欧州映画 イタリア 第93作 「夜よ、こんにちは」 マルコ・ベロッキオ監督の名作! | 人生・嵐も晴れもあり!

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「夜よ、こんにちは」

(原題:BUONGIORNO, NOTTE

 

夜よ、こんにちは - 映画情報・レビュー・評価・あらすじ | Filmarks映画

 

「夜よ、こんにちは」 全編 (フランス語)

 

2006年4月29日公開。

イタリアの元首相誘拐暗殺事件を起こした極左集団”赤い旅団“を描いたドラマ。

 

監督・脚本:マルコ・ベロッキオ

 

出演者:

マヤ・サンサ、ルイジ・ロ・カーショ、ロベルト・ヘルリッカ、ピエール・ジョルジョ・ベロッキオ、ジョヴァンニ・カルカーニョ、パオロ・ブリグリア

 

夜よ、こんにちは | あらすじ・内容・スタッフ・キャスト・作品情報 - 映画ナタリー

 

あらすじ:

1978年のローマ。

キアラ(マヤ・サンサ)は、フィアンセと称する男性と共に新しいアパートに移ってくるが、実は彼女たちは地下組織”赤い旅団“のメンバー。

キアラは表向き図書館に勤務しながら、誘拐したモロ元首相(ロベルト・ヘルリツカ)を匿う役割を担っていた。

図書館でキアラは、同僚のエンゾ(パオロ・ブリグリア)と親しくなり、叔父や叔母たちとの会食に、彼と共に出席する。

そこでキアラの兄は”赤い旅団“を支持するが、エンゾは殺人者だと批判発言。

やがて旅団リーダー格のマリアーノ(ルイジ・ロ・カーショ)は、モロに死刑を宣告する。ローマ法王が旅団に対してモロの無条件解放を懇願。

今やキアラは、自分たちの信念が人を殺す権利を有するのか疑問を抱くようになっており、モロの死刑に反対する。

メンバーのエルネスト(ピエール・ジョルジョ・ベロッキオ)も、これでは人々の理解を得られないと処刑に反対。

しかしマリアーノとプリモ(ジョヴァンニ・カルカーニョ)は彼らの意見をはねのける。

そして誘拐から55日後にモロは殺害され、旅団メンバーは逮捕されて終身刑に処せられたという報道が流れるのだった。

 

キアラという女性の映画 『夜よ、こんにちは』 | IndieTokyo

 

コメント:

 

この映画は、イタリアのモロ元首相誘拐暗殺事件を行なった極左武装集団”赤い旅団“の内側を描いた社会派ドラマである。

 

1978年のモロ首相誘拐殺人事件を犯人グループの目から描いた作品。

階級闘争の中での革命を志向する赤い旅団の考え方と、彼らを只の殺人者と非難する政府とマスコミ、そして政党内での勢力争い、とかげの尻尾切りのように見捨てられると自覚してローマ法王に助けを求める首相、といったそれぞれの立場が浮き彫りになるのが興味深い。

 

夜よ、こんにちは : 作品情報 - 映画.com

 

実際にあった事件を題材として、「事実としてあったこと」と、「あり得たかも知れない別の可能性」とを並列して語るというような話は、鬼才・大島渚を思い出すような、ちょっと昔の前衛映画的な手法だとも言えて、新しくて刺激的にことをやっている感じはしない。

しかしその態度は、68年をノスタルジックに語るような一連の作品などよりずっとクールで、過去に対する緊張を失っていない。

さすがは、ベロッキオだ。


素晴らしいのは、空間の造形だ。

「赤い旅団」がモロ首相を監禁するアパートの部屋の構造、その閉じられつつ開かれた不思議な有り様と、そこを出入りする物や人、その描写がとても面白い。

この映画では、そのような空間を造形し、描写することが「事件」を語ることだとみなされているようだ。

 

首相が監禁される最も閉じられた場所と、メンバーたちが生活する空間との間にある、

中間的な狭い空間。

外から内を見るための、閉ざされたドアの覗き穴と、内から外を見る玄関の覗き穴。

外来者が入って来る玄関のドアと、仲間が出入りする駐車場直通のドア、そして、庭へと開かれた窓。

このような、いくつかの段階に分かれて層をなす、閉じられ、かつ、開かれた空間のなかで、閉じ込められた者と閉じ込める者、覗き込む者と覗き込まれる物、外から入って来る者と外へと出ようとする者などが、その複数の仕切り、複数の層を前にそれぞれにうごめき、そこに様々な力が作用し、交錯する。

 

そしてこのような力と運動のせめぎ合いこそが「政治」として表象される。

このせめぎ合いが高い緊張をもって描かれるからこそ、ラスト近くの、首相が嘘のようなあっけなさで表に出られてしまうシーン、そして、街路を歩くシーンが素晴らしいのだ。

 

マルコ・ベロッキオ監督は、多くの作品を世に出したイタリアを代表する監督である。

レイモン・ラディゲの同名小説を大胆な解釈で映画化した『肉体の悪魔』(1986年)や、ベアトリス・ダルが自身を魔女と称す女性を演じた『サバス』(1988年)、日常的な会話を止め、舞台言語だけを話す男を描いた『蝶の夢』(1994年)がその代表作である。

また、1991年には『La Condanna』が第41回ベルリン国際映画祭で審査員グランプリを受賞している。

2000年代からは作風を社会的・政治的なものに戻し、1978年に赤い旅団が起こしたアルド・モーロ元首相の誘拐殺人事件を扱った本作『夜よ、こんにちは』やベニート・ムッソリーニの最初の妻を描いた『愛の勝利を ムッソリーニを愛した女』(2009年)といった作品を発表し、いずれも高い評価を得ている。

 

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