「夫婦」
1953年1月22日公開。
女性映画の天才・成瀬巳喜男監督による夫婦の物語。
脚本:井手俊郎、 水木洋子
監督:成瀬巳喜男
キャスト:
- 中原伊作:上原謙
- 中原菊子:杉葉子
- 武村良太:三國連太郎
- 早川茂吉:小林桂樹
- 早川直吉:藤原釜足
- 早川たか:滝花久子
- 早川久美子:岡田茉莉子
- 三島波子:豊島美智子
- 藤野ミエ子:木匠マユリ
- 野田アヤ:田代百合子
- 緒方とり:三好栄子
- 横山房子:三條利喜江
- 赤松夫人:中北千枝子
- 三島:鳥羽陽之助
- 菊子の伯父:中村是好
- 菊子の伯母:本間文子
- 課長:龍岡晋
- 耳の遠い老人:高堂国典
- 佐藤守夫:井上大助
- 佐藤藤五郎:谷晃
- 佐藤とよ:出雲八重子
あらすじ:
東京郊外の新開地に「はや川」という鰻のかば焼きと佃煮類の店を開いている早川直吉(藤原釜足)一家。
長女菊子(杉葉子)は地方のある電気商会のサラリーマン中原伊作(上原謙)に嫁し、長男茂吉(小林桂樹)と次女久美子(岡田茉莉子)が店を手伝っていた。
茂吉は最近結婚することになっていた。
そこへ菊子夫妻が東京へ転勤になり上京して来た。
そして貸間探しに苦労の末、伊作の同僚で妻を失った武村良太(三國連太郎)の家へ同居させて貰うことになった。
結婚生活六年で子供もない菊子は、生活の覇気を失いかけた良人に不満を覚えることもあった。
一方、妻を失った武村の食事や身のまわりの世話をまめまめしくする妻の姿に、伊作は淡いねたみを感じることもあった。
そんなことから二人の間の冷い溝は深まるばかりだったが、その間に茂吉の結婚があり、その新妻波子の世話で新しく二階借りをして伊作と菊子は久しぶりで二人切りの生活にはいった。
だが、思いがけなく菊子は妊娠したという。
生活は楽でない上、折角の間借りは子供のないことが条件だった。
妊娠中絶のため医者へ行った菊子だが、伊作は夫としての苛責でそのあとを追おうとしたとき、菊子も子供を思いあきらめられず、ひきかえして来た。
このときはじめて伊作と菊子とは、お互いにこれまでにない愛情がにじみ出て来るのを感じたのであった。
コメント:
名匠・成瀬巳喜男監督による夫婦の生き方を描いた作品。
主人公夫婦が間借りすることになった家での些細なすれ違いをきっかけに離婚寸前にまで追い込まれてしまう小さな事件を、成瀬監督らしく穏やかで静かでユーモアを忘れず、さりげなくテクニックを用いてお客を飽きさせない職人技に唸らされる佳作である。
ラストに、吹き荒れる北風という日常で見かける何てことのない風景を人生の岐路に立たされた夫婦の心情に重ね合わせドラマティックに盛り上げた手腕もお見事。
主人公夫婦が間借りした家の男性によって波風がたつ展開を、日常の出来事を交えながら巧みに展開していく脚本(水木洋子と井手俊郎の共作)の上手さにも舌を巻く。
特に出張から帰って来たものの仕事で深夜まで駆けずり回りしかもそこで着ているコートを小馬鹿にされた夫がようやく帰ってくると、妻の実家の人たちが妻たちと楽しく話をしていたり風呂がまだ炊かれていなかったりと、些細な苛立ちが積み重なりついには妻に当たる展開は誰しも共感できるはず。
当初は妻の役には『めし』と同じく原節子が演じるはずだったが、病気のため杉葉子が抜擢されたようだ。
しかし理知的な彼女のキャラクターが旦那の言うことに敢然と反論する奥さんの役にハマっていて、夫婦の価値観が戦前とは違ってきたことを示すことに成功している。
特に夫に不満をぶちまけるときの怒りつつも理路整然とした言い方をする様子は新しい夫婦の世界を如実に示していた。
夫役の上原謙の、やる気がないのんびりとした中に微妙な感情が示される演技も最高。
やはり上原謙という俳優は昭和のトップスターだった。
間借りする家の男性を演じる三國連太郎の色々な女性にモテるのも納得なイケメンっぷりと、時にはユーモアを、時には繊細に振る舞う演技も憎いくらい上手い。
特に自分のことで仲たがいした夫婦に気を遣って、真夜中に知り合いの将棋仲間の家に行くシーンは腹を抱えて笑ってしまう。
そしてこうした軽妙な演技は三國連太郎ならではのものだ。
デビュー3年目の岡田茉莉子の初々しさも微笑ましい。
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