜ベッドで睡眠薬を飲んだ三人は、静かに事を処理した。

だが翌日、光子と孝太郎はすでに息絶え、園子だけが生き残っていた。

 

 

 

コメント:

 

原作『』(まんじ)は、谷崎潤一郎の長編小説。

 

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両性愛の女性と関係を結ぶ男女の愛欲の物語。

2組の男女の関係が交錯する「卍」模様の倒錯的な愛が大阪弁によって描かれている。

雑誌『改造』の1928年(昭和3年)3月号から翌1929年(昭和4年)4月号、6月号から10月号、12月号、1930年(昭和5年)1月号と4月号に断続的に連載された。単行本は1931年(昭和6年)4月に改造社より刊行された[2]

 

まず、タイトルの「卍(まんじ)」とはどういう意味だろうか。

いやらしい意味はないようだ。

地図に使う「卍」という文字は、お寺を意味している。

なぜかというと、本来は、仏教用語なのだ。

 インドの諸宗教で,瑞相(ずいそう)すなわち吉祥や美徳を象徴するものとして用いられる印である

 卍字,万字とも書く。 

サンスクリットでは〈スバスティカsvastika〉あるいは〈シュリーバトサśrīvatsa〉といい,吉祥喜旋,吉祥海雲などと漢訳される。

実はすばらしい意味なのだ。

右旋・左旋の両種があり、日本の仏教では主に左旋 を用い、寺院の記号などにも用いるとのこと。

 

しかし、谷崎潤一郎はタイトルの意味を全く別に考案したのではないだろうか。

おそらく、「卍」の文字の形から、「三つ巴のがんじがらめ」の様子を「まんじ状態」ということにしたかったのでは。

 

それを最も表しているのが、アントニオ猪木だ!

この「卍」という文字は、アントニオ猪木の必殺技に使われている文字である。

そう、「卍固め」(まんじがため)だ。

 

アントニオ猪木の卍固め

 

欧州マットでは古くから存在していた技であり、特にイギリス出身レスラーが好んで使用することで知られたという。

日本での公開はアントニオ猪木によって1968年12月13日に用いられたのが最初とされる(後楽園ホール大会におけるジャイアント馬場と組んでのブルート・バーナード&ロニー・メインとのタッグマッチにおいて、バーナードを相手に初公開)。

当時の報道ではコブラツイストが猪木だけでなく他のレスラーも好んで用いるほど一般化してしまったため、より威力のある卍固めを開発したと解説されている。

オクトパス・ホールド」の名称は、猪木がこの技をかける様子がまるでタコが何かに絡まるように見えたことから、レフェリーの沖識名が名づけたという。

後にこの技が猪木の代名詞となるにつれて技名の一般公募が日本プロレスの中継局であった日本テレビ『日本プロレス中継』を通じて行われ、技を掛けている様子が漢字の「卍」に似ていたことから「卍固め」が新たな技名となったのである。

 

 

さて、映画の中身を見てみよう。

 

小悪魔を通り越して得体の知れない光子と、彼女に溺れて堕ちていく園子。

この二人を演じた若尾文子、岸田今日子のエロチシズムが半端ない。

特に若尾文子は、同性を魅了するのも納得!と思えるほどの美貌と肢体。

対する岸田今日子は、翻弄される危うさをきっちり表現し、裕福で上品な人妻との落差がなかなかの見もの。

 

そして終盤では、女性同士の恋愛から、女2人・男1人の歪な関係に発展する。

光子の絶対的な主導権に感服しつつ、そんな彼女の言いなりで何度も睡眠薬を飲む園子夫妻がどこか滑稽に思える。

と同時に、光子を崇め奉る園子夫妻に、宗教を彷彿させる洗脳の恐怖も抱くことになる。

園子のそれは、光子がいなくなってからも解けることはない。

原作が谷崎潤一郎だけあって、独特な趣向を描いているものの決して下品にならないのは、やっぱり文豪の為せる業なのか。

 

 

 

谷崎潤一郎の原作で、格調高く、耽美的に、愛憎が語られており、またしっかりした筋立てで、ある意味サスペンスを思わせるような、疑心暗鬼の展開で、静かな中にも目が離せない作品。


若尾文子・岸田今日子の熱演も素晴らしく、若尾文子の最後まで心の内を見せないような演技と、岸田今日子のひたむきに押していくような演技には惹きつけられる。
狂言自殺のあと、愛の狂気に蝕まれていく園子夫妻には、静かな表現の中で鬼気迫るものを感じる。

谷崎潤一郎の世界の雰囲気がよく出ている。
 

この作品は、数多い谷崎映画の中でもトップクラスの耽美主義の表現の深さと上品さを示している作品といえよう。

 

この映画は、Amazon Primeで動画配信可能:

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