「こつまなんきん」
1960年11月6日公開。
瑳峨三智子主演の恋愛映画。
原作:今東光「こつまなんきん」
脚本:富田義朗
監督:酒井辰雄
キャスト:
瑳峨三智子:お市
藤山寛美:達吉
安井昌二:小五郎
菅井一郎 :万之助
花菱アチャコ:永之助
乙羽信子:お町
河津清三郎:岩崎
曽我廼家明蝶:多吉
高野真二:松村
浪花千栄子:おみね
山路義人:藤原
あらすじ:
大阪の東南部河内地方。
年に一度の盆踊りの夜、お市は達吉(藤山寛美)のために腕力で体を奪われた。
達吉の結婚式を知ったお市は、式場にのりこみ「あての腹には達吉の子が四月になっている」と叫んだ。
式は目茶目茶になった。
お市の父・万之助(菅井一郎)が死ぬと、達吉の父・永之助(花菱アチャコ)は残った家屋敷に目をつけ、達吉を住みこませた。
お市は、教祖になり教団を始めたいと、永之助に借金を申しこんだ。
教祖商売が繁昌している折から、永之助は承諾した。
この教祖商売は大繁昌だった。
株屋の多吉(曽我廼家明蝶)はお市の霊感で大儲けをし、十万円の寄附をした。
永之助が株に手を出した。
お市は、滝に打たれている時、瓢箪亭の若旦那・小五郎(安井昌二)に抱かれた。
永之助は株に失敗した。
家は勿論、教団までが赤紙を貼られ、狂乱した永之助の妻・おみね(浪花千栄子)は教団に火をつけた。
それから数年後、お市は大阪で易者になっていた。
多吉に再会し、小五郎の消息を聞いて訪れた。
だが、同宿しても下宿代をくれという彼のガメツさに多吉の許へ帰った。
多吉の妾同様になったお市は、株を始め、儲けた。
その後、多吉は失敗し、刑事事件をひき起した。
お市も逮捕された。
罪のない彼女は釈放されたが今は無一文、興行師・藤原(山路義人)にすすめられ、寄席の舞台に立った。
美人好きの実業家・岩崎(河津清三郎)がお市に目をかけた。
お市も惹かれていき、ホテルで求婚された時は幸福に涙した。
だが、事業に失敗した岩崎のため、あやうく自殺の道連れにされそうになった。
岩崎には妻もあったのだ。
岩崎の秘書がまた誘いの手をのべるが、お市は「もう男は沢山」と言うのだった。
コメント:
今東光の小説「こつまなんきん」を映画化した作品である。
そもそも、「こつまなんきん」とは何か。
野菜の名前だと言う。
漢字で「勝間南瓜」と書くようだ。
大阪市西成区玉出町で生まれた伝統品種の「かぼちゃ」である。
なにわの伝統野菜として関西では人気があった。
玉出町は、むかし「勝間村」と呼ばれていたらしい。
江戸時代の万延元年(1860年)に勝間村の庄屋らが、天満の青物市場問屋年行司あて野菜7品目に限り同村内での「立ち売り許可願」を申し出ており、その中に「南京瓜」が記載されていたことから、このカボチャのことを「勝間南瓜」(こつまなんきん)と呼んだという。
勝間南瓜は約800gの粘質な日本カボチャであり、小さいが味の良かったことから、綿とともにこの村の特産だった。
昭和10年代までは大阪市南部地域で栽培が行われていたが、都市化の影響で産地が移動するとともに、品種面では食の洋風化のため、西洋カボチャに取って代わられていったようだ。
だが、2000(平成12)年に木津市場の男性が和歌山の農家で種子を探し当てて以来、復活の傾向にあるという。
試験栽培された勝間南瓜は、冬至に生根神社で風邪や中風魔除けとして参拝者に振るまわれる。
だが、この映画の原作である今東光の「こつまなんきん」は、「かぼちゃ」を作る話でも売る話でもない。
どうやら「こつまなんきん」のように、小ぶりで中身がある女性、つまり、小さめな体だが、セクシーで、色気があって、男がそそられる女性ということのようだ。
最初から最後までたくさんの男との深い関係が続く、恋愛遍歴映画である。
まさに、「仏道」より「色道」を重んじた、今東光ならではの世界を描き切っている。
このヒロインを演じたのが、瑳峨三智子。
本作は嵯峨三智子の代表作となった。
この人は、多くの時代劇に脇役として出演した人気女優だったが、波乱に満ちた人生を送った。
俳優・月田一郎と女優・山田五十鈴との間の一人娘である。
だが、母の五十鈴が離婚したため、別々に暮らすようになった。
女優デビュー後、母・五十鈴と十数年ぶりに対面したが、しばらくの間、母を「山田さん」と呼んで周囲を驚かせたといわれる。
1956年に松竹に移籍。
母・五十鈴譲りの妖艶な色気と演技力で人気を得た。
1962年、俳優の岡田眞澄と婚約したが、結婚に至らず2年後に解消。
その後、金銭トラブルや薬物中毒などたびたびトラブルを起こし、芸能界復帰と失踪を何度も繰り返した。
俳優の森美樹とのラブロマンスもあったが、森のガス中毒による急死により悲劇となった。
1992年8月19日、滞在先のタイのバンコクでクモ膜下出血のため死去した。57歳没。
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