「ドクトル・マブゼ 」
(Dr. Mabuse, der Spieler - Ein Bild der Zeit)
「ドクトル・マブゼ」 前編(英語字幕付き)
「ドクトル・マブゼ」 後編(英語字幕付き)
1922年5月27日ドイツ公開。
日本未公開。
戦前ドイツ映画の最高傑作の一つ。
サイレント映画。
全4時間30分。
監督・脚本:フリッツ・ラング
出演者:
犯罪者マブゼ:ルドルフ・クライン=ロッゲ
署長ドゥ・ウィット:ベルンハルト・ゲッケ
エドガー・ハル:パウル・リヒター
カーラ・カロッツァ:アウド・エゲーデ=ニッセン
あらすじ:
第1部
物語は、変装の名人で催眠術に長じた恐るべき犯罪者マブゼ(ルドルフ・クライン=ロッゲ)が部下に指令を発し、列車内で乗客の1人を絞め殺し、ドイツースイス間の経済協定書を奪わせる、という事件から始まる。
協定書を失ったドイツでは株価が暴落する。
暴落した株を買い占めた後、マブゼは協定書を当局に提出し、再び高騰した株を売り払い大儲けする。
続いて彼は酔いどれ庶民に変装して貧民街に現れ、一軒の家の地下室へ入り込む。
そこは彼のアジトを兼ねた印刷工場で、視覚障害者たちを使って莫大な贋紙幣を造っている。
そして、さらにカジノに現れ、カードのいかさまで一稼ぎする。
マブゼにはカーラ・カロッツァ(アウド・エゲーテ・ニッセン)という踊り子の情婦がいる。
フォーリー・ベルジェールのボックス席に現れたマブゼは、彼女のセクシーな踊りには目もくれず、双眼鏡で客席を物色し、ほかのボックス席にいた大富豪の息子エドガー・ハル(パウル・リヒター)に眼をつける。
ショーが終わると彼に話しかけてクラブに連れ込み、一晩のうちに大金を巻き上げるが、さらに彼の財産をしぼりとろうと、カーラを色仕掛けで接近させる。
不正賭博の調査を始めたフォン・ヴェンク(ベルンハルト・ゲッツケ)はハルを訪れて事情を聞く。
ハルに招かれたカーラはフォン・ヴェンクが来たことを知り、マブゼに報告する。
フォン・ヴェンクは賭博に関係あるマブゼという人物の正体をつかもうと変装して賭博場に出入りする。
そして、白髪の老人が変装したマブゼであることを見破り、自動車で逃げる彼を追跡するが、マブゼはエクセルシオール・ホテルに入り、巧みに行方をくらます。
あきらめて帰ろうと自動車に乗ったフォン・ヴェンクは、マブゼの部下に麻酔ガスをかがされ、意識不明になったところをボートに運ばれ海に流される。
しかし幸運にも発見され救われる。
カーラはハルを訪れたとき、マブゼからの連絡の手紙を落とすが気がつかない。
それを拾って読んだハルはフォン・ヴェンクに通報する。
そして彼女に誘われるままに秘密クラブに出かける。
そこには変装したフォン・ヴェンクが入り込んでおり、彼の連絡で警官隊が押し寄せ、カーラを逮捕する。
怒ったマブゼはハルを殺してしまう。
次の犠牲者はトルド伯爵(アルフレッド・アベル)である。
マブゼは彼に催眠術をかけ豪華なカジノでいかさまカードをやらせる。
しかし、相手に見破られ、友人たちは彼に怒りと侮蔑の言葉を投げつけて去っていく。
その様子を見ていた伯爵夫人(ゲルトルート・ヴェルカー)はショックで失神する。
かねて彼女に心を寄せていたマブゼは、このチャンスを逃さず、彼女をさらって今までカーラを住まわせていた隠れ家に監禁、お前はおれのものだとうそぶく。
第2部
翌日、フォン・ヴェンクを訪れたトルド伯爵は自分の意志でなく、いかさまカードをやった事情を説明し、フォン・ヴェンクにすすめられ精神分析医に連絡する。
これが実はマブゼで、トルド伯爵の邸を訪れた彼は、治療のため。誰にも会うなと命ずる。
経過を知ろうと電話をかけてきたフォン・ヴェンクは召使いから伯爵夫妻が不在と言われ疑念を抱く。
一方、留置場から刑務所に移されたカーラはフォン・ヴェンクの説得でマブゼの罪状を告白しかける。
マブゼは彼女を催眠術にかけ、部下に持ち込ませた毒薬で自殺をさせてしまう。
その上フォン・ヴェンクも爆弾で殺そうとするが、仕事に当たった部下が失敗して捕まると、護送される途中、その部下をも射殺する。
マブゼは治療と見せかけてトルド伯爵に催眠術をかけ続け、ついに精神錯乱状態に追い込み、剃刀で自殺させる。
そして、フォン・ヴェンクを訪れ、伯爵のいかさまカードと自殺はヴェルトマン博士という催眠術師の仕業だから博士のショーを見に行ったほうがいいと提言する。
そのショーに出かけたフォン・ヴェンクは、ヴェルトマン博士がマブゼの変装を見破るが、催眠術にかけられてしまい、自動車をフルスピードで断崖に走らせるがあわや墜落という瞬間、追ってきた部下たちに救われる。
いまやマブゼの正体をつかんだフォン・ヴェンクは警官を動員して一味の掃討を開始する。
抵抗する部下たちは次々と射殺され、マブゼは伯爵夫人を連れて逃げようとするが抵抗され、やむなく彼女を残して、ただひとり下水道に入り、貧民街の地下室にある印刷工場にたどり着く。
しかし、鍵を落としたので地上へ出られない。
そこへ警官隊が押し寄せてくる。
マブゼは贋紙幣の山に埋まって発狂する。
コメント:
第一次大戦直後のドイツで制作された最高作品とされている。
監督・脚本は、巨匠・フリッツ・ラング。
この人は、オーストリア出身の映画監督。父母ともにカトリックだが、母はユダヤ教からの改宗者だった。
トレードマークの片眼鏡でも知られる。
サイレントからトーキー初期のドイツ映画を代表する監督である。
のちにハリウッドに進出し、『激怒』(1936年)、『暗黒街の弾痕』(1937年)、『死刑執行人もまた死す』(1943年)、『飾窓の女』(1944年)など、フィルム・ノワールの系統を主とした多くの作品を残した。
本作は、1922年度に於けるドイツ映画の最大傑作として名声をほしいままにした映画である。
表現派的色彩が装飾等に所々表れるが、表現派映画ではないとされている。
「ベルリン絵入新聞」に掲載せられたノルベルト・ジャック氏の小説を、名監督として定評あるフリッツ・ラング氏が監督大成したものである。
深刻、凄惨、波乱、催眠術、活劇、色々な事件が織り込まれた探偵劇。
(無声、全二篇)
変装の名人マブゼを刑事らが追跡するというこの作品は、1910年代からフランスで人気を博していた『ファントマ』などのシリーズを強く意識し、ドイツ流の娯楽活劇を確立することをめざして作られている。
この映画は、今ならYouTubeで全編無料視聴可能。
この映画は、TSUTAYAでレンタルも購入も可能:
なお、本作の以前にフランスで制作されて大人気になった『ファントマ』の第1作はこちら。
このようなフランスのサイレント作品にドイツが大いに刺激されたことは間違いない。
英語の字幕付きで、映像は鮮明だ: