「秘密と嘘」
(原題:Secrets & Lies)
「秘密と嘘」
1996年5月24日公開。
家族関係の秘密が明かされて行くファミリードラマ。
人種問題を突き付ける異色作。
第49回カンヌ国際映画祭で最高賞パルム・ドールと女優賞(ブレンダ・ブレシン)を受賞。
監督・脚本:マイク・リー
キャスト:
- シンシア・ローズ・パーリー: ブレンダ・ブレシン - 工場で働く中年女性。未婚の母。
- ホーテンス・カンバーバッチ: マリアンヌ・ジャン=バプティスト - シンシアが16歳で産んで養子に出した娘。
- モーリス・パーリー: ティモシー・スポール - シンシアの弟。写真家。
- モニカ・パーリー: フィリス・ローガン - モーリスの妻。
- ロクサーヌ・パーリー: クレア・ラッシュブルック - シンシアの娘。もうじき21歳。
- ジェーン: エリザベス・バーリントン - モーリスの助手。
- ポール: リー・ロス - ロクサーヌの恋人。
あらすじ:
幼い頃に養女として引き取られたロンドンの黒人検眼医、ホーテンス(マリアンヌ・ジャン=バティスト)は、養母が亡くなり、彼女は生まれてすぐ別れたはずの実の母を探し始める。
社会福祉事務所で自分の養子縁組関係の書類を見た彼女は、黒人である自分の実母が白人だという記述に驚く。
その女性、シンシア・パーリー(ブレンダ・ブレッシン)は、段ボール箱工場で働き、もう一人の娘であるロクサンヌ(クレア・ラシュブルック)とともにイースト・ロンドンに住んでいる。
シンシアの弟であるモーリス(ティモシー・スポール)は、姉のシンシアとその娘ロクサンヌのことが気掛かりだった。
彼は、妻のモニカ(フィリス・ローガン)と話し合って、ロクサンヌの誕生日に二人を新築の自宅に招待することに決める。
一方、ホーテンスは実の母シンシアの住所を探し当て、悩んだ末に電話する。
シンシアは最初は戸惑い、「二度と電話しないで」と言うが、やがて会うことを承諾する。
シンシアは、待ち合わせ場所でホーテンスと対面し、娘が黒人であることに驚く。
近くのコーヒーショップで話しているうちに、シンシアはホーテンスを身ごもった時の事情を思い出して泣き崩れ、何も言えなくなる。
だがしばらくして、もう一人の娘ロクサンヌの反抗的な態度に毎日悩まされていたシンシアは、新しい娘・ホーテンスと会うことが嬉しくて仕方がなくなる。
シンシアははホーテンスをロクサンヌの誕生日に招く。
「私の友達ということにしておけば大丈夫よ」と言いながら。
そして誕生日、ロクサンヌはシンシアの“友達”に少し戸惑いを見せるが、モーリスは親切にする。
パーティーにはロクサンヌの恋人ポール(リー・ロス)とモーリスの助手のジェーン(エリザベス・ベリントン)も来ている。
やがて誕生ケーキが出てきたころ、シンシアは、幸せのあまり、ホーテンスが実の娘であるという真実を打ち明けてしまう。
一同は驚き、ロクサンヌは怒って外に飛びだしていく。
モーリスがバス停で座っていたロクサンヌとその恋人を説得して連れ戻す。
シンシアはモニカに対し、たった一人の肉親モーリスを奪っていったとなじる。
モニカは反論できない。
モーリスは妻モニカが子供を生めない体であることを明かす。
なぜ最も愛し合うべき肉親同士が傷つけあうのか、とモーリスは問いかける。
そしてホーテンスに「苦痛を承知で真実を追究した君を尊敬する。もちろん君は僕の姪だ。家族として受け入れる」という。
シンシアはロクサンヌに彼女の父だった男のことを明かした。
彼はアメリカ人の医学生で、いい人だったわ、と。
「私の父もいい人だった?」というホーテンスの問いに、シンシアは「それだけは答えられない」と言って泣き崩れた。
ある日の午後、ホーテンスとロクサンヌの姉妹は、母のシンシアと共にお茶の一時を楽しむ。
「人生っていいわね」とシンシアが呟く。
コメント:
本作は、パルム・ドール、金獅子賞をはじめ数多くの賞を受賞している、イギリスを代表するマイク・リーが脚本・監督した家族ドラマ映画である。
イギリスの人種問題を考えさせる異色作だ。
リー監督作品の常連の役者たちが数多く出演している。
