「ブローニュの森の貴婦人たち」
(原題:Les Dames du Bois de Boulogne)
1964年4月3日公開。
ロベール・ブレッソン監督の名作。
原作:ドニ・ディドロ『運命論者ジャック』
脚本:ロベール・ブレッソン、ジャン・コクトー
監督:ロベール・ブレッソン
キャスト:
ポール・ベルナール:ジャン
マリア・カザレス:エレーヌ
エリナ・ラブルデット:アニエス
リュシエンヌ・ボゲール:アニエスの母
あらすじ:
観劇帰りのタクシーの中、エレーヌは男友達から「恋人ジャンはもう愛が冷めている」と忠告されるが、彼女は「私たちは愛し合っているわ」と答える。
しかし、部屋で待っていたジャンには、「あなたへの愛が冷め、今の生活が苦痛なの」と話す。
するとジャンは、「自分も同じ気持ちで、それを言えずにずっと悩み続けていた。お互いのために別れ、今後は友達でいよう」と去って行ってしまう。
愛しているのにジャンに裏切られたエレーヌは、復讐を計画する。
場末のキャバレーでアニエスの踊りを見たエレーヌは、帰りの彼女を家までつけていく。
エレーヌの隣人だったアニエスの母は、以前は裕福だったが3年の間に落ちぶれ、踊り子のアニエスが娼婦まがいをして食いつないでいた。
そんな親子の状況を知って、エレーヌは経済的な面倒を申し出る。
アニエス達の住まいも替えさせたエレーヌは、親子をブローニュの森に誘い出す。
そして、ジャンもそこに連れだして偶然を装い、引き合わせる。
アニエスをひと目みたジャンは、エレーヌの思惑通り、気に入ってしまう。
その後、ジャンはアニエスとの出会いを求めて、彼女の家の入り口で帰りを待つ。
しかし、ジャンと会ったアニエスは、どこそことなく冷たい。
ジャンはエレーヌに相談する。
ジャンがアニエスに夢中なのを、冷静に聞くエレーヌ。
エレーヌはやんわりと、徐々に自分の計画へとジャンとアニエスを誘導する。
そして、愛し合った二人の結婚式。
その幸福の絶頂の最中に、エレーヌはジャンに向かって、ささやきながらアニエスの過去を告げる。
純粋なはずの愛を絶望の中に落とすエレーヌ。
それは、自分を弄んだジャンへの仕返しだった。
コメント:
ロベール・ブレッソン監督による本作は、愛と嫉妬が渦巻き、復讐と償いが交錯するメロドラマである。
ブレッソンの野心と、監督としての妥協案とのあいだに、心もとない緊張感が見え隠れしている。
脚本のセリフの部分はジャン・コクトーが担当した。
美しいが嫉妬深い、上流階級の貴婦人・エレーヌ (マリア・カザレス) の物語。
彼女は、長年の恋人ジャン(ポール・ベルナール)の愛情をかきたてようと、心にもない別れ話を切り出す。
しかし、あろうことか、あっさりと同意されてしまった。
恨みをつのらせたエレーヌは、入念な復讐を企む。
ひどく貧しい家計を助けるため、男たちを楽しませることまでしている若いダンサー、アニエスに、ジャンが恋をするよう仕向けた。
そしてエレーヌはついに、公衆の面前でジャンに恥をかかせたのだった―。
エレーヌを演じるマリア・カザレスの、感情を面に表さないがその内面に秘めた嫉妬心、怒りのようなものがじわりと滲みでて怖い。
身振りは大袈裟で芝居がかっているが、台詞の口調は実に控えめだ。
このあたりの演出が実に面白く、見入ってしまう。
この作品は、古典フランス映画らしく様式化された台詞と、心理劇的な色合いをもつ演技によって、はっきりと特徴づけられている。
簡素なセットと筋立て、ツボにはまった演技、そして感動的で心温まる結末からも、監督の手腕がうかがえる。
ポール・ベルナールがいささか弱々しい役柄・恋人ジャンを演じている。
ダンサーのアニエスが、母親に「私なんて売春婦も同然よ!」と叫んでいる。
ブローニュの森にたむろしている女性達は、ほとんどが娼婦だったのだ。
当時のパリでは有名な場所だったが、2020年以降でも売春の本場という状況は続いているという。
何と、これまでフランスでは売春が合法とされていたが、2016年を皮切りに「売春行為・売春斡旋行為」が禁止となった。
そのためにブローニュの森は隠れて売春が出来る場所として再浮上しているようだ。
エレーヌを演じたマリア・カザレスは、スペイン出身の女優で、本作のほか、『天井桟敷の人々』、『パルムの僧院』、『オルフェ』などでその美しさを発揮した。
この映画は、どういうわけか1945年9月にフランスで公開される1年以上も前に、米国で公開され、大盛況となった。
今でもRotten Tomatoesでの評価はなんと100点だ。
この作品が、いかにアメリカ人に気に入られたかが分かる。
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