日本の文芸映画 三島由紀夫 「シネマ歌舞伎 鰯賣戀曳網」 2023年4月時点で最後の作品 | 人生・嵐も晴れもあり!

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「シネマ歌舞伎 鰯賣戀曳網」

 

鰯賣戀曳網|シネマ歌舞伎 松竹|あの名舞台をお近くの映画館で

 

 

 

 

2021年06月04日公開。

2009年1月(平成21年)1月の歌舞伎座さよなら公演で上演された舞台を映画化。

歌舞伎が映画館で観れるという事で当時評判に。

 

原作:三島由紀夫

 

キャスト:

鰯売 猿源氏:中村勘三郎

傾城蛍火(実は丹鶴城の姫):坂東玉三郎

博郎六郎左衛門:松本幸四郎

庭男(実は藪熊次郎太):片岡亀蔵

海老名なみあぶだぶつ:坂東繭十郎

亭主:中村東蔵

 

映画「シネマ歌舞伎 鰯賣戀曳網」予告編(出演:中村勘三郎 、坂東玉三郎 ) - YouTube

 

あらすじ:

鰯賣の猿源氏(中村勘三郎)は、五條橋で見かけた傾城蛍火(坂東玉三郎)に一目惚れ。

恋の病を患い、自慢の売り声にも力が入らない。

そこで、猿源氏の父・海老名なあみだぶつ(坂東彌十郎)は、猿源氏を大名に仕立て、蛍火のいる揚屋を訪れることを提案。

恋焦がれる蛍火を目の前に、夢見心地で盃を交わす猿源氏。

だが、酔いつぶれて蛍火の膝の上で寝入り、寝言で“伊勢国に阿漕ヶ浦の猿源氏が鰯買うえい”と自慢の売り声を上げてしまう。

それを聞いた蛍火は、猿源氏の正体を問い詰めるが……。

 

シネマ歌舞伎 鰯賣戀曳網 : 作品情報 - 映画.com

 

コメント:

 

歌舞伎の舞台公演を高性能HDカメラで撮影した“シネマ歌舞伎”で、平成21年1月の歌舞伎座さよなら公演で上演された舞台を上映。

中村勘三郎の愛嬌溢れる鰯賣猿源氏と、坂東玉三郎演じる謎めいた気品を漂わせる傾城蛍火が織りなす恋模様を綴る。

シネマ歌舞伎だけの坂東玉三郎特別インタビュー映像も収録。

 

坂東玉三郎さんへのインタビュー記事を執筆 | 歌舞伎ライター 仲野マリの『エンタメ水先案内人』

 

冒頭、玉三郎自身の言葉で、本舞台についての解説、三島由紀夫と玉三郎との劇場での出会いや、女形としての実力を認められたこと等が語られる。

その解説の中で語られるように、三島由紀夫が描いた歌舞伎作品の中でも最も楽しく幸せな結末を迎える。

鰯売りの猿源氏が傾城と言われるほどの評判の遊女、蛍火に一目惚れするものの所詮は身分違いの恋。

相手にされるはずもないとのことから、周囲が一計を案じて猿源氏を大名に化けさせて、蛍火を座敷に呼ぶ。

酒を飲んですっかり上気分になった猿源氏は寝言で鰯売りの呼び声を上げてしまい、蛍火にその言葉は何かと問われると…

勘三郎と玉三郎が脂の乗り切った頃の共演作であり、三島由紀夫もまだ笑劇を書く気があった頃、更にはそれらの頃を振り返って玉三郎が解説を語れる今。

それぞれの幸せが重なった豊穣な作品。

 

鰯売恋曳網は、小説家の三島由紀夫作の歌舞伎演目。

三島由紀夫は生涯に6本の劇作を執筆している。

「鰯売恋曳網」は三島歌舞伎の中で唯一のハッピーエンドで終わる恋の物語。

 

三島由紀夫作の歌舞伎の演目で、大名高家の客専用の遊女に一目惚れした鰯売り(魚売り)が大名に化けて廓に行く物語。

三島の純文学とは全く趣きの異なる娯楽的作風だが、余裕を感じさせるファルスで、秀逸なナンセンスと、晴れやかな祝祭性、健康な笑いが溢れた作品として高評価された。

室町時代の御伽草子『猿源氏草子』をもとに、『魚鳥平家』、『小夜姫の草子』などの部分を取り入れていると三島は述べている。

 

1954年(昭和29年)、雑誌『演劇界』11月号に掲載され、同年11月2日より芸術祭11月大歌舞伎として、歌舞伎座で十七代目中村勘三郎の猿源氏、六代目中村歌右衛門の蛍火で初演された。

この年は、あの大人気作『潮騒』が発表された年である。

三島由紀夫にとって最高の年になった。

当時まだ29歳である。

 

本作「シネマ歌舞伎 鰯売恋曳網」は、2009年1月(平成21年)のさよなら歌舞伎座で演じた時の映像をスクリーンで鑑賞することができるようにした作品である。

 

この映画の冒頭では、シネマ歌舞伎だけの特別映像として蛍火(ほたるび)を演じた坂東玉三郎氏が、三島歌舞伎としての本作の特徴や猿源氏(さるげんじ)を演じた故中村勘三郎との想い出を語っている。

 

 

三島由紀夫は、幼い頃から祖母に導かれて多くの古典芸能を観ていた。

単に観るだけでなく、どういう構成で、誰が何を演じているのか、事細かに隣に座って祖母が解説したという。

こういう師匠が間近にいたからこそ歌舞伎の戯曲も創り上げる事ができたのだ。

まさに英才教育で、天下の小説家になれたのである。

 

あんな妖怪変化のような事件を起こし、忌まわしい最期を遂げなければ、日本有数の名作家として日本文学界に君臨できたろうに。

まことに残念な最期になった。

 

 

これにて、三島由紀夫原作の映画レビューを終了する。

 

今後は、芥川龍之介、井上靖、山本周五郎を特集する予定。