「大いなる幻影」
(原題: La Grande Illusion)
1937年6月8日公開。
第一次大戦中のフランスとドイツの将校同志の交流を描いた名作。
ジャン・ルノワール監督の代表作。
受賞歴:
- 受賞
- ヴェネツィア国際映画祭芸術映画賞
- ナショナル・ボード・オブ・レビュー外国映画賞
- ニューヨーク映画批評家協会賞最優秀外国語映画賞
- ノミネーション
- ヴェネツィア国際映画祭ムッソリーニ杯(外国映画大賞)
- 第11回アカデミー賞作品賞
脚本:シャルル・スパーク、ジャン・ルノワール
監督:ジャン・ルノワール
キャスト:
- マレシャル中尉:ジャン・ギャバン
- エルザ:ディタ・パルロ
- ド・ボアルディウ大尉:ピエール・フレネー
- ラウフェンシュタイン大尉:エリッヒ・フォン・シュトロハイム
- ロザンタァル中尉:マルセル・ダリオ
- カルティエ:ジュリアン・カレット
あらすじ:
第一次世界大戦中の一九一六年。
敵情てい察の任務を持つマレシャル中尉(ジャン・ギャバン)とポアルディウ大尉(ピエール・フレネー)を乗せたフランスの飛行機は、ドイツの飛行隊長ラウフェンシュタイン(エリッヒ・フォン・シュトロハイム)に撃墜されドイツ軍の捕虜となった。
マレシャルはパリの機械工の出、ポアルディウは貴族、そして国こそ違うが同じく貴族であるラウフェンシュタインは二人を捕虜扱いにせず不運な勇士として食卓にさえ招待するのであった。
彼等が収容されたハルバハ・キャンプの部屋には、ロザンタァル(マルセル・ダリオ)というフランスに帰化したユダヤ人の金持ちの息子もいた。
彼のもとに、日毎送られて来る慰問品で同室の人々はぜいたくな食事をとることが出来た。
貴族出で終始白い手袋をはめているポアルディウをマレシャルは仲々信用しなかったが、脱走するための地下穴を掘る件に関しては皆が協力した。
ある夜、収容所で演芸会が催された時、先に占領されていたドウオモンが友軍が奪回したとのニュースを聞いたマレシャルは興奮のあまり舞台に飛び出して、この旨を観客に知らせたので大騒ぎとなった。
彼はそのかどで一時営倉に入れられてしまった。
脱走の計画が着々実現可能な折も折、残念なことに彼らはスイス国境に近いシャトオ収容所に移転されてしまった。
そこで彼等を迎えたのは負傷して収容所長に後転したラウフェンシュタインだった。
彼は同じ貴族でしかも武人であるボアルディウに再会出来たのを非常に喜んだ。
貴族階級というものがやがてこの世界から姿を消す悲惨な運命を背負っているということも、二人のわびしい心には通じていた。これが更に二人を固く結んだ。一方マレシャルとロザンタァルはそのころ脱走計画をたてていた。
ラウフェンシュタインは、彼等を逃がすため城内を逃げまわっているボアルディウを規則と業務遂行のため彼の脚をねらって射ったが、運悪く急所にあたりボアルディウはラウフェンシュタインに見送られながら永遠の眠りについた。
ボアルディウのおかげで運よく脱走したマレシャルとロザンタァルは疲労と空腹のため一時は口げんかもしたが、山地を歩いているうち、とある田舎家にたどりついた。
家には母と子供がたった二人きりで住んでいた。
子供は見ず知らずの敵国人たる彼等を慕い始め、心やさしいエルザ(ディタ・パルロ)も彼等を厚くもてなし、二人をかくまってやった。
マレシャルは次第にこのエルザが好きになった。
良く通じない言葉でも彼等の心は互に接近していったが、脱走途中である二人はやさしいエルザとも別離しなければならなかった。
彼はエルザに戦いが終ったら再会しようと約束してロザンタァルと共にスイス国境に向かった。
雪の山地を二人は強歩し、とうとうスイス国境の寸前まで来てしまった。
二人の姿を見つけた監視兵は射撃を開始したが、駆け出した二人はすでに国境線を突破していた。
射撃の音はやんだ。
白い雪でおおわれたスイスの山腹をマレシャルとロザンタァルの黒い二つの影が進んでいく。
コメント:
第一次世界大戦でのフランスとドイツの戦いを背景に、ドイツ軍捕虜となったフランス人の収容所生活と階級意識、彼らとドイツ人将校との国境を超える友情を描いて、鋭く人道主義的立場から戦争を批判した反戦映画である。
この作品は高く評価されて数々の映画賞を受賞、第11回アカデミー賞作品賞にもノミネートされた。
日本では、1938年に輸入されたものの検閲により上映禁止となり、第二次世界大戦後の1949年に公開が実現した。
同年のキネマ旬報ベストテンでは第2位にランクインされている。
ルノワールは従来の戦争映画が、娯楽中心の安直な愛国精神を謳ったものばかりなのに不満を持ち、「戦闘員たちの真実の姿」を描く作品を作ろうと、航空隊に所属して空中から敵陣を撮影する偵察任務についていたという、自らの戦争体験を元に原型を作って行った。
初め「マルシャル大尉の脱出」との題で、スタッフ・キャストとも決定していたが、周囲の理解を得られず3年近くもお蔵入りしていた。
悩んだルノワールは友人の監督ジュリアン・デュヴィヴィエに作品を譲ろうとしたが、こんな兵隊だらけの映画はつまらんと断られ、「仕方ない。私がつくるしかない。」と決めたと自伝で述べている。
タイトルも容易に決まらず、撮影編集が済んだ時点で半ばいい加減な形で「大いなる幻影」と決められた。
原題は、フランス語で「La Grande Illusion」。日本語はそのまま直訳である。
発表当時センセーショナルな反響を呼び、ルーズベルト米国大統領は「世界の民主主義者は見るべきだ!」と称賛したが、ドイツ、イタリアなどのファシスト国家では反戦的人道的内容が批判され、ゲッベルスは「民衆に敵対する映画第一位」と批判、フランス国内でも上演禁止騒ぎが起こるなど賛否両論を引き起こした。
イタリアのムッソリーニは内容はともかくも、作品の芸術性を評価し、1939年、ルノワールを映画専門の教育機関「チェントロ・スペリメンターレ」に招いて講義してほしいと正式に申し入れた。
フランス政府は当時中立を保っていたイタリアの機嫌を損ねたくないとの意向もあって、ルノワールはイタリアに向かって講義を行ったという。
なかなか印象に残る作品である。
何と言っても、ドイツ側のラウフェンシュタイン大尉に扮するエリッヒ・フォン・シュトロハイムが魅力的。
そして、マレシャル中尉のジャン・ギャバンは、カリスマ的であり、すでにフランスの名優だった。
そして、ラウフェンシュタイン大尉とピエール・フレネーのド・ボアルデュー大尉が、敵と味方であっても、消えていく古い世代として交流する姿がなかなか良い。
ポアルデューが死んでしまうのが悲しい。
ラストで、マレシャル中尉が、「戦争なんて早く終わればいいんだ」と言うが、戦争がなくなることは“幻影”だ。
「大いなる幻影」というタイトルが、戦争の虚しさを象徴している。
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