本作では、マリアンヌ・ジャン=バティストが演じる、赤ん坊のときに養子として引き取られ、家族の歴史を辿ることを選んだロンドン中産階級の高学歴黒人検眼医ホーテンスが中心。
ブレンダ・ブレシン演じる実母シンシアは、機能不全の家族を持つ労働者階級の白人女性。
クレア・ラッシュブルックがシンシアのもう一人の娘ロクサンヌ役で共演し、ティモシー・スポールとフィリス・ローガンが日常の家庭生活に影響を与える秘密を抱えるシンシアの兄と義理の妹を演じている。
幼くして母親を亡くし、10代から稼ぎに出かけ、父親や弟の世話までこなしてきた中年女性・シンシアは、そのお節介な性格からか、夫はおろか友人すらいない状態だ。
そんな母親シンシアに対する不満からいつもイライラしている娘ロクサンヌ、カメラマンとして活動し裕福な生活を手に入れた弟モーリスと不妊治療に励むその妻モニカ。
そしてシンシアがその存在さえ忘れていた生まれてすぐに養女に出した黒人のホーテンス。
それらの人物をさらに取り巻くトラブルや人々。
嫉妬や憎悪、疑い、嘘、秘密、依存、罪の意識、さまざまな感情が渦巻く中、「家族」という幻想の中で、積もりに積もった不平不満がそこに噴出する。
イギリスの庶民的な家族の間で繰り広げられる愛憎と葛藤、和解を描いている。
第49回カンヌ国際映画祭で最高賞パルム・ドールと女優賞を受賞し、第69回アカデミー賞でも受賞は果たせなかったものの作品賞をはじめとする5部門でノミネートされた。
舞台出身のマイクー・リー監督らしく、脚本は一切使用せず、現場で役者とともに即興的に作り上げられていった世界観は極限のリアリティーを生んだ。
めんどくさい家族関係だが、要するに、シンシアという白人女性が主人公で、彼女は2回結婚して女の子を二人産んだのだが、最初の子の父親は黒人だったため、黒い顔の娘が生まれた。それがホーテンス。
そして事情があって、シンシアは最初の夫と別れ、その赤ん坊を手放した。
2回目の夫は白人だったので、白人の女の子が生まれた。それがロクサンヌ。
こういう例は珍しいが、白人と黒人が結婚して生まれた子が白い場合も黒い場合もあるらしい。
産み落としてすぐ手放した女の子が黒人だったことを知らなかった母。
その黒人の娘が、成長してロンドン中産階級の高学歴の検眼医になっていた。
そして彼女が探し当てた実の母は白人で、仲の悪い家族と住んでいて、幸せではなかった。
この映画は、人生の皮肉をみごとに描いたハートフル・コメディなのである。
人の幸せとは何だろうか。
アメリカ映画のように白人と黒人が家族の中に出てくるが、これはイギリスの庶民の家族関係を描いた作品である。
実は、イギリスは、世界中に植民地を持っていたので、アフリカや南アジア、東南アジア、西インド諸島、オセアニアとの交流がある。
つまり、イギリスも実は、人種のるつぼなのだ。
特に最近は、旧植民地出身者の人口増加が目立っており、最新の英国首相もインド系だ。
この映画に出演した女優の一人も旧植民地出身者の子孫である。
黒人女性ホーテンスを熱演しているマリアンヌ・ジャン=バティストだ。
彼女は、ロンドン生まれのイギリス人女優だが、彼女の父はカリブ海のセントルシア出身で、母は西インド諸島のアンティグア島出身だが、ロンドンに移住してマリアンヌを生んだようだ。
セントルシアもアンティグア島もイギリスの植民地だったところだ。
ここに住んでいる黒人たちのほとんどは、大西洋奴隷貿易の被害者である。
主としてアフリカ西岸(ギニア湾沿岸)から多くの黒人が捕らえられて奴隷として西インド諸島・中南米に送られ、砂糖の栽培をさせられたのだ。
監督・脚本をつとめたマイク・リーは、カンヌ国際映画祭では1993年に『ネイキッド』で監督賞、1996年に『秘密と嘘』でパルム・ドールと2度受賞している。
『ヴェラ・ドレイク』でヴェネツィア国際映画祭でも最高賞の金獅子賞に輝いた。
アカデミー賞の受賞はないが監督賞・脚本賞などで計7回ノミネートされている。
第62回ベルリン国際映画祭で審査委員長を務めた。
この映画は、以下のサイトで動画配信中: