「世にも怪奇な物語」
(原題: Histoires extraordinaires)
1968年5月17日公開。
仏伊合作の3部構成オムニバス映画。
仏伊三人の監督によるオムニバス映画三部作。
フランス、イタリア、米国、イギリスから多くの監督、俳優が参加した国際的映画。
原作:エドガー・アラン・ポー(米)
監督:
ロジェ・ヴァディム(仏)(黒馬の哭く館)
ルイ・マル(仏)(影を殺した男)
フェデリコ・フェリーニ(伊)(悪魔の首飾り)
キャスト:
第1話:「黒馬の哭く館」
ジェーン・フォンダ(米)
ピーター・フォンダ(米)
フランソワーズ・プレヴォー
ジェームズ・ロバートソン・ジャスティス
第2話:(影を殺した男)
アラン・ドロン(仏)
ブリジット・バルドー(仏)
カティア・クリスチーヌ
第3話:「悪魔の首飾り」
テレンス・スタンプ(英)
サルヴォ・ランドーネ(伊)
あらすじ:
第1話 「黒馬の哭く館」
伯爵家の令嬢フレデリック(ジェーン・フォンダ)は女王のような我儘な振る舞いで周囲をいいなりにしてきた。
ある日森の中で知り合った男爵家のウィルヘルム(ピーター・フォンダ)にフレデリックはひかれ、誘惑しようとしたものの、日頃の彼女の振る舞いに軽蔑の感情を持っていた彼に拒絶されてしまう。
怒りからの行動によりフレデリックはウィルヘルムの馬小屋に放火してしまう。
ウィルヘルムは愛馬と共に焼死する。
それ以後、城に現れた黒馬にまつわる不可思議な事件が起こるようになる。
第2話 「影を殺した男」
寄宿学校に通う狡猾なサディストのウィリアム・ウィルソン少年(アラン・ドロン)の前に、彼と正反対な性格の同名のうりふたつの少年が現れる。
彼は事ある事にウィルソンの悪事を妨害した。
のちに士官となったウィルソンは、賭博場で会った美しい女性・ジュセピーナ(ブリジット・バルドー)とカードの勝負をする。
ウィルソンはイカサマで勝利をし、ジュセピーナの裸の上半身を鞭で打つ。
そこにうりふたつのウィルソンがまた現れ、イカサマが暴かれてしまう。
怒り狂ったウィルソンは、もう一人のウィルソンを殺害してしまう。
第3話 「悪魔の首飾り」
俳優のダミット(テレンス・スタンプ)は、かつて華やかな世界で名声と賞讃をほしいままにしてきた、
しかし、アルコール中毒によって落ち目の時期だった。
そんな彼に、イタリアから新車のフェラーリを報酬に映画出演の話が来る。
しかし、不安から、酒を飲み続け、何かに取りつかれたかのようにフェラーリを走らせてしまう。
コメント:
恐怖小説や推理小説で世界に知られる米国の作家・エドガー・アラン・ポーの原作を三部作として、仏伊三人の監督がそれぞれの個性とスタイル生かして作ったオムニバスである。
とにかく、原作者が米国、監督がフランスとイタリア、出演者が米国、フランス、イタリア、英国と世界各国の名だたる人たちが結集した作品となっている。
1960年代になると、イタリアの映画も他の国との提携が当たり前になってきているのだ。
第一部「黒馬の哭く館」は、ロジェ・ヴァディム、パスカル・カズン、ダニエル・ブーランジェの三人が脚色、「バーバレラ」のロジェ・ヴァディムが監督。
撮影はコンビのクロード・ルノワール、音楽はジャン・プロドロミデスが担当。
出演は「バーバレラ」のジェーン・フォンダと彼女の弟のピーター・フォンダなど。
原作は短編「メッツェンゲルシュタイン」(1832)。
焼死した男爵の魂が黒馬に乗り移り、美女を死の世界へ連れ去るという、世にも怪奇な物語。
監督のロジェ・ヴァディムと主演のジェーン・フォンダは夫婦関係にあった。
ジェーン・フォンダ扮する女性伯爵フレデリックが恋焦がれる若い男爵ウィルヘルムに、ピーター・フォンダが扮し、兄弟共演を果たしている。
中世の雰囲気たっぷりの耽美的作品で、『バーバレラ』と同様、次々替わるコスチュームも楽しめる。
第二部「影を殺した男」はルイ・マル、クレマン・ビドル・ウッド、ダニエル・ブーランジェが脚色、「パリの大泥棒」のルイ・マルが監督。
撮影はトニーノ・デリ・コリ、音楽はディエゴ・マッソン。
