「イタリア式離婚狂想曲」
(原題:Divorzio all'italiana)
1961年12月20日公開。
1961年アカデミー賞脚本賞受賞。
イタリアの刑法を逆手に取った離婚方法とは?
脚本:ピエトロ・ジェルミ、エンニオ・デ・コンチーニ、アルフレード・ジャンネッティ
監督:ピエトロ・ジェルミ
キャスト:
- マルチェロ・マストロヤンニ:フェルディナンド
- ステファニア・サンドレッリ:アンジェラ
- ダニエラ・ロッカ:ロザリア
- レオポルド・トリエステ:カルメロ
あらすじ:
フェルディナンド・チェファル(マルチェロ・マストロヤンニ)は一年半ぶりに懐しのわが家へ帰るところだ。
シチリアの没落貴族で結婚生活十二年の彼は、口うるさい妻ロザリア(ダニエラ・ロッカ)との息の詰りそうな毎日にあきあきし、当時十七歳だった美しい従妹アンジェラ(ステファニア・サンドレッリ)に年甲斐もなく憧れを抱いていた。
彼女も秘かに自分を愛していると知って固く愛を誓ったものの、二人の恋に希望はなかった。
この国では離婚出来ない上、落ちぶれたとはいえ古い家柄の彼はやはり人々の注目の的だからだ。
罪に問われずにロザリアを殺す方法はないものかと毎日彼は妻の死を思い描いた。
そんな時彼は、刑法587条の「自己ノ配偶者、娘、姉、妹ガ不法ナル肉体関係ヲ結ブトキ、コレヲ発見シ激昂ノ上、殺害セル者ハ、3年以上7年ノ刑ニ処ス」という条文を見つけて、喜びのあまり躍り上がった。
妻が不貞を働けば名誉を守るために殺しても軽い刑ですむのだ。
彼は妻の浮気の相手に彼女の初恋の画家カルメロ(レオポルド・トリエステ)を選び、邸の壁画修理に名を借りて二人を近づけた。
とうとう二人は駈け落ちし、フェルディナンドは妻を寝取られた男として街中の嘲笑をあび、妹アニエーゼも腰抜けの兄のために婚約を解消された。
アンジェラの父はこの騒ぎのショックで心臓発作を起こして死んだ。
駈け落ちした二人の行先が判ったので、かねて用意のピストルを手に目的地に到着した時、すでにあたりは血の海、カルメロの妻が夫に復讐したのだ。
フェルディナンドもこの哀れな妻を計画通り殺した。
裁判の判決は三年、最低の刑である。
それも恩赦で実際は一年半になった。
そして今、彼はアンジェラの待つわが家へ帰る途中なのだ。
街の人々や家族は彼を英雄のように迎えた。
アンジェラの父の遺産のお蔭で二人はいまや金持の新婚夫婦となったのだ。
「犯罪はひきあわない」とは、どこの国の諺だろうか。
コメント:
これぞ、イタリアならではの映画である。
日本ではこういう映画を制作しても映倫が公開を許さないだろう。
カトリック国であるイタリアでは、1970年に離婚法が制定されるまでは法律で離婚が禁じられていた。
離婚が禁じられている以上、妻と別れるには、妻が死ぬのを待つしかなかった。
当時のイタリアの刑法によると、姦通した妻を殺した場合は、、3年から7年の禁固刑で済んだ。
何という男尊女卑の法律だろう。
こんなうまい法律があることを知った倦怠期にある夫が、妻と離婚して、若い女性と再婚するにはどうしたら良いか、練りに練って実行に移したという映画がこれだ!
シチリアで最も大切なものは名誉を守る事。
この地域性を生かし、若い女性に乗り換えたい没落貴族フェルディナンドは、自分を愛してやまない妻に、不義密通の罪を着せ、亡き者にしてしまう。
あまりに理不尽ではあるが、完全犯罪を目論むよりは、白日のもと、堂々と大義をもって殺してしまう方が巷間の賛同は得られるし、刑期も驚くほど短期間で済むという、良いことだらけだという。
艶笑劇の構成になっているので、ジメジメしたり悲劇っぽくないところも良い。
見初めた若い女と一緒になるために、様々な奸計をめぐらせ、妻を殺してしまうあたりは痴情のもつれとして万国共通にままあることだ。
ただ、劇中の男女が大っぴらに交わすオーバーな愛情表現や、品定めをするかのように女性を見つめる男性のあけすけな眼差しは、さすがイタリアならではだ。
日本とは比較にならないほど恋愛至上主義的な文化がこの国には存在していることを実感する。
邸宅やテープレコーダーや手紙といったセット小道具を巧みに使いながら、官能的な思惑が交錯する男女の色恋沙汰をブラックコメディとして紡ぎ出し、同輩F・フェリーニへの茶目っ気タップリな目くばせを送りつつ、カトリックに縛られた「名誉犯罪」の悪しき慣習を、アイロニカルに表出したP・ジェルミ監督。
その滑らかで懐深い語り口が光る秀逸の艶笑劇。
それにしても、いくら不倫に対する価値観や見方が違うとはいえ、人を殺してたった3年で出所できるとは、少し刑期が短すぎる気がするけれど。
主人公カップルのその後を暗示するビターテイストの終幕とともに、零落貴族のアンニュイ感を見事に体現したM・マストロヤンニの好演や、この当時、まだティーンエイジャーだったS・サンドレッリの初々しくもコケティッシュな魅力が印象に残る。
これが、あの「鉄道員」という悲劇を描いて世界を感動させた名監督・ピエトロ・ジェルミの作品だとは、信じられない。
この人の演出能力の幅には恐れ入る。
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