「みみずく説法」
1958年9月23日公開。
天台院の住持が檀家の人々との間に織りなす風俗劇。
原作:今東光「みみずく説法」
脚本:斎藤良輔、長瀬喜伴、椎名竜治
監督:久松静児
キャスト:
森繁久彌 | 今野東吾(和尚) | |
中村たつ | 東吾の奥さん | |
織田政雄 | 豚の毛さん(矢引整毛工場主) | |
曽我廼家明蝶 | 朝吉親分 | |
山茶花究 | 貞やん(刷毛工場主) | |
酒井光子 | おつた(貞やんの女房) | |
司葉子 | 和子(貞やんの娘) | |
乙羽信子 | おふじ(バーのマダム) | |
二木まこと | 真一(おふじの子) | |
美杉てい子 | とし子(おふじの妹) | |
田中春男 | 高安亭(料亭主人) | |
月野道代 | 千代(高安亭の女房) |
あらすじ:
大阪から南東へ一里半、南河内・八尾の町にある天台院の住持は、話の判る小説書きの今野東吾和尚(森繁久彌)である。
夜っぴて起きているので人呼んで“みみずく和尚”という。
さて今日は、檀家総代の貞やん(山茶花究)が丹精こめて飼いならした闘鶏の「兵助」と、王座に君臨している高安亭の「鬼高安」とが蹴り合う当日である。
和尚の応援の甲斐もなく「兵助」は敗けた。
勝った高安亭(田中春男)は、かねてぞっこんのバーのマダムおふじ(乙羽信子)をクドキに出かける。
そこで鉢合わせをしたのは朝吉親分(曽我廼家明蝶)。
両方とも気まずい思いで別れた。
ところで貞やんは隠し子の貞一郎が商売の資本をくれと云って来たので悩んでいる。
財布はお内儀(酒井光子)が握っているからだ。
この際につけこんだのが、貞やんの娘・和子(司葉子)の恋人である仙吉である。
気の弱い仙吉は、相愛の仲なのに和子をモノにしていないのだ。
悪友の勘次に入知恵された仙吉は、発奮して和子の寝室に忍びこむ。
和子は黙って担がれて水車小屋へ--。
この担ぎを発見した和尚、
仲人役をひきうけた。
貞やんは、はじめは学校出でなければと云っていたが、和尚の説得にこの縁談もまとまった。
金策に力を貸すという条件で。善因善果、軍鶏の「竜騎兵」が「鬼高安」を見事に負かした。
敗けた高安亭は、おふじにいうことを聞かなければ貸した金を返せと云い寄る。
朝吉に心傾いている、
おふじは和尚に相談に来た。
おふじをこっそり逃してやった和尚に、本山から“教師試補今野東吾、権律師に任ず”の辞令が来た。
坊さんの二等兵から一等兵になったわけだ。
その祝宴が済んだあとは、和子と仙吉の結婚式、和尚は、一人淋しそうな朝吉に、「おふじさんが信州で待っている。早う行ったれ」と告げるのだった。
そこへ、新家のおばあが死にそうやと勘次がとび込んで来た。
「よし、人を往生さすのも功徳、生かすのんも功徳じゃワテのお経で生き返らしたる」と和尚は勘次の自転車に飛び乗った。
コメント:
原作は、今東光の『みみずく説法』(中央公論社発行)である。
田舎のお寺天台院の住持が三十六軒の檀家の人々との間に織りなす風俗劇である。
「みみずく和尚」というのは、いつも一晩中寝ないで起きている坊さんという意味らしい。
この天台院の住持をしている、話の判る小説書きの今野東吾和尚のモデルは、まちがいなく、今東光本人だ。
自分自身を主人公にしてこんなはちゃめちゃな小説を書いて喜んでいたのだろう。
朝吉親分というのは、大阪の八尾に実在した侠客で、かっこ良い親分として有名だったという。
この朝吉親分を主人公にした人気小説が「悪名」である。
勝新太郎主演で、シリーズものとして大映の人気映画になった。
本作では、曽我廼家明蝶が演じている。
主人公のみみずく坊主を演じた森繁には『夫婦善哉』など軽妙な大阪弁を駆使する役柄もたくさんあるが、これは関西生まれの強みであろう。
関西出身の俳優は、東京弁も大阪弁も両方上手に使える人が多い。
この映画には八尾の朝吉いや分の曾我廼家明蝶の他にも、ブラシ業者に山茶花究、その妻に酒井光子、その娘に司葉子、よそ者の成金に田中春男、飲み屋の女将に乙羽信子、司葉子の恋人に藤木悠、みんな関西言語圏の出身者。当然のごとく、大阪弁の名人浪花千栄子も出ている。たしか松竹新喜劇の若手だった小島秀哉も出ていたように思う。
東京弁を話すのは和尚の妻の中村たつと、東京の雑誌編集者横山道代のふたりだけだという。
勝新の『悪名』シリーズ以前の曽我廼家明蝶の朝吉は決してごろつきの無法者ではなく、いかにも河内にいそうな好人物で、微笑ましい。
森繁はなんていい役者だったんだろうと感嘆せずにはいられない。
この映画は、数年前に衛星劇場で上映されたようだが、最近は見当たらない。
ソフト化されたかどうかも不明である。