出演は「太陽が知っている」のアラン・ドロン、「今宵バルドーとともに」のブリジット・バルドーなど。
原作はポーの短編の中でも有名な「ウィリアム・ウィルソン」(1839)。
同姓同名・容姿も同じ二人のウィリアム・ウィルソンがいて、サディスティックなウィルソンの悪事が成し遂げられる寸前に、いつも理知的で道徳的なウィルソンに邪魔され、ついに悪玉ウィルソンが善玉ウィルソンを刺殺すると、影の死は本体の死をも意味していたという、世にも怪奇な物語。
2人のウィルソンを演じるアラン・ドロンが迫真の演技で怖い。
悪玉ウィルソンは禍々しくとても悪い奴。
そのサディスティックな行動のシーンは見るに堪えない恐ろしさ。
人間性に潜む善悪や、二重人格性を描き出し、善の死は悪の死をも意味するという示唆に富んだ作品。
ウィリアム・ウィルソンはドッペルゲンガーの話だ。
疾走するウィリアム、教会に飛び込み、神父に告解をする。自分の人生に、なんとも邪魔なもう一人のウィリアム・ウィルソンの話。
回想で語られるドッペルゲンガーの不快な横やり。
元々ウィリアムは悪意と狡知の人間、対する一方のウィリアムは善意と公正の人。
いずれは破滅するウィリアムだが、怒りにかられ我を忘れる。
ともかくドロンのサディストぶりが絶品で、オチもきれいだし、短編の魅力にあふれている。
これだけ観ても元が取れると感じられる質の高い作品だ。
ただし鐘楼から墜落するシーンでは、明らかに人形であるのがバレる。
当時では仕方がないが、現在のCG合成を考えると感無量だ。
第三部「悪魔の首飾り」はフェデリコ・フェリーニ、ベルナルディーノ・ザッポーニが脚色、「81/2」のフェデリコ・フェリーニが監督。
撮影は「異邦人」のジュゼッペ・ロトゥンノ。
音楽は、ニノ・ロータ。
出演は、テレンス・スタンプ、サルヴォ・ランドーネ。
3部作の中でも、これが真打ちとされている「悪魔の首飾り」だ。
冒頭の西日がまぶしいローマの空港、執拗なパパラッチ、アルコール依存症のシェイクスピア俳優ダミッド(T・スタンプ)の倦怠感に満ちた表情など、見どころ満載。
素晴らしい!
これがフェリーニだ。
一人の英国人が眼にするローマのテレビ局、そして芸能界上げての授賞式。
人物がデフォルメされ、シュールリアリズムを感じさせる。
有象無象がニノ・ロータのモダンな音楽に乗って、ミュージカルのような軽やかさとフェリーニ流の猥雑さが混ざり合い、独特のスタイルを築き上げた。
さらにダミットがフェラーリで夜のローマを疾走するシーン。
現代を象徴するフェラーリが旧世界を代表するローマ市街をライトで照らす。
この迷宮感と神経症的なスタンプの演技で、とてつもないフェリーニ世界の深さを表現している。
結末には衝撃のオチを見せる。
この第3部で最も際立っているのは、主演のテレンス・スタンプの風貌と狂気の演技だ、
この人はイギリスの俳優。
1962年に『奴隷戦艦』で映画デビュー、ゴールデングローブ賞最優秀新人賞を獲得し、アカデミー助演男優賞にもノミネートされる。
1965年、ウィリアム・ワイラー監督の『コレクター』の誘拐犯役の演技でカンヌ国際映画祭 男優賞を受賞。
そして1967年、本作の第3部であるフェデリコ・フェリーニ監督の『悪魔の首飾り』ではアルコール依存症のイギリス俳優を演じて、彼以外には考えられないほどのハマリ役だと評された。
その後、ピエル・パオロ・パゾリーニ監督の『テオレマ』などにも主演した。
さらに、『スーパーマン』(1978年)、『プリシラ』(1994年)、『イギリスから来た男』(1999年)、『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』(1999年)、『ホーンテッドマンション』(2003年)、『エレクトラ』(2005年)、『ウォンテッド』(2008年)、『ワルキューレ』(2008年)など、数多くの映画に出演した。
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