「お琴と佐助」
1961年10月14日公開。
通算で3作目となる「春琴抄」の映画化。
山本富士子と本郷功次郎の共演作。
原作:谷崎潤一郎「春琴抄」
監督・脚本:衣笠貞之助
キャスト:
山本富士子 | お琴 |
本郷功次郎 | 佐助 |
花布辰男 | 安左衛門 |
賀原夏子 | おしげ |
長谷川季子 | お良 |
三津田健 | 新助 |
川崎敬三 | 利太郎 |
潮万太郎 | 千吉 |
中村伸郎 | 春松検校 |
春本富士夫 | 由造 |
花野富夫 | 幸治 |
中条静夫 | 善助 |
あらすじ:
大阪道修町の薬問屋に生れた鵙屋春琴(山本富士子)は、両親の寵愛を一身に集めていたが、九歳の時失明した。
琴三絃の道を志したが、その道でも優れた才能を見せ、十五歳になると同門で彼女に比肩する者がいなくなった。
師匠の春松検校(中村伸郎)の家までの道を春琴は丁種の佐助(本郷功次郎)に手をひかれて通った。
佐助は彼女より四つ年上で十三の時から丁稚として奉公に上がっていた。
検校の家で春琴を待つ間、春琴の習っている音曲を覚え、小遣銭を貯めて古い三味線を買い仲間が寝静まった後で独り稽古を始めた。
その熱意が認められ、気難しい春琴の遊び相手を勤める意味もあって、佐助は春琴から三味線を教わることになった。
鵙屋の夫婦は、改めて佐助を春松検校の門に入れた。
それから一年春琴は妊娠した。
春琴は頑として相手の名をいわなかった。
間もなくその子は他所へ貰い子に出された。
夫婦は、春琴のあたりまえの結婚は難しいと知って、気心の知れた佐助を春琴の婿にしようと思った。
だが、春琴は一言のもとにその話をはねつけた。
雇人の佐助などとんでもないというのである。
そんなうちに、春松検校が死去したため春琴は独立した。
当時、春琴は琴も三味線も大阪第一流の名手になっていたが、その傲慢さと稽古の凄まじさのため弟子の数も少く、中には撥で眉間を破られる者もあった。
そうした者の意趣晴らしか、或いは春琴と佐助の仲を妬んだ者の悪戯か、或る夜ひそかに忍びこんで、春琴の顔に熱湯を浴びせた者があった。
呻き声に佐助が春琴の寝床にかけ寄ると、春琴は浅ましく変わった顔をかくして見せようとしなかった。
やがて傷も治り、繃帯を除らねばならぬ時がくると、春琴は顔をみられたくないと泣いた。
春琴を愛する佐助は、縫針で自分の眼をつぶした。
春琴はその感動に佐助の自分に対する愛情を知った。
初めて同じ世界に住むことになった二人はその幸せに相擁して泣くのだった。
コメント:
谷崎潤一郎の「春琴抄」の映画化。
通算で三度目の映画化となっている。
原作の『春琴抄』(しゅんきんしょう)は、谷崎潤一郎による中編小説。
盲目の三味線奏者・春琴に丁稚の佐助が献身的に仕えていく物語の中で、マゾヒズムを超越した本質的な耽美主義を描く。句読点や改行を大胆に省略した独自の文体が特徴。谷崎の代表作の一つで、映像化が多くなされている作品でもある。
英訳タイトルは"A Portrait of Shunkin"。
丁稚(でっち)の佐助は、盲目の琴の師匠である春琴を慕い続けていた。
だが、春琴がやけどを負い、醜くなった顔を見られたくないと泣く。
すると佐助は、自らの眼を縫針でつぶし、自分が見れないようにしてしまった。
佐助の心に残るのは、春琴の美しかった昔の面影だけであった。
これこそ、谷崎潤一郎の目指した究極の「耽美主義」の世界なのである。
『春琴抄』は。世界に知られる谷崎潤一郎の名作である。
1933年(昭和8年)6月、『中央公論』に発表された。
単行本は、「蘆刈」と「顏世」の2作品と共に収録し、同年12月に創元社より刊行された。
単行本初版の表紙には黒漆塗りと朱漆塗りの二種類が存在しており、後者は発行部数が極めて少ない珍本であるという。
この物語には、モデルとなっている女性があるようだ。
『鵙屋春琴伝という春琴の三回忌に佐助が作った小冊子をもとに、谷崎潤一郎が春琴について語る』という文献があるようだ。
有力なのは菊原初子という女性だ。
菊原初子:
12日午後10時35分、肺炎のため大阪市天王寺区の病院で死去した。
102歳 谷崎潤一郎の地歌の師匠だった菊原琴治の長女。
地歌は江戸時代初期、人々の喜怒哀楽を入れたはやり歌に、三味線と琴の伴奏を付けて生まれ、上方を中心に発展した。
菊原さんは、その地歌の保存に情熱を注いだ父と祖父に幼少のころから琴や三味線の指導を受けた。
野川流三弦本手組歌全曲、生田流箏曲組歌全曲を伝承する演奏家として昭和54年、重要無形文化財保持者(人間国宝)に指定された。
谷崎は、目の不自由だった父親の世話をする菊原さんの姿を見て、名作「春琴抄」のヒントにしたといわれている。
本作は、谷崎潤一郎の「春琴抄」の三度目の映画化となる山本富士子主演、衣笠貞之助監督の作品。
幼くして失明しながら琴の演奏に才能を見せる大阪道修町の薬問屋の娘と、本郷功次郎演じる彼女に献身的に仕える奉公人との一つ間違えると異常に映る愛情を格調高く描いている。
山本富士子が美しい。
春琴抄の映画はたくさん存在するようだが、本作はネットでは全く観れない状態になっている。
最も古いものでネットで視聴可能なものがこちら:
「春琴抄(1935年)」:田中絹代・高田浩吉主演。