「地震列島」
1980年8月30日公開。
首都直下型地震を題材としたパニック映画。
いつ来るのか東京を襲う地震。
キャッチコピー:「これだけは神ですら止められない」「いつか来るとは知っていたが 今日、来るとは知らなかった!」
脚本:新藤兼人
監督:大森健次郎
キャスト:
- 川津陽一:勝野洋
- 橋詰雅之:永島敏行
- 芦田富子:多岐川裕美
- 川津裕子:松尾嘉代
- 梅島一枝:松原千明
- 官房長官:佐藤慶
- 芦田浩蔵:松村達雄
- 川津房江:村瀬幸子
- 統幕議長:鈴木瑞穂
- 中年のサラリーマン:滝田裕介
- 中年の女:小林トシ江
- ヒゲ:草野大悟
- 地下鉄の運転手:伊藤敏孝
- 国土庁長官:稲葉義男
- 一之江教授:加藤和夫
- 志村教授:浜田寅彦
- 気象庁観測部長:草薙幸二郎
- 林地震課長:山本清
- 初老の紳士:永井玄哉
- 伊藤教授:早川純一
- 助川象三:三木のり平
- 渡辺教授:岡田英次
- 丸茂教授:大滝秀治
- 気象庁長官:山崎努(特別出演)
- 内閣総理大臣:佐分利信
あらすじ:
三原山火口で溶岩を観測する地震学者の川津陽一(勝野洋)は、近い将来、大地震が東京を襲うと直感する。
東海地震予知の月例会。
陽一は観測データの異常性を訴えるが、学者たちは消極的で、防火対策は政府の仕事で、学者の職域ではないと取り合わない。
遂に彼は三十日以内に直下型地震が東京を襲うと暴言を吐き、丸茂会長(大滝秀治)に撤回を求められ、孤立していく。
そんな陽一の心を癒してくれるのは、研究所の所員・芦田富子(多岐川裕美)だ。
陽一は地震の権威である故・川津宗近の娘・裕子(松尾嘉代)と結婚していたが、二人の間はすでに冷えていた。
ルポライターの橋詰雅之(永島敏行)とカメラマンの梅島一枝(松原千明)は各地の異常な自然現象を取材していた。
雅之は富子と同郷で彼女を密かに愛している。
また、一枝も雅之に思いを寄せていた。
燃えない車の開発、トンネル内での火災避難実験など陽一の行動はエスカレート。
雅之は、富子のことがシコリとなっていたが、陽一の行動に関心を抱き、キャンペーンを展開する。
政界、財界が集うゴルフ大会の日、首相が「東京を震度七の地震が襲ったらどうなる」と丸茂に質問。
背後にいた陽一は「東京は世界一の無防備都市です」と答えてしまう。
この発言で、陽一はますます孤立、研究所は閉鎖されてしまう。
ある夜、陽一は別れを告げる富子に、逆に結婚を申し込む。
熱いキスを交す二人。
数日後、渋谷の料亭で陽一と裕子の離婚の話し合いが行なわれることになった。
地下鉄で料亭に向かう陽一と裕子。
部屋で仕度する富子。
富子に結婚を思い留めさせようと彼女のマンションのエレベーターに乗った雅之。
出張帰りで羽田に向かうジャンボ機に乗っている丸茂。
そこへ、震度7の地震が襲ってきた。
急ブレーキをかける地下鉄。
将棋倒しの乗客。
血と悲鳴と死の地獄と化した地下に、東京湾の海水が濁流となって流れ込み、さらに炎と煙が襲う。
地上では、高速道路が崩れ、自動車が炎上。
富子は崩壊するマンションの部屋に閉じ込められてしまう。
そのとき、宙づりのエレベーターから脱出した雅之は富子を救出する。
一方、陽一も、冷静な判断で乗客たちを誘導する。
天災は止めることは出来ない。
しかし、人間の愛と勇気と英知によってその被害を最小限にくい止めることが出来ることを、二人の行動は証明したのだ。
コメント:
大地震に襲われる東京。
再三に渡って地震を予告していた若き地震学者の勇気ある行動を描く。
本作品の製作当時、大規模地震対策特別措置法の施行による地震防災対策強化地域の指定や、同法による警戒宣言時措置の発表などにより、東海地震の発生が現実味を帯びていた。
これらの世論の動きに加え、1970年代の『日本沈没』、『ノストラダムスの大予言』など東宝特撮におけるパニック映画の路線を継承し、かつ『大地震』や『ポセイドン・アドベンチャー』などのアメリカのパニック映画に見られる男女の恋愛を加味した作品として製作された。
準備稿では、登場人物はいずれも背徳的に描かれており、被災するのは神罰というニュアンスが込められていた。
この映画は、『東京大地震マグニチュード8.1』 という、よみうりテレビ・東宝映像制作のテレビドラマを参考にされたという。
このドラマは、主演・千葉真一、監督・西村潔によるもので、1980年4月17日に木曜ゴールデンドラマで放送された。
裏番組には人気が高い歌番組『ザ・ベストテン』と競合していたものの、視聴率18.3パーセントを記録した。
そこで、映画でもヒットするだろうと期待して作られたのがこの映画のようだが、予想に反して大コケとなった失敗作だ。
とにかく、この映画は、知名度のある俳優を出来るだけ多く集めただけで、何の工夫もしていない。
山崎努も、気象庁長官役で出演しているが、目立つシーンはゼロ。
ほかにも、 佐分利信、 佐藤慶、 鈴木瑞穂、岡田英次、 三木のり平、 大滝秀治などの名優を採用しているが、全く無意味だ。
俳優の無駄遣いの典型的な例だ。
防災意識を高めたいというのは口先だけで、具体的にはどうすればいいのかはさっばり描かれない映画。
道路を拡げろとは言うが、今更東京でそれは不可能だろう。
スペクタクルは後半に任せ、前半はとにかく不倫ドラマで押し通す。
後半でいよいよ地震発生。
地震シークエンスとなるが、閉じ込められた地下鉄車両と、富子の部屋のみで進行するので、スペクタクル感は希薄。
町全体の被害の描写は少なめでほとんど印象に残らない。
地下鉄での人間のエゴはたった一人の人物のみに集約され、現実感ゼロ。
多岐川裕美扮するヒロイン・富子は部屋で延々とのたうち回っているだけ。
感情を煽ろうとする演出も、無駄に長いだけで退屈。
大変なのはこれからなのに、あんな終わり方でいいのだろうか。
きれいな歌が流れるエンドクレジットも力が抜ける。
これで脚本が新藤兼人だと知り、唖然。
こういうパニック映画は、巨匠・新藤兼人でもこれまで経験ゼロ。
なぜ安易に脚本を引き受けたのか。
新藤兼人生涯の恥だ。
監督をつとめたのが、大森健次郎というほとんど無名の人物。
調べてみると、黒澤明などの監督の下で助監督の経験はあったらしいが、監督作品は本作を含め3作程度。
パニック映画の経験はゼロ。
地下鉄のトンネル崩壊と水の流入による構内水没シーンは地下鉄銀座線・丸ノ内線赤坂見附駅周辺が舞台として使われ、撮影には製作費1000万円の実物大車輌と2000万円の駅構内セットが特撮大プールに設けられた。
しかし、この描写に対して営団地下鉄(現・東京メトロ)から「耐震構造は基準を充足しており、あのような事態は起こり得ない」と大クレームがついた。
トンネルに水を流す撮影では、水落としが途中で故障し、スクリプターが流されていたというお粗末な映像になっているようだ。
それでも本作を観てみたい方は、TSUTAYAでレンタル可能: