佐藤浩市の映画 「あ、春」 死んだはずの父親が突然現れて! 佐藤浩市主演! | 人生・嵐も晴れもあり!

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「あ、春」

 

 

「あ、春」 プレビュー

 

1998年12月19日公開。

死んだはずの父親が突然現れて巻き起こるコメディ。

 

受賞歴・順位:

  • 第49回ベルリン国際映画祭国際批評家連盟賞
  • キネマ旬報ベスト・テン
    • ベストワン(第1位)
    • 助演女優賞 - 富司純子
  • 第53回毎日映画コンクール
    • 助演女優賞 - 余貴美子
    • 脚本賞 - 中島丈博
  • 第41回ブルーリボン賞・助演女優賞 - 余貴美子
  • 第24回報知映画賞
    • 主演男優賞 - 三浦友和
    • 助演女優賞 - 富司純子

 

原作 : 村上政彦 「ナイスボール」

脚本 : 中島丈博

監督 : 相米慎二

出演者:

佐藤浩市、斉藤由貴、山崎努、藤村志保、富司純子、三浦友和、余貴美子、三林京子、岡田慶太、村田雄浩、原知佐子、笑福亭鶴瓶、塚本晋也、河合美智子、寺田農、木下ほうか

 

 

あらすじ:

一流大学を出て証券会社に入社、良家のお嬢様・瑞穂(斉藤由貴)と逆玉結婚して可愛いひとり息子にも恵まれた韮崎紘(佐藤浩市)。

彼は、自分は幼い時に父親と死に別れたという母親の言葉をずっと信じて生きてきた。

ところがある日、彼の前に父親だと名乗る男が現れたのである。

ほとんど浮浪者としか見えないその男・笹一(山崎努)を、にわかには父親だと信じられない紘。

だが、笹一が喋る内容は、何かと紘の記憶と符合する。

しかも、実家の母親・公代(富司純子)に相談すると、笹一はどうしようもない男で、彼女は彼を死んだものと思うようにしていたと言うではないか。

笹一が父親だと知った紘は、むげに彼を追い出すわけにもいかず、同居する妻の母親(藤村志保)に遠慮しながらも、笹一を家に置くことにした。

しかし、笹一は昼間から酒を喰らうわ、幼い息子にちんちろりんを教えるわ、義母の風呂を覗くわで紘に迷惑をかけてばかり。

ついに堪忍袋の緒が切れた紘は笹一を追い出すが、数日後、笹一が酔ったサラリーマンに暴力を振るわれているのを助けたことから、再び家に連れ帰ってしまう。

図々しい笹一はそれからも悪びれる風もなく、ただでさえ倒産が囁かれる会社が心配でならない紘の気持ちは、休まることがない。

そんなある日、笹一の振る舞いを見かねた紘の母が来て、紘は笹一との子ではなく、自分が浮気してできた子供だ、と告白する。

その話に身に覚えのある笹一は、あっさりその事実を認めるが、紘の心中は複雑だ。

ところが、その途端に笹一が倒れてしまう。

病院の診断では、末期の肝硬変。

笹一は入院生活を強いられ、彼を見舞う紘は、幼い頃に覚えた船乗りの歌を笹一が歌っているのを聞いて、彼が自分の父親にちがいない、と思うのだった。

しばらくして、ついに紘の会社が倒産した。

しかし、今の紘には、笹一のように強く生きていける自信がある。

そしてその日、笹一が息を引き取った。

紘は死に目に会うことは叶わなかったが、笹一のおなかに、彼がこっそり温めて孵化したチャボのひなを見つける。

数日後、笹一の遺体を荼毘に付した紘たち家族は、彼の遺灰を故郷の海に撒くのだった。

 

 

コメント:

 

第49回ベルリン国際映画祭国際批評家連盟賞受賞、キネマ旬報ベスト・テン第1位の作品。

予想不可能なストーリーが展開する異色のファミリー・コメディだ。

 

あり得ない話が不連続に出来する映画。

一流大学を出て証券会社に入社、良家の美しい娘と結婚し、妻の実家にかわいい息子とともに寝起きしている。

"自分は順調な人生を進んでいる" 

主人公は、心からそう思っていた。

ところが、死んだと聞かされていた父親が突然現れ、彼の人生を狂わし始める。

このオヤジが、ずうずうしく息子の家に居座る。

勝手気ままに昼間から酒を飲む。

孫に博奕を教える。

妻の母親の風呂を覗く。

こんな破天荒な行動をする父。

 

母に話すと、母はあっさりこの男の存在を認める。

だが母は、「息子・紘は、実はあなたとの子ではなく、自分が浮気してできた子供だ」と、夫だったその男に告白する。

それを聞いた父は、遺骸にも納得するというあり得ない展開。

そして、この男は最後に肝硬変で死んでしまうが、おなかにこっそり温めて孵化したチャボのひながいたという。

 

全く無軌道でつまらないストーリーに見えなくもないが、これを映像化すると、何とも言えない、暖かで心休まる不思議な印象だけが心に残るという摩訶不思議な映画になっている。

これは、異才の作家・村上政彦の 「ナイスボール」という小説を原作にしているのだ。

この小説にある、20年振りに姿を現す死んだはずの父親がもたらす生と死の認識の新たな表現がすごい。

そして、そのモチーフを大切にして作り上げたのが、この「あ、春」なのだ。

 

ポイントはこのタイトルだ。

「あ、春」というなんともとぼけた題名が意味するものは何か。

おそらく、人生は常に順風満帆ではない。

荒らしのような日々もある。

だが、ほっこりできる日も必ずまた来るのだ。

ということを、コメディタッチのストーリーの中にさりげなく告げたかったのではないだろうか。

 

本作を演出した相米慎二監督は、この映画の公開から3年後に53歳の若さで亡くなってしまう。

この監督は、「翔んだカップル」で 1980年にデビュー後、「セーラー服と機関銃 」(1981年)で一躍有名になり、その後も「ションベン・ライダー 」(1983年)、「魚影の群れ」 (1983年)など多くの記念すべき作品を製作した名匠であった。

 

主人公を演じている佐藤浩市は、自身が子供の頃からずっとテテ親無しの母子家庭で育ち、成人後にいっぱしの俳優となってから、父親の三國連太郎と再会している。

本作は正にそんな人生を歩んできたこの俳優にピッタリである。

 

こういう映画は、おそらく平成の時代を生きてきた若い人たちにはすぐ理解できないかも知れない。

だが、「令和」の時代となり、新型コロナという新たな世界レベルでの難敵が現れた今日においては、この作品が言いたかった意味を考えるべきだろう。

目先の幸運だけを追い求めるのが人生ではない。

人生における幸不幸と自分の生き方を見直すきっかけになるのではないか。

 

 

失踪していた男・笹一を演じる山崎努の存在感がハンパない。

破天荒な役をやったら最高だという俳優が映画界には何人かいるが、やはり山崎努がトップだろう。

本作のようにぶっ飛んだジジイを演じるのは、山崎本人にとっても快感だったろう。

好きなことだけをやって、死んでゆくという、まさに昔の男の生き様を演じ切っている。

現代には生きていて欲しくないタイプの老人だが、その生き方の中に、我々が忘れているものがあるのだ。

それを見せつけてくれる最高の作品なのだ。

 

本作公開の頃は、53歳になっていた富司純子。

もうすっかり昔の「緋牡丹のお竜」のおもかげは無くなり、上品で落ち着いた美しい中年女性になっている。

このコメディでも、決して気張らず、軽やかに中高年の女性の人生を演じている。

 

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