「遙かなる山の呼び声」
1980年3月15日公開。
高倉健と倍賞千恵子の共演作。
配給収入:6.1億円。
受賞歴:
- モントリオール世界映画祭(1980年)
- 審査員特別賞
- 第35回毎日映画コンクール(1980年)
- 日本映画優秀賞
- 女優演技賞(倍賞千恵子)
- 第4回日本アカデミー賞(1981年)
- 最優秀脚本賞(朝間義隆・山田洋次)
- 最優秀主演男優賞(高倉健)
- 最優秀主演女優賞(倍賞千恵子)
- 最優秀音楽賞(佐藤勝)
- 優秀作品賞
- 優秀監督賞(山田洋次)
- 優秀録音賞(中村寛)
脚本:山田洋次・朝間義隆
監督:山田洋次
キャスト:
- 田島耕作:高倉健
- 風見民子:倍賞千恵子
- 風見武志:吉岡秀隆
- 勝男(民子の従弟):武田鉄矢
- 佳代子(勝男の新妻):木ノ葉のこ
- 田島駿一郎(耕作の実兄):鈴木瑞穂
- 隣家の主婦:杉山とく子
- 護送員:下川辰平
- 福士:小野泰次郎
- 刑事:園田裕久
- 刑事:青木卓司
- 虻田三郎:粟津號
- 虻田次郎:神母英郎
- ひとみ:大竹恵
- 護送員:笠井一彦
- 乗客:篠原靖夫
- 隣家の主婦の亭主:土田桂司
- 弔問客:高木信夫
- 住民::入江正夫
- 虻田太郎(北海料理「オホーツク」社長):ハナ肇
- 近藤(人工授精師):渥美清 特別出演
- 獣医:畑正憲
あらすじ:
北海道東部に広がる根釧原野にある酪農の町・中標津。
風見民子(倍賞千恵子)は一人息子の武志(吉岡秀隆)を育てながら亡夫の残した土地で牛飼いをしている。
激しい雨の降るある春の夜、突然一人の男が民子の家を訪れ、一晩泊めてほしいという。
民子は気持ちが悪いと思いながらも、納屋に泊めてやった。
するとその夜半に、牛が産気づいた。
男はお産をを手伝うと、翌朝、礼を言って去って行った。
夏のある日、その男がまたやってきて、ここで働かせてくれという。
隣家の娘ひとみが手伝ってくれるが、男手のない民子はその男を雇うことにする。
田島耕作(高倉健)と名乗るその男はその日から納屋に寝泊まりして働きだした。
息子の武志は、黙々と働く耕作にすぐになついていった。
近所で北海料理店を経営する虻田(ハナ肇)は、前から民子に惚れていて、ある日、力ずくで彼女をモノにしようとするが、耕作に止められた。
怒った虻田は弟二人と共に、耕作に決闘を挑むが、簡単にやられてしまい、それからは、耕作を兄貴と慕うようになる。
ある日、民子が腰痛を訴え、入院することになった。
武志は寂しさから、耕作と一緒に納屋に寝るようになった。
その後、耕作の兄がやってくる。
耕作は、ある事件で警察に追われていたのだ。
弟がが起こしたその事件で、兄は教職を追われていたが、耕作の行く末を心配して会いに来たのだ。
そして、耕作は、いつまでも逃げているわけにはいかないぞと兄から説得された。
その夜、兄の持ってきてくれたコーヒーを飲みながら、耕作は民子にここにとどまってもいいと胸の内を明かした。
季節は秋に変り、土地の人達が待ちこがれる草競馬の時期となった。
耕作も民子の馬で出場し、見事、一着でゴールイン。
興奮する民子、武志、観客たち。
だが、その中に、刑事たちの姿があった。
刑事の質問にシラを切った耕作だが、その夜、民子にすべてを打ち明けた。
耕作は二年前、妻が高利の金を借りて自殺し、葬儀の席で変えを返せと悪し様に言う高利貸を殴り殺し、その後逃げ回っていたのだった。
そして耕作は、明日朝家を出ていくという。
そんな耕作を民子は止めるすべもなかった。
夜更けに耕作が民子の家の戸をたたいた。ある決意をもって戸を開けた民子。だが、耕作は牛のぐあいが悪くなったと知らせにきたのだ。
徹夜で牛の看病をした朝、耕作は家の前にとまったパトカーに向かって自分から歩いていった。
その冬、網走に向う列車の中には四年の刑を言い渡され、刑務所に護送される耕作の姿があった。
美幌の駅で民子が虻田とともに列車に乗り込んできた。
そして、民子が今は町に出て耕作の出所を待つために武志と新しい生活を始めたことを告げるのだった。
これを黙って聞いた耕作は涙を抑えられなかった。
夕焼けに染った雄大な雪原を耕作を乗せた列車が行く。
コメント:
「幸せの黄色いハンカチ」に続く、北海道を舞台にしたヒューマンドラマである。
高倉健と倍賞千恵子の演技力は素晴らしい。
高倉健の乗馬シーンは、雄大ですがすがしい北海道の大地で輝いている。
さすが、「網走番外地」などで完ぺきに乗馬をマスターしているだけあって、競馬の騎手にもなれる。
さらに民子の息子・武志に、男の生きざまを毎日の仕事を通して教える父親のような姿勢にはグッと惹かれるものがある。
倍賞千恵子が、高倉健が最後に出て行くシーンで「行かないで・・、寂しい・・」とすがりつくシーンは涙を誘う。
さらに、高倉健が護送されて行く列車で、倍賞千恵子が出所まで待っていることを伝えられて涙するシーンは、この映画のクライマックスだ。
別れの辛さではなく、二人の未来がはっきりと約束される安堵と喜びの涙なのだ。
これまでの健さんのヤクザシリーズとは異なるヒューマン映画となっている。
この映画は、ヴィクター・ヤングによる名作映画『シェーン』の主題曲の邦題「遙かなる山の呼び声」(原題:The Call of the Faraway Hills)から着想を得て制作された一種のオマージュ作品といわれている。
たしかに北海道の広い大地での放牧シーンなどは、シェーンのイメージがある。
当初牧場所有者は、零細酪農家を取り上げた作品ということでロケ地提供を渋っていたようだが、倍賞との交流を通じて承諾したという。
倍賞はその後、毎年の半分をこの牧場で私的に過ごすようになった。
彼女の人生にも影響を与えた作品だ。
倍賞千恵子が扮する民子の息子・武志には、吉岡秀隆。
この俳優は、当時10才。
3年前に『八つ墓村』の主人公寺田辰弥の少年時代役を演じたのがきっかけで映画界に登場し、2作目が本作となった。
山田洋次のお眼鏡に叶い、翌年からはずっと『男はつらいよ』シリーズに倍賞千恵子の息子・満男を演じ続けることとなる。
本作は、山田洋次監督が描いた、高倉健主演作品として記念すべき作品だ。
山田洋次と言えば、「男はつらいよ」シリーズをはじめとする喜劇映画が得意とされていたが、東映の任侠映画のトップだった高倉健を起用したこんな人情味豊かな作品も作れることは驚きだ。
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