今東光の映画 「お吟さま」 千利休の娘を熱演! ヒロインは有馬稲子!  | 人生・嵐も晴れもあり!

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「お吟さま」

 

 

1962年6月3日公開。

自分の愛を貫いた利休の娘・お吟を描く。

田中絹代が監督。

 

原作:今東光『お吟さま』

脚本:成澤昌茂 

監督:田中絹代

 

キャスト:

  • 有馬稲子 - お吟さま(利休の娘)
  • 高峰三枝子 - りき
  • 富士真奈美 - 宇乃
  • 仲代達矢 - 高山右近
  • 笠智衆 - 南坊宗啓
  • 南原宏治 - 石田三成
  • 伊藤久哉 - 万代屋宗安(利休の娘婿)
  • 二代目中村鴈治郎 - 千利休
  • 岸恵子 - 引廻しされる女
  • 滝沢修 - 豊臣秀吉
  • 月丘夢路 - 淀君
  • 田村正和 - お吟の弟

 

 

あらすじ:

天正十五年。

豊臣秀吉の茶頭千利休の娘・吟(有馬稲子)は、六年間一筋に慕い続けてきたキリシタン大名・高山右近(仲代達矢)をむかえて喜びに燃えた。

しかし、妻のある右近はキリシタンの教えを破ってまで、吟の思いを受け入れることは出来なかった。

折も折、父・利休(中村鴈治郎)は石田三成(南原宏治)から吟の縁談を持ち帰った。

相手は太閤茶湯七人衆の一人、廻船問屋・万代屋宗安(伊藤久哉)である。

気の進まぬ吟は、必死の思いで右近にその思慕を打ちあけたが、右近は苦しい思いで万代屋へ嫁ぐよう吟にすすめるのだった。

二年後、万代屋へ嫁いだ吟は、いまだ右近への思慕をたちきれず、そんな吟にあきたらぬ宗安は、放蕩三昧の生活だった。

ある日、宗安が招いた茶会の席上、吟は右近に会った。

同じ席上、秀吉(滝沢修)は吟の美貌に激しく心を動かされた。

これを知った三成と宗安は右近をおとし入れ、吟を秀吉の側女に差し出して、おのれ達の勢力を拡大しようとはかった。

偽の手紙で南宗寺に呼び寄せられた右近と吟は、住持のはからいである茶屋に逃げこみ、はじめてお互いの愛を告白し、ひしと抱き合うのだった。

今は妻もない右近との再会を約して万代屋へ帰った吟は、暇をとって利休のもとへ戻った。

一方で三成は、吟と右近に不義密通の咎があると秀吉に申し立て、右近を追放した。

そして利休には、吟を秀吉の侍女にするようにとせまるのだった。

利休は激しくはねつけたが、結局は大阪城にむかえられることになった。

黄金の茶室で秀吉から求愛をうけた吟は、ただ自分の魂はさるお方のもの、と答えるだけだった。

一両日中に再考するよう言いわたされて帰った吟を、利休は命にかけても右近のもとに送ろうとした。

一家揃っての別離の宴。

すでに家の周囲は何者かに包囲されていた。

逃れるすべのない吟は、白無垢の死装束に身を正し、別れの和歌を残して死場所である離れ座敷へと姿を消した。

 

 

コメント:

 

原作は、今東光の同名小説。

第36回直木賞を受賞した今東光の代表作である。

 

お吟さま(今東光 著) / 甲陽書房 古書部 / 古本、中古本、古書籍の通販は「日本の古本屋」 / 日本の古本屋

 

名女優・田中絹代の監督作品。

本作は、6本ある田中絹代監督作品の最終作となる。

利休が中村鴈次郎、娘のお吟が有馬稲子。

高山右近を仲代達矢が演じている。

 


豊臣秀吉が滝沢修というのは驚き。
石田三成が南原宏治。

お吟の弟役が、田村正和だ。

千利休が秀吉の不興を買って滅びるときのサイドストーリー。

滝沢修が演じる秀吉は、表面ではキレたりはしていない。

実際に追いつめていくのは、南原宏治の石田三成という設定になっている。

しかし、秀吉が女と見たら全てを我が物にしたいという肉欲の塊になっている姿は気が狂っているとしか言えない。

 

 

豊臣秀次の側女になることを拒否して磔になるという役柄で登場するのは、岸恵子。

岸惠子が土手の上で馬に乗せられ引き回しに遭っている夕暮れの場面は、けっこう衝撃的だ。

秀吉、許せんと観る者に思わせるシーンとして、絶妙な効果がある。

 

本作の最後で、お吟がすべてを諦め、白無垢の死装束に身を正して死に場所に向かうシーンは涙が出る。

秀吉という天才と幸運を持ち合わせた男が、天下を統一した後で、最低の男に成り下がって行く。

権力の頂点を極めた人間の、その後の生き方の大切さを感じざるを得ない。

 

有馬稲子の魅力が堪能出来る。

上品な色っぽさがあり、話し方からして全て優美である。
綺麗な横顔のカットも多い。

 

この映画は、数多くある秀吉と千利休との対立を描いた作品の一つである。

原作も、今東光の創作によるストーリーとなっていて、史実とは異なる部分があると言われている。

しかし、千利休の娘が、高山右近と不倫の関係になるというのは、そんな馬鹿なと思いつつ、もしそういう男女関係が戦国の世にあったら面白いと思わせてくれる、ちょっと目を惹く展開である。

 

この小説を読んでみると、ヒロインのお吟という女性は、令和の時代を生きる女性と同様に、「嫌なものは嫌」とはっきり言える人だった。

あの天下人・秀吉に言い寄られても、はっきりと「嫌でござりまする」と言い切ってしまう。

 

実際にはこんな女性が安土桃山時代にいたとは考えられないが、自分の恋する相手でなければ、相手にしないという己の生き方をこれほどはっきりと態度に出せる姿には、思わず喝采してしまう。

 

さすが、色欲をテーマにしたさまざまな小説を世に出した文豪・今東光だ。

 

こういう奇想天外の時代小説を創出できる若手文学者の出現が待たれる。

 

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