「現代任侠史」
1973年10月27日公開。
抗争から協定への移行を図る現代暴力団の実態の中で、燃える残侠の男の姿を描く。
脚本:橋下忍
監督:石井輝男
キャスト:
- 島谷良一:高倉健
- 仁木克子:梶芽衣子
- エリ:中村英子
- 中川務:成田三樹夫
- 松田初治:郷鍈治
- 船岡健二:夏八木勲
- 関口功:小池朝雄
- 権藤猛:今井健二
- 永井辰吉:内田朝雄
- 大場泰司:林彰太郎
- 文房具屋:沢彰謙
- 大西:有川正治
- 克子の父:北沢彪
- 先生:北村英三
- 宇野:川谷拓三
- 武志:田中邦衛
- 善さん:南利明
- 芸者連れの客:笑福亭仁鶴
- よね:三益愛子
- 湯浅正一:辰巳柳太郎
- 栗田光男:安藤昇
あらすじ:
銀座“寿し銀”の主人・島谷良一(高倉健)は、筋金入りの元松田組の最高幹部であったが、母の死により、約束されていた二代目の地位を捨て、やくざ渡世から足を洗っていた。
良一が去ったあとの松田組は、先代の実子である初治(郷鍈治)が二代目を継ぎ、若者頭である中川(成田三樹夫)、分家の船岡(夏八木勲)といった屈強な若者達で構成されていた。
ある日、大阪の永井組の若者頭・栗田光男(安藤昇)が、縄張りの競争阻止等の連合会結成を提案すべく上京した。
関東懇心会の世話で関口組々長・関口(小池朝雄)が音頭をとり、各組の親分が招集されたが、永井組の関東進出、関口の松田組の縄張り乗っ取りの策略とにらんだ松田は、この提案に反対した。
その頃、南方で戦死した良一の父の遺品である銘刀・備前宗近が米国の博物館に保管されていることが判明し、良一は渡米してその刀を引きとった。
マスコミはこの事を大々的に報道した。
ルポライターの仁木克子(梶芽衣子)もその一人で、克子は良一の律儀な性格に好意以上のものを抱き始めた。
一方、関口の松田に対する挑発が始まった。
抗争を未然に防ごうとする船岡は激しく松田に詰めよった。
窮地に立たされた松田は、ある日、良一に世話になった礼を云い残し、単身関口組へ殴り込み、凄惨な最後を遂げた。
良一は殺気立つ中川を説得し、仲裁に入った栗田は何とか手打ちを行った。
だが栗田は、自分の親分である永井と関口が裏で手を結んでいることを知り、最後の頼みの綱である政界の黒幕・湯浅正一(辰巳柳太郎)のもとへ向かった。
一方、船岡は、自分が松田を死に追いやったことを悔み、勝気な女房・エリ(中村英子)と二名の子分を伴って、永井と関口が密議を行っている神戸へ乗り込んだ。
だが、これは関口が書いた絵図で、東名高速で関口組のダンプに襲われ全員殺されてしまった。
個人の利益しか考えない湯浅の胸中を知った栗田は、死を覚悟のうえで永井と関口に詰めより、一日も早く連合会を実現させ、関口に会長の座を与える代りに、松田組から手を引くように確約を得た。
栗田の力で抗争は終結したと思った良一は、上京する栗田を中川が駅に迎えに行っている間、イキのいい寿しを握っていた。
その時、二発の銃声が良一の手を止めた。
外には絶命した中川、駆けつけた良一の腕の中で栗田は息を引きとった……。
三日後、父の死地であるペリリュウー島から帰国した良一の手には、あの備前宗近と、克子から湯浅の家に永井と関口が一堂に会しているとの電報が握られていた……。
コメント:
高倉健の"新任侠路線"第一弾で、任侠映画10周年記念映画として宣伝された。
高倉健・安藤昇・梶芽衣子の初共演。
1973年の実録路線の抬頭で、岡田茂東映社長が任侠路線を打ち切って、急速に実録路線への転換を進めようとしたため、純"任侠映画"にこだわる俊藤浩滋プロデューサーと揉め、東映のお家騒動が起きた。
結局、表面上の手打ちがなされ、俊藤が東映映画事業部参与・事業部長補佐に就任した。
1973年3月18日に東映本社で、今後の東映の製作方針についての記者会見があり、この席で俊藤参与が「最近の任侠ものはマンネリ化して興行的にも落ち目という噂があるが、これは作り方次第であってもっと明るいものにすれば、まだまだいけると思う。そういう意味では秋には『日本任侠史』(『現代任侠史』、脚本橋本忍)を製作して、同シリーズ(任侠路線)の巻き返しを計りたい」などと話した。
1973年の東映は正月第二弾映画『仁義なき戦い』の予想外の大ヒットで、1973年に当初は全く製作予定のなかった実録映画 、『仁義なき戦い』の続編、『山口組三代目』『実録 私設銀座警察』、安藤組の続編などを、どんどんラインナップに入れ、またそれらのロングランもあり、この1973年に"実録の東映"、というイメージを作り上げたが、この影響で岡田が春先に話していた『実録連合赤軍』など、予定した映画が延期されたり、製作中止された。
しかし本作は公開日に関しては予定通り製作された。
監督の石井輝男は同時期に製作の始まった『海軍横須賀刑務所』で勝新太郎とコンビを組む予定だったが、クランクイン直前に俊藤が石井を訪ねてきて、「高倉があなたと一緒にやりたいと言っているから『現代任侠史』の方に監督を替わってくれ」と石井に言った。石井は勝と仕事をするのに気が乗らなかったため、渡りに船とばかりに橋本忍の脚本もろくに読まずに『現代任侠史』の監督に代わり、『海軍横須賀刑務所』の監督は山下耕作になった。
安藤昇は『網走番外地 吹雪の斗争』で石井監督と揉め、帰ったことがあったが、嵐寛寿郎が「安藤はええ男ですから」と盛んに推薦するので、石井の方から「出てください」と安藤に頼み、安藤は気持ちよく出演を快諾し、以降は仲良しになったという。
高倉健と安藤昇は四作品で共演済みだが、梶芽衣子は二人とは初共演。
梶は当たり役「女囚さそりシリーズ」でブレイク直後だったが、ハミ出した女性像を演じたさそりとは一転、短大卒のルポライター役で、女優としてさらにひと回り大きくなれるか試金石と見られた。
あまりの方向転換に梶は、「何だか初めて映画に出る感じ。お二人の間に入ると緊張でヒザがガクガクします」と話した。
それはそうだろう。
高倉健は邦画界トップの役者であり、雲の上の存在だ。
安藤昇も元ヤクザの親分だった本物の極道であり、すでに俳優に転向して何本も主役をつとめた東映の重鎮だ。
ラストシーンは任侠物の定番であるが、それまでのストーリーが現代を舞台にしていて、梶芽衣子が共演している。
これがラブストーリーを成立させている。
しかも抑えた演技である。
梶芽衣子は、さそりとは一転、短大卒の女性ルポライターという役で出演。
大物相手の演技には相当緊張しただろう。
彼女の「行かないで!」は印象に残る熱演だった。
しかし、梶芽衣子の本心は、高倉健との共演は嬉しいが、藤純子のような殺陣がやれる作品に出たかっただろう。
共演する安藤昇、郷英治、成田三樹夫、小池朝雄、内田朝雄らも、それぞれの役にはまっている。
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